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海に行こう!

騒動たっぷり、波瀾万丈の同居生活を始めて、ひと月。
相変わらず、我が儘な翡翠が、今度は…
霊感少女・神崎ゆすらと口が悪く、我が儘。だけど、憎めない奴なウサギ妖怪・翡翠との珍道中!

皆さん、聞いてください。

ウチには、すっかり人間化した妖怪が、棲みついています。

まあ…人間化したといっても、やっぱり妖怪なので、なにかと大変なのです。

「ゆすらー、メシ!」

翡翠は、ゆすらに向かって茶碗を突きだしていた。

「あんたねぇ、これで終わりよ!何杯目だと思ってんのっ?」

毎朝、この調子だ。

食べ盛りの子供でもないクセに、コイツはよく食べる。

単なる、大食漢なのか?

「いーじゃねえかよ、美味いんだから」

「う゛…分かったわよ、ほらっ」

「おっ、サンキュー」

もう、何杯目かも分からないゴハンを、嬉しそうに食べる翡翠を見て、ゆすらは溜息をついた。

『美味しい』と言われて気を悪くする奴は、少ないんじゃないかとあたしは思う。

しかし、こいつと暮らし始めて、ひと月。

未だ、苦労が絶えない。

例えば。

パソコンの回線は食いちぎるし。

包丁を食べて、驚かせるし。

リモコンは囓って壊して、もう5台目だし。

以下略ッ!


 「なあなあ、ゆすら…俺、あれ行きたい」

彼の指先は、テレビに向いている。 

「海?」

しかも。

コイツ、妙に世間慣れしているのだ。

「ここから近いだろ?なあ、行こうぜぇ」

ねだる翡翠が子供のようで、ゆすらは苦笑してしまった。

「ふぅ…ここんトコ、仕事もないし。いいわよ」

「やりぃ!じゃ、今すぐ行こうぜっ」

どこからか、浮き輪を取り出す彼に、ゆすらは面食らった。

いや、ちょっと今からって…。

もう行く気満々だし。

「用意してくるっ」

「え、あ…うん」

嬉しそうに跳ねていく翡翠に、ゆすらは、本日何回めかの溜息をついた。

(子供みたい…)


 ということで、海につきました。

翡翠、なんか、はしゃいで注目されてるし。

恥ずかしいなぁ、もう!

外見も、結構いい方だし、若いにモテている。

…けど、気にしてないみたい。

(って、あたしも一応、若い娘なんだが…)

「ゆすら、ゆすらっ…あっちで氷売ってるぞ、あれ食いたいっ」

あっ!コイツ、またっ(怒)

焼きイカを、頬張りながら言う翡翠を、ゆすらは思いきりどついた。

「もう!よくそんなに食べられるわねっ、しょうがないなぁ…あと一つだけで終わりよ?」

ゆすらは、ごそごそ、と財布から小銭を出して、翡翠に渡してやる。

「ホントかっ、サンキュウなっ」

無邪気に笑って屋台に走っていく彼に、いつの間にか、見とれている自分に気づいたゆすらは、慌てて頭を横に振った。

(いけない、いけない…あたしとした事が!)

一瞬、あいつがカッコよく見えた。

ううん、ダメ。

あいつは妖怪。

カッコよくても妖怪。

炎天下のせいで、のぼせてしまったらしい。

なんだか、クラクラするので、日陰に移動…屈んで休む事にした。

(はぁ…あたし、なーにやってンだろ)

「きゃっ」

溜息をつきかけたその時、頬に冷たい物を宛てがわれて、ゆすらは飛び起きた。

「ほれ、冷たいもん。お前、暑いんだろ?」

顔をあげると、そこには逆光を浴びた翡翠。

「あ、ありがと…でも、これどうしたの?」

(どっから沸いて出たんじゃ、コイツは)

一応、にこやかに礼を言うが、ゆすらは内心毒づく。

渡されたのは、ミネラルウォーターだった。

「屋台のおっちゃんがな、オマケしてくれたんだ。お前に持ってってやれって」

(へえ…案外、優しいところあるじゃない。ありがと、翡翠)

「そっか、ありがと、翡翠」

ちょっとは、見直したかも。

しかし、にっこりしたのも束の間。

再び、ゆすらの笑顔に青筋が浮いた。

「おう、じゃあさ、次あれ食いたいなっ」

翡翠が、はしゃぎながら『お好み焼き』の屋台を指さしたからだった。

前言撤回っ!(怒)

どこまで食べるつもりなんだ!このバカ兎はっ

「だーめ、帰るわよ。もうすぐ夕飯なんだから、我慢しなさい」

「ちぇ…まだ食い足りねぇよ」

名残惜しそうに、じたばたする翡翠を、ゆすらは引きずっていく。

「仕方ねぇなあ、そんじゃ、これでチャラにしてやるか」

「ちょっと、なにすん…」

翡翠が、迫ってくる!

「や…んっ」

瞬間、ゆすらの髪が逆立った。

いや、実際に逆立ったわけではないが、かなりの衝撃を受けたのは確かだった。

(ちょっと…キス、されちゃった!?よ、妖怪に――――‐‐‐っ)

ゆすらの、青かった顔が、一気に赤くなっていく。

「なっ…な、なっっ、なにすンのよっ、この変態ウサ‐――――‐‐‐!?」

ぱ――――‐‐‐んっ

「んぎゅっ!?」

夕暮れの空に、むなしく音がこだました。


 そのあと、殴られた理由が分からず、翡翠はずっと首を傾げていたとかなんとか。

「ヘンだな―‐‐‐俺、なんか悪いこと言っちまったのか?」

台所からは、必要以上に大きな包丁の音が聞こえてくる。

一方ゆすらは、トマトのように真っ赤になっていた。

(翡翠のバカ!バカ――‐‐‐!でも…)

いきなりのことに、混乱してしまったのだ。

でも、叩くことは…なかったのかも知れない。

ゆすらは一瞬、手を止めた。

「あ、あの〜ぅ、ゆ、ゆすら?腹、へったんだけど」

背中に視線を感じて振りむくと、遠慮がちに、翡翠が話しかけてきた。

まるで叱られた子供が、親に許しを請うように。

あたしも少し、やりすぎてしまったな。

ごめんね、翡翠。

「翡翠」

「な、なんだ?」

(ま、まだ怒ってんのか?!)

視線を合わせてきたゆすらに、翡翠は慌てて後じさる。

「ゴハン、もうすぐでできるから、待っててね」

「え」

にっこりと笑いかけられて、ぽかん、と間抜け面をした翡翠に、ゆすらは、プッと吹き出してしまった。

「おま…もう、怒ってねぇのか?」

「怒ってないわよ、別に。ほら、お皿並べるから、出してきて」

「ゆすら…お前」

(怒ってないってこたぁ、してもいいって事か!?そうなのか、そうなんだなっ)

大きなカン違いである。

「な、なに?」

じっと見つめる、彼の視線がヘンに熱っぽい。

病気にでもなったのか?

もしかしたら、ちどこが悪くて、おかしくなったとか…。


こんばんわ、維月です。
読者様方、ここまでご苦労様です。
さて。
翡翠、どうやら、ゆすらに気があるようですねぇ。
でも、彼女は…
乞うご期待ください。

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