次なる課題は、王太子プロデュースの『社会科見学』
本日、あと2話あります〜!
「……おい、カイル」
エドワードが、どこか苦々しげに、それでいて妙に自信なさげに口を開いた。
「……なんなんだあいつは。なんであんなに楽しそうなんだ。王宮なんて、規律ばかりで息が詰まる場所だろう」
「……殿下がそう思われているからでは? 私には、リリアーナ様がこの王宮を心から愛でて、自分自身を楽しませる術を知っていらっしゃるように見えますが」
「違う! あいつは僕を馬鹿にしているんだ! 余裕を見せて、僕の嫌がらせを笑って受け流して……。ああ、腹立たしい!」
エドワードは、苛立ったように自分の黄金の髪をかき上げた。
けれど、その瞳の奥には、今までに見たことのないような好奇心と、得体の知れない焦燥感が混ざり合っている。
「……カイル。お前に聞きたいことがある」
「はい。何でしょうか」
「王宮の外……いわゆる『街』という場所は、もっと面白いのか?」
カイルは、一瞬きょとんとした顔をしてから、教育係から教わった「知識」としての街の姿を思い浮かべ、慎重に答えた。
「城下町……でしょうか。私もしっかりと歩いたことはありませんが、あそこは活気に満ち、市場には大陸中から品物が集まると聞いています。……ですが殿下、あそこは王宮のような清浄な場所ではありません。埃っぽく、騒がしく、民草がひしめき合う場所だとか」
「市場、か」
エドワードの口元が、ゆっくりと、邪悪な子供のような笑みに歪んだ。
「……ふん。いいことを思いついたぞ」
カイルが、本能的な危機を察知して一歩身を引く。
「……殿下? よくないお顔をされていますが」
「リリアーナを街に連れていく」
「……はぁっ!?」
カイルが、貴族の令息らしからぬ素っ頓狂な声を上げた。
「殿下、何を仰っているのですか! 我々のような身分の者が、護衛もなしにそんな場所へ行くなど……」
「いいかカイル。王宮の外は危なくて、汚くて、得体の知れない連中が騒いでいる場所なんだろ? あんなにお高くとまって『余裕』を見せているリリアーナだって、そんな場所に放り込まれれば腰を抜かして泣き叫ぶに決まっている!」
エドワードは、名案だと確信したように拳を握りしめた。
「そこで僕が、恐怖に震えるあいつをたっぷり笑ってやるんだ! 『どうだ、思い知ったか!』とな!」
カイルは、天を仰いで深いため息をついた。
「殿下……それは嫌がらせというより、単純に無謀な冒険です。そもそも、我々が勝手に城を抜け出すことなど不可能ですし、もしリリアーナ様に何かあれば、アルヴェルト公爵閣下は間違いなくこの王宮を魔導魔法で更地にされるでしょう」
「……っ」
公爵の、あの恐ろしいまでの親バカ顔を思い浮かべたのか、エドワードが一瞬だけ怯んだ。
けれど、一度燃え上がったわがまま王子の独走は止まらない。
「……なら、許可を取ればいいんだろ! 父上に直談判してくる!」
「殿下!? 正気ですか!? 国王陛下がそんな危険な遊びを許可するはずが……」
「うるさい! 僕は王太子だ! 父上だって、僕が『社会勉強をしたい』と言えば喜ぶはずだ!!」
エドワードは、カイルの制止も聞かず、マントを翻して執務室の方へと駆け出していった。
その背中を見送りながら、カイルは、本日何度目か分からない深いため息を漏らした。
「……ああ、神様。なぜ私の主君は、こうも無茶ばかり……。いや、リリアーナ様に何と言ってお詫びすればいいのか……」
そんな少年の苦労など露知らず。
私は花壇の前で、ようやく元気を取り戻した白い花に満足げに微笑んでいた。
(……魔法、少しずつだけど、感覚が鋭くなっているわ。この調子なら、もし何かあっても、自分の身くらいは守れそうね)
そして、ふと風に乗って聞こえてきた殿下の怒鳴り声を背中で受けながら、私は確信していた。
(……殿下、また何か……今度はとびきり面倒なことを考えてそうね)
前世で培った「不穏な気配を察知するレーダー」の的中率は、百パーセント。
けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
(まあいいわ。前世に比べればどんなことも楽しくて仕方ないわ)
私は立ち上がり、服についた僅かな土をパッパッと払った。
泥のように働いていたあの頃を思えば、土汚れなんてアクセサリーのようなもの。
それが、これから始まる「事件」の幕開けだとも知らずに、私は楽しげに鼻歌を漏らしながら、空を見上げた。
読んでいただき、本当にありがとうございます!
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