出逢い
ども、維月です。
今回は、初めてコメディ(らしきもの)を書いてみました。まだ至らぬ点もあるかも知れませんが、まぁ、楽しんで読んでくださいな♪
「くぉの…バカ息子が!?これ程言っても、群れを継がぬと言うならば、仕方ない…」
四方八方に、怒号が轟き、地面をたわませた。
中国、某山中。
の崖の上。
大中、二つの影が、激しく言い争っていた。
「なんだよ親父、許してくれンのかよ?下界行き」
二つのうちの、中くらいの方の影が言う。
動く影は、どうやら獣の形をしているようだ。
「許すもなにも…好きにするがいい」
「おっ、ホントかよ親父!」
中くらいの獣が、嬉しげにぴょんぴょんと跳ね回る。
しかし、次の父の言葉に、彼はぴたりと動きを止めるのだった。
「その代わり…」
「な、なんだよ…いいんじゃねぇのかよ?」
「その代わり、お前など勘当じゃ」
「へ?」
「勘当だと言っておるっ、どこでも、好きな場所へ行くがいい――――!?」
蹴りました。
お父さん、息子、落ちていきますよ?
いいんですかね?
「くっそじじい、てめぇ、本気で蹴りやがったなぁ!死んだって、こんな山にゃ戻ンねぇよ、安心しなっ」
いや、暴言はいてますよ…
崖を、いや、山から転げ落ちていく息子にはちらりともせず、彼の父は、かけ去っていった。
お父さん、無視ですか。
ああ、大自然の、なんと厳しいことよ。
もう、どこまで転げ落ちただろう。
やっと、回転が止まったところで、彼は目を開いた。
「ってぇ、あのじじいめ…絶っ対に許さねぇ。うーん、でも無傷なのが、唯一の救いだな。てか、ここどこだ?」
彼は、ひょこり、と後ろ足で立つと、空気の匂いを嗅いだ。
長い耳は、敏感に音を聞き分ける。
「人里まで、下りてきちまったみてぇだな、どうするか」
しばらく迷った末に、彼は歩き始めた。
転落のせいで、もう力の限界が近いのだ。
どこか、緑のある場所で、休まなければ。
彼は、ふるるっ、と身震いして、小さく唸った。
気を、飛ばす。
気を飛ばして、場所を探しているのだ。
家を一軒、二軒通り越し、市場を抜けて。
街外れの、湖畔にあるリゾートホテル…
見つけた!
彼は、走り出す。
ぴょん、ぴょんと、屋根をいくつも飛び越えて、大きな兎が、空をかけていった。
「ちょっと、ゆすらってば…待ってよぅ、どこ行くのよ」
深闇の広がる、森の中を行く影が二つ。
ちなみに、二つの間隔は少ししか、離れていない。
前を行く、ゆすら、と呼ばれた少女が、気遣わしげに振り向いた。
彼女の、背中を被う、赤みを帯びた茶色の髪が、夜風にそっと揺れる。
「どこって、散歩じゃない…ホテルからも近いし、いい場所」
「こんなに暗くて、気味悪いのに?あんたのことだから、オバケ見たって、怖くないかも知れないけどさ、あたしは、フツーの人なんだからねっ」
「もう、相変わらずね、綾子は。なんもいない…よ?」
そう言いかけて、ゆすらは動きを止めた。
「なっ、なによゆすら…やっぱり、いるの?コレ」
気弱な、彼女の友人・綾子は、両手を前で下げ、オバケのポーズをしてみせる。
「ううん、兎がいる」
そう言うと、彼女は、ぱっと顔を明るくさせた。
彼女は、かなりの動物好きなのだった。
「えっ!どこどこっ、野生動物よねっ?」
「う、うん…ほら、あそこに」
ゆすらは、今いるここから、大して遠くない場所にある、木の根本を指さす。
根本には、大型犬くらいの大きさをした、獣が寝そべっていた。
「もーっ、どこにもいないじゃな…ってまさか、あんたまた?」
綾子は、残念半分、呆れ半分のため息をついた。
「らしい、ね」
そうなのだ。
あたしは、ほかに見えないモノが、見える人なのだ。
そのせいで、気苦労がたえなかった。
友人はいるけれど、それ程仲がいいというわけでもない。
だが、今、一緒に旅行してくれている彼女は、幼稚園からの幼馴染みで、あたしの、よき理解者である。
ゆすらは、ちらり、と獣の方を見た。
月の光を弾いて、つやつやと輝く毛皮は柔らかそうで、ゆすらは触ってみたい衝動に駆られた。
「ちょっと、行ってくるね?そこで、待っててくれる?」
「い、いいけど…平気?」
「うん」
ゆすらは、寝そべったまま動かない獣に、そっと近づいた。
「なんだ、お前…俺が見えンのか?」
耳だけをゆすらの方に向けて、獣が話しかける。
決して、機嫌がよいとは言えない声に、ゆすらは、おや、と瞠目した。
声は、意外に若い男の声だったからだ。
「話せるんだ、妖怪さん」
「まぁな…で、お前は?」
寝そべった大きな兎は、けだるそうに、ゆすらに顔を向けた。
「え、あたし?人間、だけど」
「そんなの、見りゃ分かる、名前だよ、名前っ」
「あたしは、ゆすら。神崎ゆすら」
「ふーん、ゆすらね…俺が見えるなんて奴も、いるんだな」
興味なさげに言って、彼は毛繕いを始めた。
っていうか、かなり無遠慮な奴だ。
毛が飛び散っている。
そんな中で、ゆすらは、兎がしきりに鼻を気にしているのに気がついた。
「あんた、ケガしてるのね?どれ、ちょっと見せて?」
兎は、頭を撫でられて、慌てて後ずさった。
「やっ、やめろ…余計なことすンじゃねぇ!ほっとけば治るっ」
ぷいっ、と顔をそむけた彼に、ゆすらは、くすくすと笑った。
「なっ、何が可笑しいっ」
「カワイイな―‐‐て、でも、このくらいはさせてちょうだい」
ゆすらは、ムキになる彼の鼻面を、そっと撫でてやった。
「ん、なんだよ…これ」
彼はしきりに、絆創膏を爪でつつきながら聞いた。
「絆創膏よ、鼻の頭、すり剥けてたからね。治るまで、取っちゃダメよ?」
毒気を抜かれた彼は、きょとん、とゆすらを見つめた。
月の光に、彼の毛皮は銀色に輝き、淡い緑青の瞳は、宝石を思わせる。
しばらく、両者の間に静寂が流れた。
しかしそれは、すぐに彼の腹の音で破られた。
「なぁ、なんか食いもん、持ってねぇか?力が足りねぇんだ」
「持ってるけど、兎…こんなもの食べれるかなぁ」
ゆすらは、ごそごそとポーチをあさると、アルミホイル包みの、握り飯を出して見せた。
すると、彼は巨体を起こして、ゆすらの太股に両前足を乗せた。
ピコピコ、と鼻を動かす様は可愛いが、これが、普通の大きさなら、もっとカワイイのになぁ、と、そんなことを、内心で少し考えた。
「ふんふん、なんか、美味そうな匂い」
彼が、受け取った握り飯を、包みのまま食べ始めたので、ゆすらは慌てて包みを剥がす。
「ん?なんか、問題あるのか?」
「あるわよっ、大あり!お腹壊したらどうするのよっ」
ゆすらは、アルミホイルを、取り上げて怒鳴った。
「怒鳴るなよ、耳痛ぇなあ。あのな、俺たち黄兎っていうのは鉱物を食って生きてンだ、ちなみに、その薄っぺらいヤツも金属だぜ」
伸びあがって、ゆすらからアルミホイルを取り返すと、山羊が紙を食べるように、あっという間に平らげてしまった。
「お、美味しかった?」
舌なめずりしている兎に、おそるおそる、ゆすらは聞いてみる。
「まぁまぁ、かな?」
(まあまあって、あんた…人からもの貰っておいて)
がっくりと、肩を落とすゆすら。
「とりあえず、元気でたのよね?あたし、もう行かなきゃ…人を待たせてるのよ」
背中を向けたゆすらに、彼は名残惜しげに話しかけてきた。
「また、ここに来るのか?」
「え?うん…こっちにいるうちなら、来れると思うけど」
「そっか、待ってるぜ。また、なんか持ってきてくれよな」
彼は、嬉しそうに尻尾を振った。
「う、うん」
これって、結局パシリじゃないですかね?
(な、懐かれた…妖怪に)