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58話 Raid Battle:Sun Eater&Moon Chaser14

※長かった戦いの「一応」の決着です。

後数話、処理話が残っております、はい。

   †  †  †


 このレイドバトルで、初めてスコルが大きく状況を動かした。


『認めてやろう、英雄ども――だが、まだだ!』


 スコルが身を低く構えた。空は既に、夜の気配に染め上げられている――だがスコルを中心に夜空が白く染まっていく。


■な、なんだ、あれ!?

■こりゃあ、昔から言う、例の――

■そうだなぁ、ここまでのもん見せられたら言うしかねぇわなぁ……


西()()()()()()()()()()()()()……!


 西の空が、夜明けのように色を変えていく。それは太陽を喰らったスコルがその熱量を吐き出す最大火力――アーツ“神々無き夜明け(ライジング・サン)”。その一撃を受ければ、どんなに分厚い城壁であろうとただではすまない渾身の魔法。


『止められるものなら、止めてみよ! 日和見主義者の力を持つ者よ!』

「言われなくても――!」


 カラドックが、大きく下がる。そして、“神通力(じんつうりき)黒雲(こくうん)(まも)り・一片(ひとひら)”が鎧の形から巨大な黒雲へと形を変えた。


『ライジング――』

「落ちよ――」


 ギュゴ!! とスコルの口の中に巨大な火球が生み出される。小さな太陽にも似たそれは、巨大な砲弾となって――


『――サンッ!!』

「――神鳴り(かみなり)!」


 放たれた太陽を、落雷の豪雨――カラドックの《超過英雄譚(エクシード・サーガ)不破の英雄アンブレイカブル・ヒーロー》が受け止めた。


   †  †  †


(ぐ、う――!?)


 カラドックは異常な手応えに、顔をしかめる。本来なら《超過英雄譚:|不破の英雄》はあらゆるダメージを〇に軽減する、究極のダメージ軽減系手段のはずだった。


(そ、う、か! これ、は……()()()()()()!?)


 このアーツ“神々無き夜明け(ライジング・サン)”という魔法の恐ろしさは、それだ。この魔法は超小規模太陽というべき火球が消滅しない限り、触れた物に継続でダメージを与え続ける効果があるのだ。

 太陽がそこにある限り、すべてを照らし続けるように――沈まぬ限り、焼き尽くし続ける苛烈な炎。それこそが、スコルが喰らう運命にあるものなのだ。


「こ、んな、もの……じょうへ、きに、とどいた、ら……!」


 継続ダメージによって城壁が崩壊するまで、消えないかもしれない。そうなれば少なくない被害が出る……そんなことは、許せなかった。


「ま、もる、と――や、くそ、くを――!」


 カラドックが、奥歯を噛みしめる。どうすればいい? どうすればこの状況を打破できる!? その答えにカラドックが至るよりも早く、黒雲が太陽に燃やし尽くされた。


「ぐ――!」


 カラドックは息を飲む。まだ、まだだ! この身が残っている! タンクの矜持を込めて突撃しようとするカラドック――そこへひとつの声が降り注いだ。


   †  †  †


「《超過英雄譚:あなたの英雄譚(ユア・サーガ)》!」


   †  †  †


「――ッ!!」


 その言葉と同時、再びカラドックは“神通力・黒雲の護り・一片”を展開、《超過英雄譚:不破の英雄》を再発動させた。


「ディアナ、助かった!」


 聞き覚えのある声、ディアナ・フォーチュンのフォローにカラドックは声を張り上げる。それにディアナは笑みと共に返した。


「まだです、私だけじゃないですから――」


 カラドックの周囲にコメントが展開される――それは彼女と同じタンク役の声援だった。


■頼むぜ! カラドックの姐さん!

■オレら普通のタンクじゃ、さすがにアレは止めらんねぇ! 範囲を止める手段がねぇからよ!

■だから、俺たちタンクの()()が総意だ。

■ごめんね!

■今回はこれしかできねぇけど!

■リスポーンポイントに死に戻って、やって来たぜ!


()()()()()()()()()()()()()!!


「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》!」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》!」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》!」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》!!」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》ッ」「《超過英雄譚:あなたの英雄譚》――!!」


 次々と託される想い、カラドックはそれを背負って太陽へと挑む。地面が蒸発する。視界が白く染まる。黒雲ひとつ隔てたそこは、まばゆい地獄だ――その地獄の中で、スコルが唸る。


『ぐ、おのれ、英雄ども、が……! ひとりひとりなら、脆弱な貴様らが――!』

「うん、ワタシもそう思うよ」


 答えを求めていた呟きではないのに、応じる声があった――空を見上げれば、一本の蒼黒い大太刀から飛び降りる、金色の兎がそこにいた。


「だから、みんなで力を合わせて――届かせるんだ!」

『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 牙を剥くスコル、自身を喰らおうとするその牙にエレイン・ロセッティは獅子の髪飾り、最後の一個を破壊しながら“百獣騎士剣(ひゃくじゅうきしけん)獅子王(ライオンハート)双尾(ツインテール)”を構えた。


「《超過英雄譚:英雄譚の一撃(サーガ・ストライク)》✕2! コンボ:クルージーン・カサド・ヒャン!!」


 チャージされていた《超過英雄譚:英雄譚の一撃》も合わせ、巨大な光の剣がスコルを突き刺した。クルージーン、その剣の神話での使い手が太陽神ルーグの子であるクー・フーリンであったのはまさしく運命か。

 エレインの英雄の一撃が、スコルを光の中で消滅させた。


   †  †  †


《――――イクスプロイット・エネミー“双獣王(そうじゅうおう)(エイリアス)(よう):スコル”の討伐を確認》

《――日が沈もうと月が上がる限り、時は巡る》

《――スコル再出現まで残り()()

《残り時間『05:00:00』》


   †  †  †


 西の空が白く弾け、夜へと戻る。それをハティは見た。


(五分、時間を稼げば――)


 スコルが再出現する。だとすれば、それを狙うべきだ。問題は……。


(それを、許してくれるとは、思えませんが!)


 ハティが壬生黒百合(みぶ・くろゆり)から、大きく後退しようと背後に跳ぼうとした。だが、ドン、と背中になにかがぶつかった。


『な、あ……!?』


 木などなかった。障害物など、あるはずがない。それは確認済みだ。ならば、これはなんだ――!?

 咄嗟に反射でハティは背後を確認してしまう。そこにあったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(いつ、の間に――)


 ずっと黒百合から視線は外していない。尾をそのように変えて突き刺していれば、勘づいたはずだ。ならば、いつからそこに?


『答えは、()()()()


 黒百合の思考入力を高速読解して、ハティの背筋が凍る。マーナガルムを倒した一撃、その時のそれをそこに残しておきハティを誘導したのだ。


『《超過英雄譚:英雄譚の一撃》――!』


 黒百合の一気に間合いを詰めての、掌打がハティの腹部を強打した。その瞬間、手甲が解けるように形を崩し、ハティを大太刀に縛る縄と化した。


「――今!」

「姉さん!」

「うん!」


 そこへメイベルとテオドラの弓による《超過英雄譚:英雄譚の一撃》が、ハティの両肩を貫いた。ガキン! とのけぞるハティ。その頭部へ、アカネの踵落としによる《超過英雄譚:英雄譚の一撃》が炸裂した。


「後、一発!」

『ぐ、ま、だ……!』


 ハティが、アビリティ《月光を追う者(ハティ)》によって転移しようとする。だが、その視界を残ったすべての尾を使った壁によって黒百合が視界を塞いだ。


『――ッ!』

『月光の落ちる場所に転移する、それがあなたの能力。違う?』


 黒百合の思考入力の指摘に、ハティが目を見開く。いつだ、いつ気づかれた!? まだ彼女には五回しか見せていないはずだ! なのに、なぜ――。

 その根本が、そもそもの間違いだ。五回しか、ではない。五回()と考えるべきだった。


 一回目、森の上では見当もつかず。二回目で違和感を洗い出し。三回目で推理。四回目で修正。五回目で正解にたどり着く――真剣に黒百合がハティを攻略しようとしたからこその当然の帰結だった。


「っ、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 そして、壁を飛び越え――シードルが走り込んでくる。もうリキャストタイムは終わっている、もう一回《超過英雄譚:英雄譚の一撃》が……ハティへの止めが放てるのだ。


(シードル、さ――)


 ハティは、もがく。その決定的な一撃から逃れようと――だが、その動きを止めるきっかけとなったのも英雄未満の男がこぼした呟きだった。


「あ、そこには、ミレーヌちゃんが、いるんだよ――」

『……ッ……』


 ビクリ、とハティの身体が震える。まるで魂そのものを握りしめられたかのような、冷たさではなく熱い想いが胸に溢れて――。


「やら、せる……もん、か、あああああああああああああああああああああ!!」


 シードルのミスリル銀製の短剣が、再びハティの胸を貫く。その一撃を受け入れ、ハティは崩れ落ちた。


(ほん、とうに……馬鹿な、ひと……)


 光の粒子となって、身体がかき消えていく。

 なんて……なんて馬鹿な人なのでしょう。貴方にとって、幻にすぎない女のために――貴方は、英雄になってくださったんですか……? だとしたら、だとしたら……月光のように慈悲深きその光の中で、ハティは小さく微笑んだ。


(わ、たしも……あな、たのように……ばかに、なることを……ゆるして、くれますか……?)


   †  †  †


《――イクスプロイット・エネミー“双獣王・(エイリアス)(いん):ハティ”の討伐を確認》

《――太陽と月は沈み、そこに静寂が訪れる――》

《――リザルト》

《――偉業(イクスプロイット)ミッション『Raid Battle:Sun Eater&Moon Chaser』クリア》

《――ミッションをクリアしたPCプレイヤーキャラクターは称号《セント・アンジェリーナの守護者》を獲得》

《――偉業ポイントを五〇獲得》

《――今後、英雄回廊:ヴァルホルへの挑戦が行えます》

《――アイテムドロップ判定。太陽の母の毛皮✕5、月の母の毛皮✕5、スコルソウル✕1 ハティソウル✕1を獲得》

《――クリア報酬二五〇〇〇サディールを獲得》

《――リザルト、終了》

《――引き続きリザルト》

《――PCシードルは称号《月の待ち人》を獲得》

《――アイテムドロップ特殊処理。PCシードルはブラックボックス:コモンを取得》

《――リザルト、終了》


   †  †  †

せめて、愚かになることが許せるならば本当の自分との逢瀬を――彼女の最後の望みとなりました。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブラックボックスはコモン、か。 ブラックボックスのレアリティ?というか続く言葉はどう決まっているのだろうか。思いの強さというわけでもないだろうし。 [一言] 月の待ち人とは洒落た称号や…
[一言] 双天獣王の影との決着、そして恐らく生き残った幼狼・・・ シードルとハティの二人は某竜狩りゲーの氷炎双剣のかつての持ち主の様な運命は辿ってほしく無いなぁ・・・
[一言] シードルさん巡り合わせが悪かったなぁ……掛け違えが無ければ何処ぞの牝狐みたく求婚くらいされてただろうに ともあれ防衛戦、完!お疲れ様でした!!
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