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・・・・・・何?どういうこと?
この人たちが探しているのは、私じゃない。
え、ちょっと待ってよ。王女、と聞いて連想するのは・・・話をしている人たちが探しているのは・・・、――――――この子、だ。
話し方だって、着ているものだって、普通の人とは少し違う。貴族とか、そういう、どこかのお嬢さまなんだろうなとは思っていたけれど・・・。
もちろん、本人に確かめた訳じゃないから本当のところは分からない。私の勘違いかもしれない。確証はないけれど・・・確信はある。
隣では、手を握ったままのフルール様が、私の胸に顔を埋めたまましゃがみ込んでいる。私の胸に耳まで埋めているから、今の話が聞こえたかどうかは分からないし、聞こえたとしてももしかしたらどういう内容かは分かっていないかもしれない。
ただ、見えない表情が気にかかる。
ふと、私の視線を感じたのか、フルール様が顔を上げた。そこには、さっきと同じく強気な瞳があった。でも、顔の色は青白いし、手も体も変わらず小さく震えている。
この子は王女で、話の内容からすれば、王女様は、相手にとって何かまずいことを見てしまったんだろう。消せってっていうのは、つまり、・・・命が狙われているってことだよね。
もし仮に違っていたとしても、この話を聞いたことで、この子と私は狙われる理由ができてしまった。
もし私の考え通り、本当にこの子が王女であるなら、見つかれば命が危ない。
さっき会ったばかりで、生意気で、意地っ張りで、ちょっとだけ腹も立ったけれど・・・まだ小さな可愛い女の子だ。絶対守らなきゃいけない義理はないけれど・・・でも。
さっき聞こえたことには、警備が厳しくなったとか、そういうことを話していた。警備っていうのは、多分街の警備のことだろう。ということは、人通りがないとはいえ、大通りからさほど離れていないこの場所で事を大きくしたり、ずっとここでうろうろしていれば、怪しく思われたり、注目を集めることなんて当然分かっているだろう。だから、おそらくそれほどに長くはここに留まらないんじゃないかな。
ここで、音を立てず、動かず、静かにしていれば、・・・そのうちいなくなる、はず。
きっと見つからない。見つからないでほしい。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
心臓の鼓動が早くなる。体が心臓の鼓動に合わせて大きく揺れる感覚を覚える。
あまりにその鼓動が大きくて、体の外にまでその音が響いてしまうんじゃないか心配になるほどだ。
落ち着け、落ち着け、私。大丈夫。
呼吸を整えている途中に、胸の中でフルール様がまた小さくぶるりと震えた気がして。
汗でじっとり湿った手で、もう一度、フルール様の手を強く握りしめた。
こつん、と石を蹴る音がして、はっと意識を集中させる。
気がつけば、話し声もやんでいた。集中していたつもりが、一瞬意識が飛んでしまっていたらしい。まずいまずい。
フルール様を抱きしめたまま、聴覚だけを研ぎ澄ませて様子を探る。
樽の向こうでまたいくつか言葉を交わし始めたけれど、よくは聞こえない。しばらくぼそぼそとした話が続いて、ようやく数人分の足音が遠ざかっていった。
今度こそ、話し声は聞こえない。足音も聞こえない。みんな行ったんだろうか。もう、大丈夫?
助かった。そう思い、ほっと息を吐いた。――――だけど。
「こちらにいらしたのですね」
「――――――!!」
頭上から聞こえた、先程の声。
ああ、――――どうして。




