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56話 Raid Battle:Sun Eater&Moon Chaser12

※VR格闘ゲームネタも書きたいんですよね、という想いがこもった回となっております。

   †  †  †


■現状報告! Dカップ不審者姐さん分身体を単騎撃破! ハティ側に合流中!

■エレちゃん、ディアナん、スコルの方へ移動中! 他も散ってそれぞれに移動中!

■シロちゃんから報告! ハティの《超過英雄譚(エクシード・サーガ)》討伐必要数残り五回だって! 普通のイクスプロイット・エネミーより少なめに設定されてるっぽい!

■フローズヴィトニル本体発見! 追い回してるっすわ!

■ぎゃー! クロちゃんクロちゃん! たーすけてー!!


   †  †  †


(……ん?)


 九本の尾で檻を生み出していた壬生黒百合(みぶ・くろゆり)が、ふと自分に助けを求めるコメントを見つけた。


「どうしたの?」

■アカネ姐さんからのヘルプゥ! よくわかんないんだけどVR格闘ゲーム経験者募ってくれって!

「……え?」


 ガン、ガン! とマーナガルムが檻の中で暴れ続けている。気を緩めれば壊されかねない、意識を集中させながらコメントに視線を落とした。


「どういうこと?」

■オレもよくわかんねーけど、そのまま伝えるな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいんだけど、クロちゃんわかる!?


 は? と思わず黒百合は耳を疑った。モーションキャンセル? ディレイを使いこなすVRMMORPGのレイドボス? なかなかのパワーワードではないか?

 それよりも重要なことは、だ――。


「待って。アカネさんが? 競り負けてる?」

■素人目に見ても、ガチヤバい! 洒落にならんわ、あれ!


   †  †  †


「ひぎぃ!?」


 アカネは年頃の娘が上げてはならない悲鳴を上げながら後退する。これがVR格闘ゲームであれば画面端に追いやられているが、エクシード・サーガ・オンラインは不幸中の幸いVRMMORPGだ。端、という概念は存在しない。


『――ッ!』


 ハティの右の回し蹴り――この時点で、アカネは三択を迫られる。ハティの回し蹴りは出だしはまったく同じ軌道で膝から先の動きで上段・中段・下段の蹴りに変化するのだ。

(三択、三択、三択ぅ――上!)


 アカネは咄嗟に上段をブロック、衝撃が腕と側頭部に駆け抜け吹き飛ばされる。読み勝った――アカネがそう思った瞬間、ハティが踏み込み左の掌打を下から放とうとした。


(中だ――)


 ボディへの一撃、そう読んでガードしたアカネを嘲笑うかのごとくハティの身体が沈む。モーションキャンセルからの着地した瞬間を狙っての左の水平蹴り、ハティの踵が着地寸前のアカネの足を刈った。


「ふん! ぬらば!」


 アカネは空中で体勢を崩しながらバク宙。敢えて一回転して背中から落ち、タイミングをずらして受け身を取る。そのまま後転しながら腕の勢いで跳ね上がり、間合いを開けて身構えた。


(――どういうAI積んどるんじゃあ!? バカァ!)


 アカネ――その中身である赤城明日音(あかぎ・あすね)は、語彙力が迷子になる。こんなに頭を使ってVR格闘ゲームやるのはいつ以来か? 確か二年前の伝説のVR格闘ゲーム大会以来ではないだろうか?

 明日音は、その大会で初めてeスポーツのプロゲーマーとして参加、全アベスト16の好成績を残している。いや、ベスト8がかかった対戦でノンプロのワイルドカード枠に負けてしまったのだが。その勝者もベスト4がかかった対戦でゴッさんこと後の世界一VR格闘ゲーマー後藤礼二(ごとう・れいじ)相手に唯一アジア大会で1ラウンドだけ取って敗北したのだけれど――。


(ゴッさんんんんんん!? あんた調整に参加してないよねぇ!? テストプレイは人類にさせろって言ってんでしょうがァ!?)


 アレは違う、ゲーム星からやって来たゲーマー星人だ。断じて人類の枠に入れてはいけない。


(いや、わかるよ? わかりますよ!? 囲んでタコ殴れってことですよね、ですよねー!?)


 もうこれはあれだ、「後は任せた!」と自爆特攻で《超過英雄譚》を使用して倒れるべきでは? へたに長引いても事故死の可能性が増えるだけ――この状況で一番ヤバいのは、抱え落ちだ。


「よっし! 覚悟は決まった!」


 そう叫ぶと同時、アカネの構えが変わる。左足を前に半身に構え、左手は手刀の形に目の高さに。右拳は腰へと――赤城明日音が実家でやっている古流とされる武術の型だ。


『――――』


 ハティの動きが止まる。その視線が右拳に集中しているのがよくわかる――正解だ、狙いは一つ。右の正拳突きのみだからだ。


(うん、ありがとね――手、出さないでくれて)


 壬生白百合(みぶ・しろゆり)やイザベル、テオドラという弓の使い手が揃っている。だが、ちょっかいを出されれば間違いなくハティの目標が変わってしまう――そうなれば、この相手に護りきれる自信は一切ない。


「ヒュ――」


 細く深く、息を吸う。酸素を肺にではなく、身体全体に駆け巡らせるイメージ。神経を尖らせろ。細く、細く、細く――これよりこの身は、ただ敵を穿つ一撃と化す。


『――コォ――!』


 それに対してハティが取った体勢は、人狼でありながら四足のそれに近い構えだった。大地を鉤爪で掴み、後ろ足に力が溜まっていくのがわかる。狼の瞬発力を持った人型、という利点すべてを利用する、おそらくは高速攻撃。


 吸って、吸って、お互いに吸って――満たされた刹那。同時に動いた。


『カァ!!』


 ハティの特攻。真っ直ぐにアカネへと。小細工はない。ただ渾身の牙が、アカネの喉笛を狙った。


「――ッ!」


 左爪先から始まった力が、足首、膝、股関節、腰、右肩、右肘、右手首へと加速しながら繋がる。相手がなにをしようが一切関係ない、ただ己がなすべきことをなすだけの動作。

 コンマ秒、アカネの拳が速い。差を生んだのは、予備動作の少なさ。動きの無駄がないこと――ある領域では無拍子とされる、至った武術の深奥が獣の運動能力を凌駕したからこそ。


(――っ!?)


 アカネの拳が、空を切った。


   †  †  †


 アビリティ《月光を追う者(ハティ)》とは、月光の注ぐ場所に転移する能力。()()()ハティはアカネの頭上、上空へと跳んでいた。


(技ならば、私を貴女は確かに超えていました――)


 だが、これは技比べではないのだ。互いの持つ全能力を行使してしかるべき闘争、ならば自身の名を冠したアビリティを使わない理由にならない。


『――ォ――』


 咆哮によって、真下の木々を吹き飛ばす。そうして死角を見切り、そこに転移して攻撃すればそれで終わりだ。ハティはその口を開き、咆哮を放つ……はず、だった。


『グ、ア――!?』


 だが、急に叩きつけられた衝撃に吹き飛ばされ、ハティは地面に叩きつけられた。


   †  †  †


《――イクスプロイット・エネミー“マーナガルム”討伐》

《――マーナガルム再出現まで、後一五分》

《――残り時間『15:00:00』》


   †  †  †


 バキン! と目の前でマーナガルムの巨体が粒子となって消えていく。マーナガルムをここまで強引に運び、ハティに投げつけたのは誰であろう――黒髪の狼耳狼尻尾の和風美少女だった。


「あ、れ?」


 拳が空を切った直後の轟音に、アカネは目を丸くする。なにが起きたのかまったく理解できずに何度か突きの仕種を繰り返すアカネに、黒百合が振り返らずに言った。


「伝言は聞いた、選手交代」


 ハティは低く身構えたまま、黒百合を警戒する。イクスプロイット・エネミー“妖獣王(ようじゅうおう)(エイリアス)”を単騎で撃破した、正真正銘称号《英雄》に到達した者。現在の流れ、約条の狂いを生み出した最初の一滴――そして、なによりも……。


(あの妖獣王が“希望(願い)”を託した相手、ですか)


 自分があの女狐ほど浅ましい……あるいは追い込まれていたなら、その行為を羨んだかもしれないだろう。だが、ハティはそのどちらにもなれなかった――だからこそ、目の前の少女は恐るべき敵でしかない。


「時間がない。隙は必ず、作ってみせる――」


 黒百合は尾の一本で蒼黒いたすきを作り出すと、裾をめくるようにたすき掛けした。そして、二本の尾で両手を包む手甲を形成する。

 ス、と流れる動作で黒百合は左足を前へ。両手の拳を握り、胸の位置に構えると静かに告げた。


「相手になる。マーナガルムが復活する前に、終わらせる」


   †  †  †

二年前の某VR世界大会は、本当に伝説に残る大会でした。

ちなみに、サイゾウの中の人は二回戦でゴッさんとぶつかって負けています。

アカネの中の人が負けたノンプロのワイルドカード枠のプレイヤーネームは『Yoshitsune』と言ったそうです。どこの誰なんでしょうネ?




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― 新着の感想 ―
[一言] 義経・・・九郎くん・・・
[一言] 何処の誰なんでしょうねー(棒) ハティはどこぞの女狐さんみたいに図々しくなれなかったのね……優しいもんね。
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