元社畜のメンタルは、嫌がらせさえも楽しみに変える
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今日はあと3話更新する予定です。
それからというもの、王宮での「交流の日」は、私にとって少しだけ……いえ、かなり賑やかな日になった。
もちろん、理由はひとつしかない。
エドワード殿下による、飽くなき――嫌がらせだ。
最初に廊下で油を撒かれたあの日を皮切りに、殿下の嫌がらせバリエーションは日増しに増えていった。
ある日は、優雅に開いた机の引き出しの中に、元気に蠢く大きな虫が入っていた。
またある日は、椅子に座ろうとした瞬間に、音もなく椅子を引いてバランスを崩させようとしてきた。
さらには庭園の散策中、噴水の近くを歩いている時に、これ見よがしに水を跳ね上げられたこともある。
普通の、箱入り娘として育てられた令嬢であれば、虫を見れば失神し、椅子を引かれれば涙目で尻餅をつき、ドレスが濡れれば「なんてひどいことを!」と侍女に泣きつくだろう。
けれど――。
残念ながら、私の中に住んでいるのは、深夜二時のオフィスで、理不尽な上司からの無茶振りと、鳴り止まないクレーム電話を微笑みながら捌き続けてきた、鉄の精神を持つ三十一歳の元社畜である。
引き出しから虫が飛び出してきた時は、その野性味溢れる生命力に感銘を受け、「わぁ、この子、なんて立派な脚をしているのかしら」と、観察してしまった。
椅子を引かれた時は、数々の淑女教育で鍛えられた驚異的な体幹バランスを発揮しつつ――さらに、足の裏にほんの少しだけ「吸着」のイメージで魔力を込めた。
(……よし、これで絶対に倒れないわ)
目に見えない魔法の支えにより、私は空気椅子状態で完璧に停止。
そのまま「あら、エスコートのために椅子を引いてくださったのですか? ありがとうございます、殿下」と、後輩を労うような余裕の笑みでお礼を返してしまった。
噴水の水を浴びせられた時もそうだ。
前世の徹夜明けに浴びた洗顔の冷たさを思い出しつつ、飛んできた水滴の軌道を、魔力の微風でほんの数センチだけ外側に逸らす。
おかげでドレスは一滴も濡れることなく、私は「冷たくて目が覚めますわ! 殿下は私にリフレッシュを勧めてくださったのですね」と、慈愛に満ちた聖母のような眼差しを向けてしまった。
そのたびに、殿下は「な、なんで……っ!? 嘘だろ!? 掠ってもいないぞ!?」と言わんばかりの、この世の終わりでも見たかのような顔で硬直していた。
そしてついにある日。
美しく整えられた庭園の真ん中で、殿下の魂の叫びが響き渡った。
「――っ、なんでだよ!!」
花壇の前でしゃがみ込み、土に触れながら植物の様子を見ていた私は、思わず肩を揺らして振り返った。
そこには、顔を真っ赤にし、腕を振り上げて地団駄を踏んでいるエドワード殿下の姿があった。
「普通……普通は泣くだろ! 嫌がらせだぞ!? なんでそんなに楽しそうに笑えるんだよ!!」
その隣で、殿下の筆頭側近候補であるカイル様が、深いため息をつきながら眉間を押さえている。
「殿下、あまり大きな声を出されますと、近衛騎士たちが駆けつけてしまいます。それに、リリアーナ様の器が殿下の想定を遥かに超えているだけのことかと……」
「うるさいカイル! お前はさっきからリリアーナの肩ばかり持ちやがって!!」
殿下はカイル様に食ってかかったが、その視線はどこか落ち着きなく、私の方をチラチラと伺っている。
私はそんな視線を、春のそよ風のように軽やかに受け流した。
王宮の庭園は本当に美しい。
管理が徹底されていて、前世の殺風景なオフィスとは雲泥の差だ。
こうして緑に囲まれているだけで、擦り切れた心が洗われていく。
そして何より――。
(……やっぱり、ここ。魔力の流れが格別に心地いいわ)
私は、背後にいる二人に悟られないよう、細心の注意を払いながら花の根元にそっと指先で触れた。
前世では「明日までに終わらせろ」と言われた大量のデータ入力も、根性で完遂してきた私だ。
この程度の精密作業、お手の物である。
(そっと、エネルギーを分けてあげるイメージ……)
夜な夜な、ベッドの中で繰り返してきた「ひみつの特訓」
それは、単に魔法を放つ練習ではない。
「自分の中にある力を、どれだけ繊細に、誰にも気づかれずに動かせるか」という、究極の調整力の練磨だ。
(よし。成功。前世の『ミスが許されない決算処理』に比べれば、このくらい……!)
指先から流し込んだ魔力が土に溶け、萎れかけていた花が、まるで命を吹き込まれたかのようにシャキッと茎を伸ばした。
その光景を見て、私はふと、前世で疲弊していた自分自身に思いを馳せた。
あの時、誰かがこうして私に「元気」を分けてくれたら、もっと頑張れたのかな。
だからこそ、今、この恵まれた環境で自分が持っている力を誰かの(たとえそれが花であっても)役に立てられるのが、嬉しくてたまらない。
私が指先で密かに「魔法の感触」を楽しみながら、新しい人生の充足感を噛み締めている間、少し離れた木陰では、二人の少年による密談が繰り広げられていた。
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