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日だまりの丘  作者: こまこ
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02

暖かい日差しが降り注いで、ああ春だなあと思う。

桜はこの前の土日がピークで、もうはらはらと散り始めてきている。道路に落ちた花びらがびしりと敷き詰められ、ピンクの絨毯みたいだ。辺りに桜の匂いが香って、桜餅が食べたくなる。

ぽかぽか陽気に誘われて、さっき起きたばかりだというのに、また眠くなってきた。お花畑でお昼寝でもしたい。


世間はゴールデンウィークという名目で堂々と休みを満喫している人がどれだけ多いことだろう。

天気も良いし、絶好のお出かけ日和だ。朝見た天気予報によれば、これから数日間は晴れが続くらしい。旅行予定の人は大喜びしていることだろう。

残念ながら、高校三年生となってしまった私は、一月に控える受験のための補習がある。それは午後からだけれど、天気が良いのに何となく家にこもっていたくなくて、早めに家を出た。

そんな私の左手には、コンビニで買ったおにぎりが二つと紙パックのお茶一本。公園に行って食べて、ピクニックに行ったつもりにでもなろう。

そう思って、近くの公園へと足を運んだ。


公園には、着いたときには家族連れが二組と小学生が数人遊んでいたけれど、お昼が近くなるとあっという間にいなくなって、とうとう私一人になってしまった。

誰もいない公園で、一人ベンチに座る。うーんと伸びをしながら空を仰ぐと、青い空で鯉のぼりが泳いでいるのが見えた。気持ちが良さそうで、私も一緒に泳ぎたいなあなんて思いながらそのまま空と鯉のぼりを見つめ続ける。


空を見るのは好きだ。自然の大きさと包み込むような優しさに、自分がどれだけちっぽけであるかを実感して、悩んでいたことが吹き飛ぶ・・・まではいかないけれど、気にしていたことが些細なことに思えて、気持ちが落ち着いてくるから。

それに、大丈夫だよって言われているような、そんな安心感を感じるんだよね。


そうやってしばらく空を見ていたら、なぜだか涙が出そうになって、パチンパチンと頬を叩いた。

いけないいけない。受験、受験で疲れているんだ、きっと。


「そろそろ行こう」


時計を見ると、針が12時45分を指していた。思ったより長居をしてしまったらしい。子どもたちの様子をぼんやり眺めていた時間が意外と長かったのかもしれない。

空になった紙パックとおにぎりの包み紙を袋に入れて、鞄に仕舞う。


そのまま公園を出ようとして、ふと目に入ったのは、風に吹かれて軽く揺れるブランコ。


「・・・・・・」


何となく、周りを見る。誰もいない。近くの道路を歩いている人も、いない。


「・・・ちょっとだけ、だから」


誰も聞いていないのに、ぼそっと言い訳のように口にしてから、さささとブランコに走り寄って。

しつこいけどもう一度、誰も見ていないことを確認してから、ブランコの鎖をしっかりと掴んで、よいしょとブランコに立ち乗った。

そうして、ゆっくりと漕ぎ始める。立ち漕ぎなんて久しぶり。ううん、ブランコ自体久しぶりだ。

もう小さな子どもじゃないから、体重が重くてブランコが落ちないかなとドキドキしながら、でも胸の中に溜まっているのかもしれない色々なことを吹き飛ばすように大きく漕いで。

そして、よーし、と気合いを入れて、勢いをつけて思いっきり飛び降りた。

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