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婚約破棄から始まる奇妙な関係

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/04/22

貴族社会における婚約。

家格・利害関係に基づき、幼少期より締結される契約。


その破棄には、相応の賠償を必要とし、契約の段階で予め、担保が定められる。


担保の設定には、公証人と査定官を必要とする。

設定は、双方が相手方から享受する権利と利益の査定から行われる。


・家格が持つ価値

・領地の立地や経営状況、その資産価値

・当該者個人が持つ魔力や属性の価値


その他諸々から算定される総額の原則2~5%ほど(※当該者の爵位相続順位に準ずる)が担保として必要。契約の合意には、通常、数か月ほどの時を要す。


貴族間の契約は、王室直属の公証人と査定官が双方の領内に派遣され、<魔法契約書>により、締結するものとする。


公証人を介さない婚約は、法的拘束力を持たない。

また査定官と公証人への買収行為等の発覚は、廃爵処分を科す。


―― これが、アルセリア王国における<婚約法>の概要である。



陳腐な言い方ではあるが、

私は<真実の愛>に目覚めてしまった。


癒しの魔法の適性が認められ、平民でありながら特待生として、この王立学院に通うルーメリア嬢。私は彼女と恋に落ちた。


学問や礼儀作法は、まだまだであるが、それゆえに守ってやりたくなる愛らしさが彼女にはあった。


だが、私には婚約者がいる。

家格は、我が伯爵家よりもひとつ下の子爵家の令嬢である。

だが、成績は常に上位。魔力にも優れ、属性は何と三つにまたがるトリリンガル属性の令嬢である。


正直、彼女といると息が詰まる。

たかが子爵家の小娘のくせに、私よりもはるかに優秀な資質を見せ、また愛想も良くない。時折、虫けらでも見るかのような目で、私を遠目に見ている時があり、そろそろ、こちらとしても我慢の限界である。


だが、ここにひとつ、大きな問題がある。

それは「婚約破棄の代償」である。


我が家と子爵家との間で交わされた魔法契約。

そこに記載された賠償は、婚約破棄時点での双方の「時価総額」に対し、すべて金品によって支払われることが明記されている。


我が婚約者フラミーナの魔力覚醒は、学院に入ってからのことであり、その能力は、すでに宮廷の上級魔術師たちにも匹敵する。また勉学にも優れ、様々な学位をすでに取得。歴代でも屈指の才女であると高い評価を得ている。


子爵家の領地・ロートシュタットも、すでにシュタット(町)とは呼べない城塞都市にまで急成長しており、時価による対価は、没落しつつある我が伯爵家には、すでに到底支払えるものではなかった。



「―― いいわよ、別に。婚約破棄に応じてあげても」

彼女は、何の躊躇ためらいもなく、あっさりと、そう言ってのけた。


「いや、だが……だな」


「ああ、私たちの婚約が<時価>による契約だったから、賠償金が支払えないってこと?」


「えっ、いや、まぁ……それもそうなのだが……」


「貴方、ちゃんとあの契約の書面は読んだの?」


「ああ、もちろん……よく分からない部分も多かったが」


「えっ、そんなに難しい記述はなかったでしょ、どこにも……呆れた」


(……この女はいったい何が言いたいんだ?)


「<双方の合意>がある場合、賠償金その他の減額、または破棄も可能とする。―― て文言、ちゃんと読まなかったの?」


「え、あっ……えっ?」


完全に想定外の答えであった。


『獲れる物は可能な限り、奪い獲れ』

―― これが貴族というものの原則である。


少なくとも、私はそう習った。

―― だが、彼女のこのセリフは、いったい何を示唆するのか?


「いいわよ、チャラで。私は貴方との婚約破棄に何も求めません」


これまでに見たことのない、にこやかな表情で、そう告げるフラミーナ。いったい何のつもりなのだ、この女は?


「何なら、こっちから申し込もうかと思ってたくらいなんだよね。ラッキー、ラッキー♪」


「いっ、いったいどういう意味だ……?」

予想外の連続に、私は慌てふためく。


「前から私、リヒャルト殿下からも求婚されててさ」


「へ、……はあ? リヒャルト殿下からだと!?」


―― リヒャルト殿下とは、この国の第二王子リヒャルト・フォン・アルセリアのことなのか?


「賠償金は、殿下が負担してもいいと仰ってくれていたし、今の貴方の家の資産価値って、それほどじゃないでしょ? 貴方自身もお世辞にも優秀とは言えないし、何なら自腹で賠償金を払おうかと―― 」


「おいおい、ちょっとまて! 殿下が払う? いや、その前に自腹って何だ? お前にそんな額が払えるのか?」


「払えるわよ。ここ最近のうちの領地の発展ぶりは、貴方だって知ってるでしょ? あれ、ほとんどが私の考えた施策や発明のおかげなんだからね」


そう言って、自慢げに、ふんぞり返るフラミーナ。

その頼もしい姿に、私は、これまでにはなかった、新たな感情を持ち始めた。


「……やはり、この婚約破棄、なかったことにしないか?」


「はぁ、何で?」


「私は、今、初めて君に恋をしている!」


「へっ、嘘っ、気持ち悪いこと言わないでよ!」


「愛してるよ、フラミーナ」


「ちょっちょっちょっ、演技にしても何よ、その目は!」


「演技などではない!」


「なら、いっそう気持ち悪いわよ!」



けっきょく、私たちは婚約破棄をすることとなった。


彼女は何度も「ちゃんと違約金を支払うから、これ以上付きまとわないで!」と申し出た。しかし、私は断固として、それを拒否し、双方円満な形での解消の運びとなった。


私の心の隙間を縫うように近づいてきた、特待生のルーメリア。

彼女は後に、王子による<美人局>であったことも判明した。だが、そんなことはどうだってよかった。


とにかく私は、フラミーナに夢中となった。

いまは亡き母上を思い出させる、美しく頼もしい、その振る舞いは、私をゾクゾクとさせた。


フラミーナは、いま、私の付きまといを回避するため、見返りとして、我が伯爵領にも様々な施策のアイデアと支援を行ってくれている。


「領地が回復したら、身の丈に合った相手とちゃんと結婚しなさいよ!」


フラミーナの母性ともいえる、その愛情の深さは、私に信仰心のような感情まで植え付けることに成功した。


婚約は、破棄されて当然のものであった。

彼女は、私の女神であり、元々、対等な関係性ではなかったのだから。



―― Fin.


なに、この読後の気持ち悪さ(苦笑)。


冒頭の設定だけで書くスタイルなので、いつもどおり、筆者も想定外のオチ。

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― 新着の感想 ―
>双方円満な形での婚約破棄とした。 円満な合意であれば「婚約解消」の方が妥当かと思われますが、婚約破棄がテーマですので、あえて使われているのでしたら申し訳ありません。 強く自立した婚約者に捨てられて…
婚約者 は オカン に 進化 した! フラミーナさん、相手腹黒王子っぽいけど、大丈夫そう?(汗)
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