陣取り合戦!
黄兎=ウサギ妖怪・翡翠と同居し始めたゆすら。
我が儘間な翡翠に振り回され、ゆすらは疲れ気味。
騒動たっぷりの同居生活。さてはて、どうなることやら…
霊感少女・神崎ゆすらと、口が悪くて我が儘だけど、なぜか憎めない奴なウサギ妖怪・翡翠の珍道中。
ウチには妖怪が一匹、棲みついている。
それは、今あたしのベッドを占領しているコイツ――‐‐‐翡翠だ。
「もう、寝苦しいのよ…ちゃんと、アンタ専用の寝床用意してあげたじゃない」
「いやだね、こっちの方が、寝心地がいい。ゆすらばっかりズルいぞ」
茶色い兎が、コロンコロンとベッドの上を転がりながら言う。
邪魔で仕方がない。
以前、一度だけベッドに寝せてやったことがある。
それで味を占めたのか(絶対そうだ…)コイツは図々しくも毎晩ベッドを占領するようになった。
「はいは―い、カゴに戻ろうね?」
ゆすらは、翡翠を抱き上げて、ケージの中に入れてやり、鍵をかけた。
「おい、コラゆすらっ、てめーっ…んな場所ちっとも嬉しくねえよ、出せってば!」
「だって、毛抜けるじゃないの…イ・ヤ・よ、じゃぁおやすみ」
バシン、と勢いよくドアが閉められる。
「あ!くそぅ、ゆすらの奴めぇ…あうぅ、下心だしたのが、いけなかったのかぁ?」
翡翠は、兎らしからぬ、胡座をかきながらぼやいた。
もう、言葉を話す時点で、普通ではないのだが。
「しかしだな、あいつは…重大なミスをした!こんな鉄檻、食っちまえば出られるんだよなぁ」
兎の手で、ピースをする翡翠。
そんな悪巧みをしているが、ケージの中が狭いので、思いっきり頭をぶつけてしまった。
「ぐおっ!?…てぇ〜、狭い場所はキライだ!」
虫食い穴を開け、ケージから脱出した翡翠の前に、また新たな難関が、立ちはだかっていた。
「次は、これだな」
ゆすらの、部屋のドアである。
「ったくアイツは、毛が飛ばなきゃいーんだろ?要は、形を変えりゃいいって事だ」
翡翠は、身震いを一つすると、水飴のように、形を歪ませた。
どんどん形がなくなり――‐‐‐それから、大きく膨れあがったかと思うと、そこで、ふいに動きを止めた。
のそり、と人影が起き上がる。
「あの姿だから、ナメられたんだな…よし、これで問題解決!アイツばっかし、いい思いさせねぇぞ」
茶髪をガシガシ、と掻いて、翡翠はドアノブに手をかけた。
居候のクセに、生意気です。
「さーあてとっ、とっととゆすらの奴を叩っ起こし…ぶへっ!!」
ドアを開けた翡翠の顔に、枕が直撃!
「ブツブツと、うるさいわね…なんなのよアンタはっ」
眉間にシワ。
ゆすら、不機嫌モード全開である。
「ってて、ぬぁにしやがるっ、バカゆすら!」
ゆすらは、ふいを喰らって瞠目した。
「え―――――あの、どちら様?」
いきなり現れた謎の美男に、ゆすらは半歩後じさる。
「見て分からんかっ、翡翠だよっ!」
「え?―――‐‐‐あ、そう」
「そうだ」
二人の間に、しばしの静寂が流れる。
「じゃ、そういうことで、おやすみ」
「くぉら、現実逃避すな!」
部屋に引っこもうとしたゆすらの髪を、翡翠は慌てて捕まえた。
「痛ぁい、もう!アンタ、人間にもなれるのね」
「当たり前だっ、あんな狭い場所に閉じこめやがって…許さねぇぞ」
ゆすらに、青筋が浮く。
この兎は、居候のクセに、どこまで我が儘なんだろうか。
「もう、何が不満なのよっ、ちゃんと寝床も用意してあげたのに」
「全部だっ!俺ぁこれからは、この格好で過ごすことにした!」
「だから、なに?」
「部屋だよ、部屋よこせ」
どうやら、コイツは自分専用の部屋が欲しかったらしい。
両親が亡くなり、使用人も、もういないので部屋は腐るほど余っている。
だから、別にいいのだが。
欲しいなら欲しいと、素直に言えばいいのに。
「いいよ、廊下の脇の和室使って」
「ホントか!サンキュ」
ぱああ、と一気に顔を明るくする翡翠。
現金なものだ。
「布団は押入れね」
「おう!」
意気揚々と跳ねていく翡翠を尻目に、ゆすらは、深〜く溜息をついた。
「あ―――‐‐‐これで、やっと眠れる」
しかし、ゆすらがベッドに入った頃には、すっかり夜が明けていましたとさ…
まあ、人生…焦らず急がず。
のんびり行こうよ?