2度目の産声、溢れんばかりの幸福
改めてもう少し長く書き直してみました。
「おぎゃあああ……っ!」
焼けるような熱さが喉を通り、肺に冷たい空気が流れ込んできたことにより、私は人生で二度目となる「初めての呼吸」をした。
重い。
赤ん坊の体は、魂の記憶に比べてあまりにも不自由で、重力という概念が暴力的にのしかかってくる。
視界は白濁してぼやけ、差し込む光の一条さえも、今の私には鋭い痛みのように感じられた。
(……ああ、私、本当に生まれたのね。あの暗いオフィスじゃなくて、温かい場所に……)
絶望の淵で願った「次」が始まったのだと自覚した瞬間、信じられないほど柔らかく、大きな手のひらが私を包み込んだ。
それは、前世で触れることのなかった、無条件の慈愛に満ちた温度。
「……ああ、神様。感謝いたします。この子が、私の……私たちの宝物」
震える声に導かれるように、私の視界がゆっくりと焦点を結んでいく。
そこにいたのは、人間という概念を超越した美しさを持つ女性だった。
真珠のように輝くプラチナブロンドの髪が、窓から差し込む月の光を反射して、彼女の肩に絹のカーテンのようにこぼれている。
その瞳は、晴れ渡った秋の空よりも深く、吸い込まれそうなほど澄んだ青色をしていた。
彼女こそが、私の新しい母、エレイン・フォン・アルヴェルト公爵夫人。
彼女は、零れ落ちる涙を拭おうともせず、私の小さな頬を指先でそっとなぞった。
その指先が、壊れ物に触れるかのように繊細で震えているのが伝わってくる。
「リリアーナ。あなたの名前は、リリアーナ。汚れなき百合のように、高潔で、誰からも愛される娘になりますように……。ようこそ、私たちの元へ」
その優しい名付けの儀式を切り裂くように、地響きのような足音が廊下から響き渡った。
直後、重厚な彫刻が施されたオーク材の扉が、文字通り「爆風で吹き飛ぶ」ような勢いで開かれた。
「エレイン! 無事か! リリアーナは! 我が娘はどこだぁぁっ!!」
現れたのは、神話の戦神が具現化したかのような男だった。
紺色の髪を野生的に振り乱し、黄金の刺繍が施された豪奢な軍服を翻して駆け寄ってくる。
彼こそが、王国最強の魔導騎士にして、ラグランジュ王国の盾たる公爵家当主――ヴィンセント・フォン・アルヴェルト。
父は、母の腕の中に収まる私の姿を認めた瞬間、雷に打たれたかのようにその場で硬直した。
「……っ、あ……ああ……」
鋼のような肉体を持つはずの男が、生まれたての小鹿のように膝から崩れ落ちた。
彼は、枝木ほども太さがない私の小さな手をおそるおそる握り、そのあまりの柔らかさに顔を歪める。
「小さい。あまりにも小さい……。エレイン、これは本当に俺の、俺たちの血を引いた子供なのか? あまりにも愛らしすぎて……心臓が止まりそうだ。これが……これが幸福という名の毒か……っ!」
「あなた、落ち着いてください。声が大きすぎてリリアーナが驚いてしまいますわ」
「落ち着けるか! 今すぐ領地に早馬を出せ! 本日から三日間、公爵領のすべての税を免除する! 祝杯を上げろ! 国中の白百合を集めて、この部屋を……いや王都すべてを埋め尽くせ! ああ、リリアーナ……安心しろ。お前を傷つけるものは、塵の一つもなく、俺がこの手で全宇宙から消し去ってやろう!」
(……待って、お父様。スケールが大きすぎて怖い。全宇宙って何? それに免税しちゃって財政は大丈夫なの!?)
前世で「給料泥棒」「代わりはいくらでもいる」と罵倒され、深夜のオフィスで一人、誰に感謝されることもなく泥のように働いていた私。
そんな私にとって、この無償の、そして全宇宙を敵に回しかねないほどの過剰なまでの愛は、少しどころか、かなりの戸惑いを覚えるものだった。
けれど……。
(……ああ、あったかいな)
父の大きな手のひらと、母の柔らかな香りに包まれながら、私はゆっくりとまぶたを閉じた。
前世でボロボロに磨り減った私の魂は、この「過保護すぎる新生活」の予感に、初めて安らかな眠りへと誘われていった。
主人公爆誕しました^^
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