夢の話
実際に見た夢を少しアレンジしてできた話です。
広い草原の中のまるで腰掛けられるのを待っているかのような薄っぺらな岩のうえで、私は怯えていた。淡く色付いたころの子供たちが集められ表情もなくそれぞれ座り込んでいた。それから、草を踏みながら先生がこちらに歩いてくる音がした。うずくまって祈る。どうか選ばれませんように。その僅か数秒後、私の頭の上に、大きくて優しい手のひらが乗せられた。浮かんだのは諦めだけだった。仕方ない、さあ行こう。顔を上げ、立ち上がると先生と目が合った。困ったように微笑んでいた。思い返すと、その時の空はくすんだ青だったが、水槽の中から見上げた水面のようで綺麗だった。
草原はどこまでも続いてはいなかった。少なくとも片方の端は目の前にそびえる廃墟のような建物で示されていた。そして私はそこに向かっていた。入り口は少し高いところにあったため木で橋のような道が作られていた。私と同じく選ばれてしまった子供たちは、順々にその道を登っていく。その道のはじまりのところには別の先生が立っていた。彼女もまた教師に相応しい優しさを兼ね備えているように見えた。私は彼女に嘆いた。
同じ学年では私しかいないみたいです。
すると彼女は小さく励ましてくれた。どうしようもない事だ。私は少しだけ頷き、とうとう脆く軋むその道に踏み出した。
中へ入ってみると、そこは暗闇だった。そして、壁や天井など至る所に数字が書いてあった。なにかのアトラクションによく似ている。部屋の中を不思議そうに眺めていると、突然機械音が鳴り、ゲームが始まった。本能的に、このゲームのルールを理解した。それは、壁中に散りばめられた数字のなかから、同じ数に触れるという神経衰弱のようなものだった。よくある制限時間を知らせる時計の音が鳴り響いている気がした。そして必死に体を動かした。ゲームは6から始まっていた。それから7、8と合わせていった。最後に9を合わせておしまいだったが、手を伸ばして触れているつもりでもなかなか届いていないようだった。最後の9は、部屋の入り口の近くの床にあったため、入り口から様子を伺っていた誰かが、さっと足を伸ばして9に触れてくれた。これでゲームはクリアした。
私は次の部屋に進んだ。今度はバドミントンだった。狭い横長の部屋のなかに6つの小さなコートがあった。子供たちは入れ替わりながら試合をしていた。なんとか勝たねばならないらしい。私も参加した。運動は得意ではないが、体育の授業で散々やったバドミントンだけは少し上手だった。あっという間に勝利し、その部屋を去った。
次の部屋は和室だった。そしてそこでは何も課せられはしなかった。ただ部屋の隅の薄暗い場所に静かに座った。そうしているうちに、私の意識はぼんやりと遠くへいってしまった。
怒りが体を支配していた。目の前には少女が3人。私を見て怯えていたが関係ない。
お前は人からの賞賛を求めて私の名を名乗ったのだろう。浅ましい。
私はそう冷たく言い放って、腕を振った。1人の少女の首が飛んだ。その少女の血を浴びた残りの2人は震える声で、彼女は他の者を守るためにそう名乗るしかなかったと、私に訴えた。私のなかに少しだけ後悔が生まれたが、怒りと混ざってついに発狂した。残りの2人は殺すに殺せなかった。
はっと気がつくと、私は変わらず部屋の隅で座っていた。あまり時間は経っていないように思えた。顔を上げると部屋の中央あたりに少女が1人立っていた。周りの子供たちもそっと彼女の様子を伺っている。彼女は焦っているように見えた。また何かに怯えているようにも見えた。よく見ると、彼女の右手には金色のどろどろとしたものがまとわりついていた。それはだんだんと彼女を侵食していった。静かに見つめていたが、鼓動が速まっていくのを感じた。そして彼女は突然走ってその部屋を飛び出した。
いつの間にか私は部屋を飛び出していった彼女になっていた。走って走って、周りの景色が見えないほどに速く走った。ただ薄い暗がりの中を駆け抜ける間、込み上げてきたものは悲しみと憎しみと激しい怒りだった。殺してやる、殺してやる。遠くに、3人の人影が見えた。そして気がついた。ああ、私はこれからあの中の1人を殺すのか。