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3・・なるようになる


案内された部屋のベットに腰掛けた彩綾は、大きく伸びをした後ゴロンと寝転んだ。


「あーーーーもしかしたら、これって異世界転移ってやつ?」


まさか現実に起こるとは。

まさか自分の身に起こるとは。


異世界転移の小説は親友のエイミがはまっていたから、何冊か勧められて読んだことはあった。


「小説で、異世界に着いたら皆どんなことをしていたっけ?チート能力とかあったっけ。……って何か私持っているのかな」


テオさんとは言葉が通じていた。

これってチート?


部屋を見渡すと、本棚に本がいくつか置いてある。

立ち上がって手にとって、中を開いてみた。

「……文字は読めない。こんな文字は初めてみたよ」


本棚には可愛らしい装飾が施された箱や布で作られた人形が飾ってある。

恋人の部屋っていうより……女の子の子供部屋みたい。

テオさんの家族のお部屋なのかな。


「考えてもしょうがない。もう寝よう」

彩綾は、部屋の扉の鍵を閉める。


テオさんを信用してないわけじゃないけれど、念の為……ね。


ベットに入る前に、一緒にこの世界にやってきたカバンの中身を確かめようとベットの上に中身を広げた。

お財布、化粧品、手帳……そして携帯。


携帯の画面を表示させると日付や時間がバグっているのか、数字ではなく四角や記号に置き換わっている。

充電はバッチリ残っているけれど、勿論、圏外。


元の世界と通じるはずの携帯が動かないとわかると、なんだか諦めがついた。

「はぁ。とりあえず電源は落としておこう」


部屋を見渡してもコンセントらしきものは見当たらない。

これから充電ができないかもしれない。


電源を落とす前に、一度保存してある写真を画面に出した。

最近、桜の前で撮った親友のエイミとの写真。画面の二人はすごく楽しそうに笑っている。


『なるようになる』

親友のエイミの口癖を口の中で呟いた。


テオさんは私のことを「迷い人」と呼んだ。

異世界からやってくる人の名称があるということは、この世界へやってくる(異世界人)が多いのだろうか。

もしかすると、ここ(異世界)に来たということは元の世界へ戻る方法だってあるかもしれない。

テオさんに明日聞いてみよう。


情報をもらえる相手がいるだけ、ラッキーだったってことで。

パンも食べれたし、鍵付きの部屋に綺麗なベット……うん、スタートとしては悪くない。


そういえば……確か異世界モノって、恋愛要素アリだったよね。

残念ながら、私は恋愛モノのヒロインにはなれそうにもないな。

テオの愛想のない、どこか鋭さがある端正な顔を思い浮かべながらそんなことを思った。


笑顔になったらきっともっと素敵なのに。……って、何を考えているんだ、私は。


電源を落とした携帯をカバンの内側のポケットに入れると、彩綾はもう一度ゴロンとベットへ寝転がる。


「帰るまでの生活はどうしよう」


お金もない。家もない。

すぐに帰れるのなら問題はないけれど……。


「仕事を探さなきゃいけないかな」


私にできる仕事ってここにあるのかしら。

事務仕事をしているからキーボード打ちや書類作成能力はそこそこある、はず。

でも、ここでは使えなさそうな能力だ。


明日テオさんにこの世界のこと、色々聞いてみよう。


「ん〜〜」

手足を伸ばして大きな伸びをすると、大きな欠伸が出た。


考えてもしょうがない。よし、寝よう!


彩綾はベットに潜り込んで体を丸める。

連日の仕事疲れの上に、異世界転移で精神的に疲れていた彩綾は、眠れないかもという一抹の不安なんて全く必要がなかった。


あっという間に深い眠りの中へ落ちていった。



§



ガチャッと扉が開く音で、彩綾は目をうっすらと開けた。

目の前の見慣れない天井をぼんやりと見つめる。


……ここはどこだっけ。


「あっっ!」

自分がいる場所を思い出した彩綾は慌てて飛び起きた。


─私ったら呑気にぐっすり寝てしまったんだ。


自分の神経の太さに呆れるやら感心するやらだ。

お風呂も入っていない、顔だって洗っていない。

きっとひどい顔だろう。せめて顔だけでも洗いたい。


部屋の扉の鍵は壊れた様子もなく、しっかりとかかっている。

テオの紳士ぶりにほっと安心しながら、彩綾はそっと部屋の扉を開けた。


「おはようございます」


大きな紙袋をテーブルの上に置いていたテオがチラッと彩綾の方を見て、小さいけれども聞こえる声で「おはよう」と返してくれる。


挨拶を返してくれたことにほっとしながら、テオに顔を洗いたいことを伝えると、洗面所を案内してくれた。


「シャワーを使いたかったらどうぞ。タオルはこれを使って。あと……あんたのその服は……ここでは目立ちすぎる。これに着替えて。多分サイズは…… 合っていると思う」


そう言って少し目を逸らしながら手渡してきたのは、テオが着ている洋服と同じような素材のワンピースだった。

こっちの世界のものなのだろう。


無愛想なのに、気配りがすごい。


「何から何までありがとうございます」

お礼をいうと、テオは「ん」と短く一言返事をすると逃げるように洗面所を出ていった。



彩綾は案内された洗面所をぐるりと見渡す。


向こう(元の世界)のユニットバスみたいだ。

トイレ、洗面台、シャワーブースがある。

ここも清潔感があり、掃除がきちんとなされているのがわかる。



「どうやって使うんだろう」


シャワーを浴びようと思ってお湯を出そうとした彩綾は首を傾げた。

向こう(元の世界)みたいに蛇口にレバーが付いていない。スイッチか何かないかと触っていたら、不意にシャワーヘッドからお湯が出てきた。


「自動センサーでも付いているのかな」


もう一度触るとお湯が止まる。

テクノロジーが発達している……世界なのだろうか。


「テオさんに色々聞かなきゃいけないことたくさんあるなぁ」


忘れてしまわないように、頭の中にメモをする。



シャワーを浴び、スッキリした彩綾はテオから渡されたワンピースに袖を通してみた。

驚くことにサイズがちょうどよかった。

彩綾は細身で170センチ近くあるから、日本ではサイズがあう洋服探しに困ることが多い。


こっちでは、この体型が標準なのかな。


ワンピースの着心地は良く、デザインもシンプルで彩綾好みだ。


「テオさんの恋人のものかしら」

恋人がいるなら、これ以上テオにお世話になるのは申し訳ない。

そこも聞かなくては、と頭のメモに追加する。



「服を用意してくださってありがとうございました」

洗面所をでた彩綾はリビングでくつろいでいる様子のテオに声をかけた。


「……ああ」

彩綾を一瞥したテオは、テーブルの上を指差した。


「パンを買ってきた。食べるか?」

「はい!いただきます!」


起きた時に聞こえた扉が開く音は、テオが買い物から帰ってきた時の音なのかもしれない。

わざわざ用意してくれたのかな。

優しいな。


テーブルの上に並べられたパンは、まだ温かくて出来立てのようだ。焼いたばかりの香ばしい食欲を刺激する香りが漂っている。


紅茶を淹れてくれたテオにお礼をいいながら、パンを一口頬張った。

「美味しい!」

思わず声が出る。


「……そうか」

どことなくほっとしたような口調のテオは、相変わらず表情が読めない顔をしたまま黙々とパンを口に運んでいた。


「……どうした?」

彩綾の視線に気づいたのだろう。

テオがちらりと彩綾に視線を投げかけると、食べる手を止めた。


「あ……あの……突然やってきた私を泊めてくださった上に、ご飯まで用意してくださって、ありがとうございます」

「……迷い人だからしょうがないだろう」

「その、迷い人ってよくいるんですか?」

「……よく、ではない。こうやって会うのは俺は初めてだ。周りにも会ったという人は聞いたことはないが……数年に一人の割合でこの国にやってくるとは聞いたことはある」


数年に一人……。それに見事に当たってしまったと言う訳か。


「他の迷い人の方は、今、どうしているんでしょうか」

「俺にはわからない。……迷い人を研究している奴がいる。ちょうど今、王都を離れていて……2、3日で戻ってくるそうだ」


そんな仕事があるんだ。

その人なら元の世界へ帰る方法を知っているかもしれない。


「2、3日……それまでどうしよう」

すぐに会えないことに少しばかり落ち込んだ後、それまでどうすればいいのか途方に暮れる。


「そいつが王都に来るまで、ここにいればいい」

なんでもないかのようにテオが言った。


「……いいんですか?」

「他に行くアテでもあるのか?」

「ないです」

首を慌てて横に振る。


「……だったら、ここにいればいい」


思わずテオを見つめる。

僅かに頬を赤くしたテオが頬杖をついたままそっぽを向いていた。


「……テオさん、恋人はいらっしゃいますか?」

「は?」


質問が意外だったのか、目を丸くしたテオが顔を戻した。


「ほら、恋人がいらっしゃるなら、私がこのままお邪魔しているのは申し訳ないですし……」

「……いないから気にしなくていい」

「そういえば、エミリーさんって……」


昨夜扉を開けた時にテオの口からでた女性の名前を思い出した。

窓辺に置かれた蝋燭の光といい、テオはエミリーさんを待っていたのではないだろうか。


彩綾の口からエミリーという言葉が出た時、あからさまにテオの顔色が変わった。

テオがじろりと睨むように視線を投げかけてくる。

「気にしなくていい」


その名前はテオにとっては、地雷かもしれない。

気をつけよう、と心に思った。


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