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第25話 いざ男の楽園へ

 店内に入ると、想像以上の豪華さだった。

 天井から吊るされたシャンデリア。大理石の床。壁には高そうな絵画が飾られている。 


 しかし、何より目に付くのはウェイトレスの格好だ。


 全員が露出の多いドレスを身に纏い、スタイル抜群の美女揃い。胸元や太股が大胆に見え隠れしている。


「や、やばい。俺、ちょっと緊張してきたぜ」

「……お前みたいなのでも緊張するんだな」


 興奮気味のレイヴンに呆れつつも感想を述べる。

 

 まあ、確かに目のやり場に困る格好である。


「いらっしゃいませー♪お客様2名様ですね!」


 満面の笑みを浮かべた金髪のウェイトレスが俺とレイヴンを席へと案内してくれる。


 席はテーブルを挟んで対面式となっており、隣には半個室のように仕切られたスペースもある。雰囲気はキャバクラに近いだろうか。


「お客様は本日初めてのご来店ですかー?」


 注文を聞きに来たウェイトレスの態度は終始フレンドリーだ。愛嬌のある笑顔が実に良く似合っている。


「はい!こいつがどうしてもと言うので!」


 一発殴ってやろうか。


「そーなんですかー!嬉しいですー♪あっ、未成年の方ならこちらのオレンジセットが好評ですよー!おつまみセットで5500ルピーですー!」

「それください!」

「なら、俺もそれで」


 二人で即決するとウェイトレスは喜びの声を上げて去っていった。 

 5500ルピー……前世換算で約5500円相当か。高校生にしては高額だが、庶民には手の届かない値段ではない。


「ミナト、やべぇよ。マジやべえ」

「落ち着けよ、そんな興奮してたらせっかくの男が台無しだぞ」

「そ、そうだよな。よし!深呼吸して落ち着かないと」


 目当てのものが手に入るかもしれないレイヴンは平常心を保とうと努力しているようだが、その表情には隠しきれない期待感が滲み出ている。

 ……まあ、同じ男として気持ちは分からんでもない。 


 程なくして、先程のウェイトレスが料理を持ってきた。 

 皿にはフルーツ盛り合わせとオレンジジュースが載せられている。


「へぇ、ではお二人は魔力学院に通われているんですね♪」

「はい!まだ入学して一週間なんですけど、先輩達からの期待が高くてプレッシャー半端なくて」

「まあ、素敵。どんなお勉強してるんですか?」

「いやぁ、特に実技とか厳しいですよ。魔力操作とか座学とかもう大変で」 


 ウェイトレスとの会話も弾み始める。

 レイヴンは嬉々として学院の出来事を語っていた。

 明らかに話を盛ってるが、相手も特に深掘りせず笑顔で受け答えしている。商売上手だ。


「ふ……まあ見てて下さい。いずれは学院内だけでなくエアハート王国でも一目置かれる存在になります。そうしたらお姉さん、僕とデートしてくれませんか?」

「きゃー♪」

(痛い。あまりに痛過ぎる……)


 恥ずかしげもなく言葉を紡ぐレイヴン。   


 今時そんな歯の浮くセリフをサラッと言う奴がいるとは驚きだ。ウェイトレスは演技臭い悲鳴を上げているが……。


「エアハートはすごいところですよね。私達も最近引っ越して来たばかりなんですけど、少し心細くて……」

「マジっすか!?何でも聞いてくださいよ!何せ自分は生まれも育ちもエアハートなんで!」

「そうなんですかー!頼もしいなぁ♪」


 何だかんだでレイヴンのコミュ力は高い。俺にはない才能だ。

 そこだけは素直に尊敬できる。しばらく他愛のない雑談を続けた後だった。


「ねえねえお客さん。エアハートのこと……どこまでご存知なんですか?」

「そりゃもう何でも知ってますって!王族の経済から治安状況までぜーんぶ知ってます!」


 んな訳あるか。お前はどこのスパイだよ。

 レイヴンの無責任な発言に内心ツッコミを入れていると……。


「すごーい!ようやく当たりを引きましたー!」

「当たり?」

「気にせず気にせず。ほら、ぐいーっと飲みましょうよ!サービスで濃厚なジュースをご馳走しちゃいますから♪」


 ウェイトレスがグラスをレイヴンに差し出す。


 レイヴンは迷いなくグラスを口元に運び、勢いよく飲み干した。


「ぷはぁ!いやぁ、美味しい!いいんですか?こんな良いものを飲ませて頂いても?」

「もっちろん!だって、お客様は特別なお客様ですから♪」

「えへへー。ありがとうございま……す?」


 レイヴンの言葉が途中で途切れる。

 その直後、その目が一瞬だけ揺れた。


 グラスを持っていた手が、わずかに力を失う。


「ん?どうした?」

「い、いや……なんか、急に……頭が……重い……」


 レイヴンは額に手を当て、椅子の背もたれにもたれ掛かる。

 顔色が急激に青白くなっていくのが分かった。

 呼吸が浅くなり、まぶたが何度も上下する。


「おい、レイヴン?」


 呼びかけるが、もう返事はない。

 数秒後には、完全に意識を失って椅子にぐったりと沈み込んでいた。


 周囲に漂う空気が、明らかに変わった。


「ご協力ありがとうございました♪」


 ウェイトレスの笑顔が崩れた。

 他のウェイトレスも同様に一斉に視線を俺に向ける。まるで獲物を狙う肉食獣のような鋭い目つき。


「さてお客様、別室でお話を伺えますか?エアハート王家の情報……お聞かせ願いたいのですが♪」


 口調は丁寧だが、有無を言わせぬ雰囲気。 

 俺は咄嗟に周囲を確認する。店内には先程まで賑わっていたはずの客は誰一人としていない。


 閉店後?そんな訳がない。 


 この状況は──罠だ。


「参ったな……」

「ふふ……大丈夫ですよー?抵抗さえしなければ手荒な真似は致しません。ただ、エアハート王族に関することで知っている情報を全部吐いてもらえば結構ですから♪」


 ウェイトレスは甘い声を発する。


 俺は……椅子からゆっくり立ち上がる。


「あー、いや。さっきのことならこいつの出まかせだと思うぞ。一応は貴族みたいだが、王族だの機密だの知っている訳ないだろ。騙されてないか?」

「あら、嘘だなんて酷いですね♪でも、お連れ様も眠っていただいてしまいましたし、こちらとしては今更なかったことにはできません♪」


 彼女たちの目つきが変わる。 


 穏やかな笑みから獰猛な捕食者の目つきへと移り変わった。


「……一つだけ忠告しておく。あんたらの方が危険かもしれないぞ?」


 一言放った瞬間、俺は周囲を確認。


 やはり、周りには誰もいない。店内にいるのはウェイトレス4人と俺と気絶したレイヴンのみ。他の客は忽然と姿を消している。


「おやおや、たかが魔力学院の新入生風情が生意気を仰りますね♪では、身の程を教えてあげますか♪」


 ウェイトレス達が一斉に動き出す。


 全員が魔力を纏い、武器を形成している。中には鎌を握る者や槍を構える者もいる。本気で仕留める気のようだ。


「──先に理不尽を押し付けてきたのはお前らだからな?」

 

 俺は魔力を込め、障壁を展開した。

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