手品と風船と
公園で一人の男が手品を披露していた。周りには風船が浮き、スピーカーからは遊園地のような音楽が流れてなんとなく楽しげな雰囲気である。
しかしその手品はお世辞にも上手とは言えず、ものによってはタネが簡単に分かってしまうものもあった。
しかし見ているのがまだ小さな子供たちということもあり、保護者たちはたとえタネが分かってしまったとしても笑って見なかったふりをしていた。
だがその内に見ていた子どもの中でも少し年嵩の一人がこう言った。
「それって、こうやってるんじゃないの?」
大声で手品のタネをバラされた男はタジタジになり、やがて手品を諦めたのか、もう今日は終わりと宣言して風船を子どもたちに手渡し始めた。
ネタバラシをしてしまった子どもの親は申し訳なさそうな顔で頭を下げるが、しかし男は照れくさそうに笑いながら「私の腕が悪いのがいけないので」と答えた。
「今度はもっとうまくやれるように気を付けます。坊やにも分からないようにね」
そう言って子どもの頭を撫でて風船の紐を子どもに掴ませようとするも、子どもは先ほど自分が明かしてしまった手品を自分でもやってみようと四苦八苦していて受け取ろうとしない。
それを見た母親は、またペコリと頭を下げて子どもの代わりに風船を受け取り男から離れていった。
そうして最後の一人の子どもに風船を渡し終えた男が手品の片付けをしていると、「あっ」という声が聞こえてくる。
そちらを見ると、先ほどの親子が木を見上げており、そこに風船が引っかかっていた。どうやら紐を離してしまったらしい。
それを見た男はそっと周囲を窺い誰も自分のことを見てないことを確認すると、ひょいと手を動かした。すると木に引っかかっていた風船は、まるでなにかに操られるように動いて子どもの方へと向かっていった。
母親が目を丸くする隣で嬉しそうな表情をする子どもを眺めながら男は一人で呟く。
「こっちは得意なんだけど、手品はどうも苦手だな」
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