スキル偽装スキル
エドワードがスキル開花式を終えて第一王子専用の離宮に戻ると、側近や下僕たちが迎えた。
「殿下、やはり陰謀だったのでは」
執事長のダンカスが言った。
エドワードはダンカスを見た。元Aランク冒険者から転職して執事長になった男で、エドワードの忠臣だ。
「弟の母の実家のカマンデールのことか」
「はい」
エドワードの母は幼い時に亡くなった。その後の兄弟である第2王子から第5王子までは、王が再婚したカマンデール伯爵の娘であるカレンシア王妃の子どもたちだ。
「カマンデール伯爵は、次期国王を自分の孫から出したいのです。そして、我が国は辺境の弱小国で、スキル鑑定士の数が圧倒的に足りません。だから……」
その先は言わなくても分かる。開花式の鑑定士を抱きこめば、エドワードのスキルを偽ることができる。そして、王位継承権の筆頭者である第一王子のスキルの再鑑定など鑑定士の不足もあり簡単にはできない。
「まあ、一度、僕のスキルはこうだという話が広まれば、それでことは決まってしまう。だから、カマンデール伯爵は鑑定士と組んで、虚偽の鑑定をしたというのか」
「さようでごさいます。私めは、しかと、この耳でカマンデール伯爵と宰相が密談しているのを聞きました」
執事長のダンカスのスキルは『密偵』だ。
言っていることは事実だろう。
だが、エドワードはそれよりも先に先手を打っていた。
「ダンカス。僕のスキルは本当に『剣士』だ。もし、僕が『カリスマ』とか『名君』とか『統治者』などのスキル持ちだったら、連中は『花摘み人』とかのスキルに偽装したかもしれない。しかし、今回の鑑定結果は本当なんだ」
「でも……」
「この件は、これでおしまいだ。それよりも、僕は旅に出ることにした」
「「「「「えっ!」」」」
ダンカスだけでなく、心配して集まってきたメイドや下僕たちが大きな声をあげた。
「剣士のスキルだけでは、この国の王を継ぐことはできない。だから見聞を広め、自分自身を成長させるために旅に出ようと思う」
「なりませぬ! そんなことをすれば敵の思うつぼです。連中が偽のハズレスキルの鑑定をしようとしたのは、エドワード様がハズレスキルだった場合、王家の恥として、王宮の外の遠くに追いやり、そして外で暗殺して虚偽スキル鑑定の事実も隠蔽しようというつもりだったのです」
「「「殿下、おやめください!」」」
(そうだな。ここで僕がこの警備の厳しい離宮を出れば、カマンデール伯爵家はここぞとばかりに刺客を送り出して来て、僕を暗殺しようとするだろうな)
だが、それこそがエドワードの望むところだった。
「思いとどまりください。自殺行為です」
「そんなことないよ」
エドワードは笑い飛ばした。
エドワードは生まれた時から転生者の記憶があった。そして、スキルが解禁となるこの14歳の誕生日をこれまでずっと待ちわびていたのだ。
まずしなければならなかったのは、『スキル奪取』のスキルをスキル開花式で人に知られないようにするにはどうするかだった。
スキルが一人に一つの世界で、他人のスキルを奪って、いくつもスキルを得ることができるなんてことが、弱いうちにバレてしまっては、警戒されて本当に殺されてしまうだろう。
だから絶対に秘密にしなければならない。
そこで、10歳になり、自分の下僕を持つことできるようになると、国中におふれを出して、専属使用人の募集をした。
応募のうたい文句は「ハズレスキルの人、集まれ」だった。就職先のない、役に立たないスキル持ちから下僕を採用するという募集だ。
実は、9歳の時、エドワードはハズレスキルとして「スキル隠蔽スキル」なるものが存在することを知った。もちろんスキルが一つしか持てない世界ではそんなスキルは意味をなさない。ハズレスキルの最たるものとされていた。しかしエドワードにとっては何よりもありがたいスキルだった。
そのスキルを奪うために、ハズレスキル人の採用を始めたのだ。
そして1000人目の応募者が、『スキル隠蔽』のスキルを持っていた。
ハルという17歳の青年だった。
エドワードは即座にハルを採用した。
なんの取り柄もないハルは、良い待遇で雇い入れてもらい喜んだ。
月日は流れ、スキルの使用ができるようなった14歳の誕生日を迎えた朝、エドワードは真っ先にハルを呼んだ。
「ハル、僕もやっと14歳になれた。スキル開花式を終えれば成人になる。いままで仕えてくれてありがとう」
エドワードはハルの手を取った。
「殿下、もったいのうございます」
ハルは、驚きながらも、なんの取り柄もない自分にそこまでしてくるれる王子のやさしさに感じ入ったようであった。
エドワードはハルの手を握りしめるとスキルの奪取を念じた。
手が熱くなり体に電流のようなものが走った感じがした。
(今のでスキルは得られたのか)
半信半疑だったが、手応えはあった。
次にエドワードが向かったのは離宮の門だ。
そこには老いた衛兵がいた。
いつも門番として立っている兵士だ。
もうすぐ定年を迎えて退役することになっていた。
「ええと、君はピルゼンだったな」
「これは殿下」
老兵は直立不動で敬礼した。
「君のスキルは剣士だったっけ」
「私のような一兵卒の名前とスキルまで殿下に覚えていただけているとは」
退役間近の平凡な老兵は感激して涙ぐんだ。
「もうじき退役だろう」
「はい」
「ご苦労であった」
エドワードは握手を求めた。
戸惑いながらもピルゼンは手を差し出した。
エドワードはその手を固く握った。
手のひらが熱くなり、身体になにかが走る。
(よし。これも上手く言ったようだ)
エドワードは偽装のために、誰から、どんなスキルを奪うかを考えていた。
偽装とは言え、あまりにも変な役立たずのスキルを選ぶと、かえって疑われる。一応、王族なので、そんな変なハズレスキルは遺伝により出ないのだ。
無難なところで、剣術系の最下位のスキルである『剣士』にした。平凡だが、全く使えないわけではない。
次に誰から剣士のスキルを奪うかを考えた。現役の兵士や低ランク冒険者から奪うと、後でその者は戦いで死んでしまうかもしれない。
だから退役間近の門の番をしている老兵から奪ったのだ。
「一言だけ言っておく」
帰り際に振り向いて、エドワードは言った。
「はい」
「君はもう十分に国に尽くした。退役後は何があっても戦おうなんてしては駄目だよ。年なんだから無理せず、のんびりと過ごしなさい。いいね」
「はい。ありがとうございます!」
老兵はそこまで自分のことを気遣ってくれた王子のやさしさに涙を流した。
この話は、後に兵士たちの間に広まり、末端の一兵卒のことまで気にかけてくれる王子として、エドワードは国軍の兵士から圧倒的支持を集めるようになるのだが、それはまた別の話である。
エドワードは自室に戻ると、メイドたちが探していた。
「エドワード様、どこにいらしたのですか!」
「これからスキル開花式なのですよ」
「分かっている。だから準備していたんだ」
「もう、エドワード様っ!」
メイドたちに怒られながらも、エドワードは心の中で『剣士』のスキル以外を隠蔽するように、スキルを発動した。
(これで、うまくスキルを隠せたかな)
そうして、エドワードはスキル開花式に臨んだのであった。
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