70話 軍神魔王・カルナバル2
※誤字修正、助かっております。ありがとうございます!
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《――イクスプロイット・エネミー、“序列第二位魔王尸解仙蚩尤・影”の出現を確認》
《――突発偉業ミッション、『軍神魔王カルナバル』へ移行します》
† † †
「いきなりなにを始めるかな!? 運営は!」
壬生白百合のもっともな言い草に、壬生黒百合は答える前に行動を開始していた。
「サイネリアとその視聴者の人にお願いしていい? 動画配信している人に、あの四体のイクスプロイット・エネミーが行った場所を伝えて欲しい」
東の住宅地、中央広場、西の商店街、南門――それぞれをセント・アンジェリーナのマップに印をつけて、黒百合はサイネリアの元へ送信する。それを受け取って、サイネリアは頷いた。
「わ、わかりました。みなさん、お願いできますか?」
■OK! これが配信動画で見てた伝書鳩か!
■他の配信に堂々と行けるの楽しいな!
■クロちゃんたち、どうするん?
視聴者の質問に、黒百合はまず白百合に視線を向ける。そのまま頭の上のSDモナルダを一体、白百合に手渡した。
「シロ、緊急で配信始めて。この子同士、繋がってるよね?」
『おう! れんらくがかりね、まかされたわ!』
『んじゃ、アタシはサイネリアのほうにいくね!』
頭の上からこちらの意図を察したのだろう、一体のSDモナルダがサイネリアの手元に飛び乗った。
「ん、ありがと。シロはエレインとディアナに連絡よろしく。その上で弓で敵を狙えるポイントを探しておいて」
「わかった。気をつけて」
「ん――ちゃんと掴まってて?」
『りょうかいー!』
ぎゅ、とSDモナルダが頭の髪飾りにしがみついたのを確認――同時に新装備に換装した。
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PN:壬生黒百合
HP:150
AP:150
攻撃力:35/25
防御力:40
所属:
ホツマ妖怪軍
称号:
《英雄》
《影の討伐者:妖獣王》
《単独討伐者》
《不屈なる者》
《月の犬討伐者》
《ホツマに至る者: ホツマ妖怪軍》
《妖獣王の想い人》
《セント・アンジェリーナの守護者》
偉業ポイント:
1140
▼装備
左:小狐丸弐式(攻撃力:35/アーツ:斬鉄Ⅱ・受け流し・地摺り狐月)
右:百合花弐式(攻撃力:25/アーツ:剛斬撃Ⅱ・受け流し・三段突き)
頭:ホツマの戦飾り(防御:8 HPアップ:5 APアップ:10 受け流し性能:5)
胴:ホツマの千早参式(防御:8 HPアップ:10 APアップ:10)
腕:ホツマの手甲(防御:8 HPアップ:5 APアップ:10 攻撃力上昇:10)
腰:ホツマの袴参式(防御:8 HPアップ:10 APアップ:5 回避性能:5)
足:ホツマの脚甲(防御:8 HPアップ:10 APアップ:5 回避性能:5)
アクセサリー1:妖獣王の黒面
アクセサリー2:トレントの護符(消費AP削減:10)
アクセサリー3:武神のたすき(攻撃力上昇:5 受け流し性能:10)
アクセサリー4:生命の護符(HPアップ:10)
アクセサリー5:精神の護符(APアップ:10)
●エクシード・サーガ
《超過英雄譚:英雄譚の一撃》
●アーツ
▼小狐丸弐式
・斬鉄Ⅱ
・受け流し
・地摺り狐月
▼百合花弐式
・剛斬撃Ⅱ
・受け流し
・三段突き
●アビリティ
HPアップ:50
APアップ:50
攻撃力上昇(中)
受け流し性能(中)
回避性能(小)
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――もやは装備内容も見た目も、白百合との鏡合わせではない。腕や脚は鎧武者のそれに、蒼のたすきによって勇ましさが増している――正式サービスに合わせ、新しくCGデザイナーが新規作成したスキンに合わせた装備である。
「――“黒面蒼毛九尾の魔狼”」
『GA、AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』
蒼黒く揺らめく狼頭が、天に向かって吼える――それと同時、九本の尾の内一本が変形した蒼い大太刀に掴まって黒百合は空へと駆け上がった。
『うっひゃあああああああああああああああい!』
「舌噛まないようにね」
■はしゃいどるなぁ、SD
■今までで一番生き生きしとらんか? こいつ
歓声を上げるSDモナルダに警告しつつも、サイネリアのコメント欄が一緒に展開されていることを黒百合は確認する。
(いいな、これ。ウチの方でも使えたら使ってみたいツール)
黒百合はそう考えたが、エレインやディアナ、シロのSDがごちゃごちゃ動いてるのを想像して――なんとなく、それはそれで気を遣いそうだ、と思ってしまう。特にエレインあたりは、自分のSDに焼きもちを焼きかねない。
「――確認。私はまずは東の住宅街に向かう。あそこはPCが少なくてNPCが多いから」
■ほいほい
■モナが遅刻さえしてなけりゃあ、姉妹も戦力だったのになぁ
「そこは仕方ない。今後に期待する」
いたかもしれない戦力よりも、今ある戦力が重要だ。そのまま、黒百合は全速力で東の住宅地へと向かった。
† † †
「――わかりました。こっちも緊急で配信を始めて、教会でもチュートリアルの終わったPCに四体のイクスプロイット・エネミーへの対処を頼み込んでみます」
白百合からの秘匿回線にそう返答し、ディアナ・フォーチュンは緊急用の配信を開始する。だが、それに異を唱えたのは初心者の吾妻静だった。
「いや、それでは足りないな」
「え?」
唐突な静の呟きに、ディアナが目を丸くする。静は口元に手を持っていき、唇を指先でなぞる――思考する時の、静の癖だ。
(なぜ、壬生黒百合はさっき飛んでいった四体への指示しか出していないのか? ――なるほど、なるほど。割り切ったな? まずは目の前の脅威を先に排除する。それによる士気の向上と敵を対処可能な障害と手早く認識させたい訳か……)
傍観者である彼女は、行動からその意図を察する。当然だ、公式配信者相手と言えど中身のあるPCたちも手駒のように使われて楽しいはずがない。だからこそ、まずは連帯感を先に築きたいということだろう。
ならば、初心者にしかできない方法で誘導の手伝いをしてやろうじゃないか――静はそうほくそ笑む。
「いや、すまない。意図は理解した。ところで、聞きたいことがあるのだが?」
「はい、なんでしょう」
いいね、と静はディアナがこちらに考えがあるとすぐに察してくれたことに気づく。だからこそ、その判断に甘えさせてもらった。
「私は今日、初めてログインしたばかりの初心者だ。初心者考えだと思って聞いてほしい。このセント・アンジェリーナを一望できる場所、というのはないものかね?」
「一望できる場所、ですか?」
「ああ、そうだ」
芝居がかった仕種で、静は両腕を広げる。自分がディアナの――公式の緊急配信に映っているという自覚を持って、言った。
「魔王とやらがいるんだろう? なら、高みの見物を決め込んでいるのではないかと思ってね。ほら、魔王のお約束だろう? すべてが見える場所で、こちらが慌てふためく姿を楽しんでやろう、そう決め込むのはさ――」
† † †
『ん? どうした、クロ。めのハイライトきえてるぞ?』
「ん、気にしないで……」
SDモナルダに指摘され、黒百合の中で坂野九郎が頭を抱えた。
(……なにやってんだ? あの人)
ディアナが始めた緊急配信を確認していた九郎は、声と話し方であの白拍子が年上の同級生である城ヶ崎菜摘だとすぐに察した。なぜディアナと一緒にいるか、とか疑問は尽きないが、本当にやってくれたと思う。
(あんなの聞いたら、無謀な連中が魔王の“影”を討伐しようと動くに決まってるだろうに……)
いや、わかる。それが彼女の意図なのだ。ようは、その無謀な連中を地雷原に突っ込ませ、魔王という名の地雷を捜し出してやろうということなのだろうが……どう考えても人身御供である、どんなによく言っても尊い犠牲にしかならないだろう。
(さすがに角が立つから、確かにできなかったんだけどさぁ)
確かに有効な手ではあるが、死亡ペナルティがない上にリスポーンポイントがある街中と言えど犠牲前提の作戦を口に出すのははばかられた。
だが、彼女はただディアナに尋ねただけだ――この街が一望できる場所を。
そして、一般論として魔王というのは高みの見物をするものだと言っただけ――捜せとは一言も言っていないのだ。
(だったら、捜しに行ったヤツの自己責任、か……らしすぎるだろ)
信じるか信じないかはあなた次第――さぁ、早い者勝ちだよ、と遠回しに煽ったのだ。あの人は悪魔と契約しても魂を売るタイプではない、口八丁手八丁で契約した挙げ句悪魔に魂を売らせるタイプなのだ。
(どちらにせよ、キラーパスは有効に活用しよう、うん……)
深く考えるのは止めて、九郎は黒百合として先を急いだ。
† † †
城ヶ崎さんのとこの血族は、とにかくこの手の人物が多いです。
そして、久しぶりにデータを出せました。現状、偉業ポイントはPC内ではぶっちぎりで黒百合が高くなっております(単独討伐で複数人に割り振られるはずのポイントをひとりで得たため)。
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