77話 軍神魔王・カルナバル9
※誤字報告ありがとうございます、大変助かります!
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一口にeスポーツのプロと言ってもその特徴は大きく違う。
例えばアカネは自身の現実の技術をVRゲーム内に持ち込む現実技巧の達人、サイゾウであれば自身の知識を各ゲームにおいていかに再現するかに長けた虚構技巧の雄。
後藤礼二とヴィクトリア・マッケンジーはタイプが似ているが、その『ゾーン』による知覚領域・思考速度の拡大を極限まで活かす技術と読み、知識を有したオールラウンダー。
それではモナルダ・サイネリア姉妹のプロとしての強味はなにか――?
「アーツ《ウエポンガード》」
クルクルと巨大な戦斧を指先と手首で操り、モナルダはイクスプロイット・エネミー“尸解兵・饕餮”の攻撃を受け止めていった。あらゆる角度、高速の攻撃にモナルダが残さず対応できるのはその体幹――バランス能力と柔軟性があるからこそである。
■出た出た! モナの変態軌道!
■アレだろ? 新体操のバトンだったっけか?
■のけぞりながら斧で攻撃受け止めるって、おかしいだろ!?
■しっかし、いつ見ても柔らけぇな、身体
そう、モナルダとサイネリアはプロプレイヤーとして珍しい、リアルの方も有名な姉妹である。紫倉あずさ・紫倉きずなの姉妹は新体操の選手として知られており、かつてはオリンピックの強化選手にも共に選ばれた現実身体能力の達人である。
特にバトンを得意としており、ゲームにおいても巨大な戦斧や戦鎚を自在に使いこなす動きはとにかく魅せプレイとして優秀で、個々の人格的個性も合わせてバーチャルアイドルとしての受けもいい。
(アレはさすがに真似できないなぁ)
アカネでさえそう思う体幹は、あらゆる角度の変幻自在な攻防を可能としている。他のプロにもこれだけは負けない、などとモナルダも思っていたのだが――。
(クロとエレ、あいつらアタシたちに体幹で対応しやがったからなぁ。どういうリアルなんだろ)
コラボの時を思い出し、モルナダは内心でこぼす。実のところ、壬生黒百合は『ゾーン』によって脳裏に刻んだイメージを正確に描写したに過ぎない。エレイン・ロセッティは体幹では大きく劣るものの、リアルの柔軟性と精密なVR空間での身体の制御力で再現しただけである。
『カ――』
「それはもう読んでるっての!」
大きくのけぞってのモルナダの爪先蹴り、それがかざそうとした饕餮の右手首を蹴り上げる。ドォ! とアーツ《糧として貪る》いう衝撃が上空で空打ちされた。
《――イクスプロイット・エネミーには、称号《英雄候補》並びに《英雄》を所持していないPC・NPCはダメージを与えられません》
しつこいシステムメッセージは無視する。はいはい、遅刻したアタシが悪ぅございましたよ!? わかってますよ!? あー、もう完全無欠にアタシのせいじゃん! 絶対、切り抜き動画作られて延々とツッコミ入れられるヤツっしょ!?
『――カカッ!』
だが、饕餮は笑う。蹴り上げられた右腕をそのままに――グ! と握りしめた左手が、足場を削ぎ落とした。
† † †
檮杌が前衛に、饕餮が中衛から後衛に立って併用する――黒百合が想定したこの運用方法は、正解である。
本来は檮杌が前衛に立って敵を引きつけ、そこに饕餮がアーツ《糧として貪る》を叩き込むというのが正統な使い方だ。なにせ、エクシード・サーガ・オンラインにフレンドリーファイアはない――饕餮によるアーツの効果は、檮杌には一切影響を与えないのだから。
そして、本来はイクスプロイット・エネミーではなく通常のエネミーである檮杌と饕餮が集団で行なう――軍団運用にこそ、その真価はあった。
だが、どんな能力も状況に合わせて使用することで効果は大きく変わる。地面を削り地形を変えるという使用法も、そのひとつだ。
(やっば!?)
モルナダは、自分の失策を悟った。これはリスポーンかなぁ、と空中で身動きがとれないそこへ迫る饕餮の右手にぼんやり思う。自分の顔を饕餮が掴む――そう思った、その時だ。
■避けろぉ、モナァ!
■いや、大丈夫だろ避けなくても
■だなぁ
あんたたちの中でアタシの扱いどうなってんの!? とモルナダがコメントの流れに思った刹那。
■――ウチの赤青姉妹以上に、向こうの黒白姉妹おかしいわ
ズダン! とモルナダの顔面を掴もうとした右腕が矢に斜め上から貫かれ、軌道が逸れる。更に、背後から妙な奇声が聞こえた。
『あい、きゃん、ふらああああああああああああああああああああああああああい!!』
SDモルナダが乗った蒼黒い一本の槍が、饕餮の腹部を刺し貫く! そのまま吹き飛ばされる饕餮に、モルナダは目を白黒させた。
「はい?」
『ちゃんすだぞ、ほんたい! ゴーゴーゴー!』
SDモルナダが、虚空に消える。壬生姉妹、黒百合と白百合からの援護狙撃であった。ただ、さすがに黒百合は白百合ほどの精密さは無理だったので、SDモルナダを乗せて尾の一本を操作、微調整した上で、だが。
「サイネリア!」
「うん!」
着地と同時、モルナダとサイネリアが同時に前へ。新体操の団体競技のような、一糸乱れぬ横回転により移動――サイネリアの戦鎚が顔面を、モルナダの戦斧が足を、それぞれ饕餮を捉えた。
「《超過英雄譚:英雄譚の一撃》!」
そこへアカネの《超過英雄譚》を乗せた右掌打が、重なる。吹き飛ばされた饕餮は上空へ、アカネは叫んだ。
「今だよ! 一斉攻撃!」
空中で逃げ場のない饕餮へ、積年の恨みと言わんばかりに《超過英雄譚》の雨あられが叩き込まれていった。
† † †
《――リザルト》
《――イクスプロイット・エネミー“尸解兵・饕餮”討伐》
《――レイドバトル参加者、偉業ポイントを一〇獲得》
《――アイテムドロップ判定。四凶の欠片✕4、魂魄:饕餮を取得》
《――リザルト、終了》
† † †
南門――そこでシステムメッセージを確認して、サイゾウはイクスプロイット・エネミー“尸解兵・檮杌”に告げた。
「さて、次はお前の番でござるよ」
『ォオオオオッ!』
檮杌の砲弾のような右拳が、サイゾウの顔面へ放たれた。だが、サイゾウの頭を拳がすり抜ける。そう見えるほどの最小の動きでサイゾウは檮杌の懐へと飛び込み――。
「――忍法! 一本背負い!」
左手で檮杌の右手首を掴み、右腕をL字に檮杌の肘へ引きつける。そして、そのまま文字通り背負うように腰を起点にサイゾウは投げ飛ばした。だが、サイゾウは空気を背負ったような軽さを感じている。その理由は、すぐに察せられた。
(自分から――跳んで――)
檮杌が尻尾を振るいながら横回転、自ら投げられるままに跳んで背中から落とされることを避けたのだ。このまま着地と同時に、サイゾウに反撃を――そう思ったのだろうが。
「読み通り!」
その空中に、一条の閃光が走った――エレインのコンボ:クルージーン・カサド・ヒャンだ。
『――ッ!?』
光に貫かれ、檮杌が吹き飛ばされた。“百獣騎士剣獅子王・双尾”を乗せたその一撃は、強力無比だ。空中で踏ん張れるはずもなく、檮杌は宙を舞う!
「うっしゃあああああああああああああああああ!!」
そこへアーロンが大剣を突き立て、《超過英雄譚:|英雄譚の一撃》を乗せて刺し貫く! 鋼鉄のように硬い皮膚を、強引に貫いた大剣はうつ伏せに檮杌を石畳ごと地面に縫い付けた。
「――やれ!」
アーロンの合図に、隙を伺っていたPCが一斉に《超過英雄譚》を繰り出していく。あっという間に必要数を越えたそこへ、巻物――“魔法の巻物”を展開したサイゾウが九字の印を組む。
「臨む兵、闘う者、皆 陣烈れて前に在り――!」
巻物から浮かび上がるのは、炎の水墨画。それは唐獅子の形を取って、檮杌へと疾走した。
「忍法火遁唐獅子疾走!」
ゴォ! と燃え上がりながら牙を剥く唐獅子、その突撃が身動きの取れない檮杌を直撃した。
† † †
《――リザルト》
《――イクスプロイット・エネミー“尸解兵・檮杌”討伐》
《――レイドバトル参加者、偉業ポイントを一〇獲得》
《――アイテムドロップ判定。四凶の欠片✕4、魂魄:檮杌を取得》
《――リザルト、終了》
† † †
ワ! とその派手な忍法らしい魔法に、周囲が沸く。その中でジーンと胸を熱くさせながら、サイゾウは呟いた。
「拙者……今、猛烈に忍者しているでござる」
「サイゾウ、イエーイ!」
「イエーイでござるよ、エレちゃん殿ォ!」
エレインのハイタッチに、サイゾウは両手で答える――サイゾウこと加藤段蔵、生まれながら忍者を愛する宿命を背負ったeスポーツプロプレイヤーにしてアイドルオタク……どこまでも業の深い漢であった。
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こいつら、生き生きと楽しんでるなぁ、と思います。
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