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チュロスは最高ですがなにか?


二歩、進みます。


「なんでこっちに来ないんだ! わかった! 金だな! 金がないんだな?」


そんなことはございません。先日レオポルドさんに、お給料をいただいたばかりで、懐は潤っております。

次に、三歩後退してみました。


「そうだよな、食うよな! 揚げたてを食わせてやる、早くこっちに来い!」


また二歩、進んでやりました。


「おいおいおい! タダで食わせてやるから!」


三歩後退。


「そうだろう、タダに勝るものはなし!」


二歩進めば、「ちょ待てよ! こんな美味いチュロスはここだけだっ、どこにも売ってないからな!」と。


飽きてきました? 承知しました以下略。


ただ、こうして前後の反復運動を繰り返しているうちに、店員さんが少し可愛らしくなってきました。


「なあ食べてみてくれ。改良に改良を重ねてできた自慢の一品だ。本当に美味しいから! 保証するから!」


カーリーな黒髪に垂れた犬の耳が見えそうなくらい、懇願しています。


私は自分で言うのもなんですが、情に厚い方でございます。垂れ耳ショボンな褐色イケメンを放っておくこともできますまい。


二歩離れ、三歩戻るを繰り返していれば、いつかはキッチンカーへと辿り着きます。フォークダンスなステップを踏みながらも近づいていき、そして振り返って満面の笑みで、「チュロスをひとつくださいな」と言ってやりました。


さっきまで(´・ω・`)だった店員さんは、太い眉を逆ハの字に吊り上げ、そして「まいどありっ!」( ^∀^)と、喜びに包まれた声を上げました。


そこで私は初めて、店員さんの名札を目にします。


アメリカンドッグの時はファンクラブな取り巻きがたくさんいらっしゃったし、公園でカラアゲ&モチモチポテトを購入した時は、カンジさんと一触即発だったものですから、お名前にまでは目が行き届きませんでした。


名札には、『アラハム』とあります。


「アラハムさん。いつも美味しいものを提供してくださって、ありがとうございます」


そう伝えました。

すると、アラハムさんが、チュロスを揚げている手を止めて、俯いてしまわれました。よくよく見ると、お顔が真っ赤になっているようです。


「おう」


チュロスより熱々な表情に、私も嬉しくなりました。


(可愛らしい方です)


私は、笑顔で300アレを渡し(タダでいいと言われましたが、やはりタダほど怖いものは無しということで)熱々のチュロスを受け取ります。


その時、アラハムさんの手が、私の手にちょんっと触れました。さらにお顔を真っ赤にされるアラハムさん。


「ま、ま、また買いに来てくれ」


そう仰るので、心では(ってかそちら様がいつも私が行くところにいらっしゃいますよね)と思いつつも、「ラジャーです」とお返事しました。


そして、熱々のチュロスを頬張りながら、私は布地屋さんへと向かいました。


「なにこれうまっ」


サクッサクともっちり感を兼ね備えた歯ざわり舌ざわり、まぶされたシュガーが生地の甘みを引き立たせてくれます。細長いフォルムは持ちやすさ、食べやすさを追求した究極形態、『棒』。


結構、お腹も膨れることから、腹が減っては戦はできぬ的場面など、多種多様な場で活躍してくれること間違いなし。


「美味しい!」


もちろん口の周りについたシュガーもペロペロリ。

お腹も満腹になったところで、広場を出ようとしたその時。


キャアキャアと背後で騒ぎが起きていました。振り返ってみれば、さっきまでお客さんが1人も居なかったキッチンカーに、女性の群れが殺到しているではありませんか。


アラハムさんがお一人で、オタオタしているお姿も見えました。


(あらら、囲まれてしまってますね)


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