表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

さよならから…

口の悪い、でも可愛いウサギ妖怪・翡翠に逢い続けるゆすら。
しかし、二人に別れの時が来た。

次の夜も、ゆすらは一人、ホテルを抜け出して森に来ていた。

「え――――‐‐‐と、あ…いたいた、ウサちゃん」

ゆすらは、木の根本に座る彼を見つけると、頭を撫でた。

「おう、ゆすら…ふあぁ、なんか、持ってきてくれたか?」

昨夜に比べて、かなり縮んだ彼を抱き上げて、ゆすらは尋ねた。

「なんか、サイズダウンしたね、どうしたの?ウサちゃん」

「うっ、ウサちゃん言うなっ、ちゃんと名がある!」

彼は、ゆすらの腕から脱出すると、足を鳴らした。

「名前?そう言えば…知らなかったわね」

「ったく、オレの名は翡翠ひすいだ、ヒ・ス・イ、もうウサちゃん言うンじゃねぇっ」

翡翠は、後ろ足で頭を掻きながら、めんどくさそうに言った。

「今のサイズのままなら、可愛いのにねぇ」

「はー…それだが、今日は月が出てないだろう、こういう夜は、妖力が半減しちまうんだよ」

「ふうん、月華げっかを吸ってるんだね」

月華とは、月の光のことだ。

月はすべてに、なにかしら強い影響を与えると言われている。

「ああ。なあ、ゆすら…お前は、旅行者なんだろ?」

「ええ」

「いつまで、ここに来れるんだ?どこから来たんだ?」

小兎の、緑青の瞳が、不安げに揺れた。

「たぶん、今日が最後、明日の朝の便で、日本に帰るわ」

「それまで、ここにいるんだよな?」

翡翠は、寂しそうに、ぺしゃりと両耳を下げた。

「うん」

「いいモン見せてやるっ、ついてこいよ」

「え、あのちょっと、翡翠っ?」

翡翠は、走り出す、ゆすらも後を追った。


 森の中を、ひたすら走り、藪を掻き分け、川を渡って、景色が一望できる高台に登った。

辺りはまだ暗く、遠くに、街の夜景が星くずのように、明滅している。

ゆすらは、翡翠を抱きあげる、すると、翡翠はゆすらに顔を寄せてきた。

「翡翠?」

「寒いか?もうすぐ夜明けだ、待ってろ」

「う、うん」

そうするうちに、いつの間にかネオンが消え、空が白み始めた。

「見てろ、明けるぞ」

「うわ…すご、い」

朝焼けが、赤く、世界を染めていく…

生まれたての、柔らかな風が、二人を優しく撫でた。

「だろ?俺な、この瞬間が、一番好きなんだ」

「ありがと、翡翠…いい子ね」

ゆすらに撫でられた翡翠は、気持ちよさそうに、目を細めた。

「照れるぜ…」

「お別れだね、翡翠…短かかったけど、元気でね」

翡翠の茶色い毛皮を、ゆすらの涙がぬらす。

「おいおい、別れってのは、笑ってするもんだぜ?泣くんじゃねー」

翡翠は、ぺろり、とゆすらの頬を舐めた。

「そだね、そうだね…」

ゆすらは、涙を拭いて、翡翠を降ろしてやった。

「行け、もう振りむくなよ?」

「う、うん!」

去っていく、ゆすらの背中を、翡翠は、いつまでも見送っていたのだった。

そうして、ゆすらの中国旅行は、静かに幕を閉じた。

…ように見えた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ