表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

まさかストーカーではありませんね?


「どういうことでしょうか。急に?」


あのようにたくさんの人だかりは、いったいどこから湧いて出たのでしょうか?


けれどその時にはもう、私はチュロスを腹の中へと送り込んでおりましたので、関係ないやと先を急ぎました。

……。

……。

……と見せかけて、私は踵を返します。


困っている人を放って先を急ぐなど、鬼畜の所業。


私は人混みを掻き分けて、キッチンカーへと乗り込みました。


「なんだおまえは! なんで勝手に入ってくるんだ!」

「私は澤田絵令と申します。なんでもいいから早くチュロスを揚げてください」

「う、う、うぃ、わかった」


私はすでに揚がっているチュロスに砂糖をまぶし、包み紙にくるくると巻き巻きし、300アレを受け取りながら、チュロスを渡していきます。


「すみませ〜ん! チュロスを2本、いえ、3本、待って! アラハムさんのためならエンヤコラで、やっぱり5本ください!」

「アラハムさんのためにチュロスを10本ですね。毎度ありがとうございます!」


そして、隣で忙しくチュロスを揚げているアラハムさんに向かって、20本追加でぇーーす! とお伝えします。


片っ端から大量に売り上げていき、ようやく人だかりが解消しました。


「ふぅーやっと終わった……」


1時間は経ったでしょうか。

アラハムさんもイスに腰掛けながら、魂が抜けてしまったかのように、天を仰いでいます。


「つ、疲れた……」


けれど、なぜか半端ない達成感。


「やり切ったあ」


私たちはお互いに顔を見合わせ、グータッチを交わします。そして、アラハムさんが残っていたチュロスをぐいと渡してきます。


「食え」

「頂戴します」


無言で一緒にチュロスに食らいつきました。

ごちそうさまでございます。



「送っていく」


アラハムさんがエプロンを脱ぎ、バサっと座席に放ります。


「もう帰るだけだし、手伝ってくれた礼だ」

「それはそれはありがとうございます。実はもうへとへとです」


私が笑いながらそう言うと、アラハムさんもふすっと吹き出して、俺ももう限界だと笑いました。


その笑顔といったら、まるで太陽のように輝いています。無愛想とばかり思っていましたので、これにはやられました。ズキュン。


「笑うと幼く見えるのですね。アラハムさんはお幾つなのですか?」


運転席に座り、私を助手席へと促します。私は助手席に座り、シートベルトを……


あれ? ない。

運転席にも……ない。


「ん? 俺か? 俺は27歳だ」

「そうですか。一つ歳下ですね」


ブゥーとエンジン音。ガタガタと小刻みに揺れて、走り出します。


「歳下で悪いか! あいつは……あの男は幾つなのだ?」

「あの男?」

「公園にいただろう? あのいけすかない男のことだ」

「庭師のカンジさんですね。23歳と聞いています」

「はっ! 俺より全然歳下じゃねーか。若造め! 俺からしたら乳飲み子と一緒だな。今度会ったら捻り潰してやる!」


ハンドルを操作しながら、興奮気味にお話しされます。


(なんだか無駄なライバル心ですね)


そして、キッチンカーを停車させると、


「え、エレ。こ、今度またこのキッチンカーの手伝いをしてくれないか?」


私は素直にはいと頷きます。


「今日はチュロスでオッケーですが、では次からアルバイト代をいただきます」

「あっ! バイト代……」


私はキッチンカーを降り、言いました。


「今回は送ってくださった、この御心をいただきましたので、それで十分でございます」


アラハムさんは顔を真っ赤にしながら、「わかった! ではまた」と言い、アクセルを踏みます。


私は爆走していくキッチンカーを見送り、そして布地屋さんに入りました。

ふと。


「なぜ、私がここに行くことを知っていたのかしら?」


ぞわりと背中に悪寒が走ります。


「まさか……新手のストーカー?」


謎は深まります。怖。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ