天災は、忘れた頃にやってくる!
中国旅行から、半年後の夏。
ゆすらの元に、差出人不明のダンボールが届いた。
ダンボールの中には…
霊感少女、神崎ゆすらと、我が儘で口が悪いけれど、なぜか憎めないウサギ妖怪・翡翠の珍道中!
炎天下の熱が、アスファルトを灼く。そこかしこで、蝉の集きが聞こえる、いまは夏だ。
あの中国旅行から、半年が過ぎていた。
遠くから、かすかにエンジン音が近づいてくる。それは、角からぬっ、と頭を覗かせて、狭い道路をいっぱいに占領して停止する。
ぎっ、と鈍い音がして、お屋敷の大門の前に、いるだけで暑苦しい、トラックが止まった。
ピンポ―――‐‐ン。ピンポ―‐‐ン!ピンポンピンポ―――‐‐ン!
涼しげな呼び鈴が、せわしなく玄関に響く。
「うるさいなぁ…もう、誰よ〜」
二階の自室で、パソコンの画面に向かっていたゆすらは、重い腰を上げた。
無視をすれば、荷物を置いて帰るだろうと思い、そのまま10分ほど放置しておいた。
しかし、なかなか帰るそぶりがなく、現在に至っている。
なぜかしぶとい配達員に、根負けしたのだった。
「は―‐‐い」
ドアを開けると、予想したとおり、配達員の男がダンボールを抱えていた。
「神崎、ゆすらさんですよね?判子か、サインお願いします」
「あ、はい…」
ゆすらは、サインを書きながら、内心訝しく思った。
(どこからだろう、なにも書いてないし。しかも…なに、生もの!?どうしよう、もうサインしちゃったしなぁ)
「それじゃ、はい。ありがとうございました」
内心のぼやきも空しく配達員は、ムダに爽やかな笑顔で、去っていってしまった。
「は、はーい」
作り笑顔が、哀しい…
(んもぅ…どうしてこうなるのよ―――‐‐‐!)
配達員の男が行ってしまってから、ゆすらは、自己嫌悪に打ちのめされていた。
「はぁ…とりあえず、これ運ばなくちゃ」
一体何なのか。得体の知れないダンボールを抱えて、ゆすらはとぼとぼと玄関に入っていった。
「ん―――‐‐‐」
ゆすらは、腕組みをして、ダンボールとにらめっこ。
この箱の中身は、一体何が入っているんだろう?
そもそも、このダンボールは、どこからきたんだろう?
いくら考えてみても全く、心当たりがないのだ。
「まったくもう、贈り主の名前もないし、怪しいわよ絶対!箱開けたら爆弾とかだったりして。こういうのは、用心が肝心よねっ、うん」
ゆすらは、そう言いながらも丁寧に、ガムテープを剥がしていった。
やはり、気になるのだ。
危機感より、好奇心が勝ってしまった。
が、しかし、蓋を開ける気には、なぜかなれなかった。
細かに手が、震える。
ダンボールの前で迷うことしばし、蓋を開こうとした彼女は、聞き覚えのある声を聞いて、ぴたりと動きを止めた。
「オイオイ、早く出せよ…ここ、熱ィんだ」
声と共に、うにゅ、うにゅ、とダンボールの持ち手から、茶色い小さな鼻面が覗く。
「えっ、まさ…か、生ものって」
「おう、俺だ…翡翠だ」
ぱか、と頭でフタを持ち上げて、茶色い兎・翡翠が顔を出した。
「ちょっ、ちょっとアンタ、どうしてぇ!?」
ゆすらは、ダンボールを逆さにして、底を叩く。
「厄介になるぜ、よろしくな…ゆすら」
身震いを一つして、無事、ダンボールから脱出した彼は、ニヤリと人間のように笑って言った。
「ちょっと、どういうことなのよ―――‐‐‐!?」
「うおっ、耳痛えって…怒鳴るなよぉ」
翡翠は、両耳を手で押さえながら、小さな体を、さらに小さく縮ませた。
ゆすらは、まだ青い顔で、おそるおそる彼に尋ねてみる。
「ねえ、どうしてここが分かったの?」
「ああ、それか…お前の気配を辿ってな、やっと見つけたって訳だ」
「ふう―‐‐ん、やっぱり妖怪ね、ウサちゃん」
ちろり、と流し目で言うゆすらに、翡翠の毛皮が逆立つ。
「うっ、ウサちゃんて言うんじゃねえ!」
翡翠は、気に食わないとばかりに、ゆすらに頭突きをした。
「痛くないんですけど…その割には、嬉しそうじゃない」
「そりゃ、手加減したからだ。お前に逢えたから、嬉しいんだよっ」
もごもご、という翡翠は、なんだか照れているようだ。
「はあ…そりゃ、どうも」
「なんだよお前、ち――‐‐とも嬉しくなさそうじゃねーか」(怒)
「そっ、そんなことないわよ!?」
そんなこんなで、ウチに、妖怪の居候が増えた…
こんばんわ、維月です。
『のんびり行こうよ?』のお届けです。
今回はまた、翡翠再びです。
ゆすらに目を付けた彼はちょっと、運が悪いです。
ゆすら。彼女、実は…
それでは、どうぞご賞味くださいな♪