54話 Raid Battle:Sun Eater&Moon Chaser10
※今日はもう一本上げたいなって思ってます。
※レビュー一本、いただきました。初レビューありがとうございます。感想ともども、大変励みになります。今度とも、どうかお付き合いいただければ幸いです。
† † †
炎の中で、カラドックは呼吸を整える。壬生白百合という最適なフォロー役を失ったものの、それは他のPCからのサポートで事なきを得ていた。
(タンク役としては、仕事をしている気分になるな)
レイドボスの侵攻を食い止める、そんな大役を任されることはそうはない。だからこと、“神通力・黒雲の護り・一片”の中で彼女は会心の笑みをこぼした。
『――何がおかしい?』
そんなカラドックに、苛立たしさを隠せずにスコルが吐き捨てる。勝手に動く“私”、ハティへの苛立ち――スコルはそれを抑えきれなかった。
なにより、スコルが許せなかったのはカラドックがアレの力を使うことだ。
『強大な力を持ちながら高みからものを見て満足するだけの日和見主義者。まさか、こんなところで目にしようとは……やはり、貴様ら英雄はどこまでも約条を乱す存在のようだな』
「……お前がなにを言いたいのかわからんが私が言えることはひとつだ」
カラドックは怒りに満ちたスコルの瞳を見上げる。思い出すのは、一つの小さな背中だ。圧倒的な強大な力を誇る敵を前に、迷わず挑む――愛らしいのに、なぜか雄々しさすら感じる、彼女にとって理想の英雄像。
「英雄なんて、道なき道を行く存在だ。決められた道を外れて何が悪い?」
真っ直ぐに返すカラドックへ、スコルの反応は激しいものだった。口の端から白く輝く炎をこぼし、牙を剥いて身構える。
『それが傲慢だと言っているッ!』
「はは、わかっているじゃないか」
牙に、爪に、炎を纏わせカラドックへ挑みかかる。物理と火属性の混合攻撃、本来であれば《超過英雄譚》にも匹敵するレアな属性攻撃だが、今のカラドックからすればただの物理攻撃と変わらない。
■姐さん、ちょっと英雄し過ぎでは……?
■私男だけど姐さんになら抱かれてもいいわ……
■なんか情報によるとアレもブラックボックス製らしいけど、いいなぁ。タンクなら喉から手が出るほどほしい……
■伝令! ハティと接触したPCが出たぞ!
■こっちも伝令! フェンリスウールヴが最終形態なったで! もうすぐ決着つくで!
■姐さん、もうちょっとの辛抱だ!
わかっている、とカラドックは胸中で答える。彼女の英雄に頼まれたのだ、その役目だけはなんとしても果たす、その新たな決意と共にスコルを迎え撃った。
† † †
フェンリスウールヴ最終形態――それはもはや狼の形をした赤錆色の森だった。
『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
その身体から伸びる枝は、“鉄の森”の名に相応しく鉄のように硬く攻防の要となる。伸びた枝に刺されようものなら強制的に与えられるバッドステータス【猛毒】は、前衛に立つ英雄たちにスリップダメージを与え続けた。
「アーツ《ポーションピッチ》《薬効拡大化》!」
そこへディアナ・フォーチュンが解毒薬を投擲する。本来なら単体にしか効果をなさない解毒剤というポーションの効果をアーツ《薬効拡大化》で範囲へと効果をもたらすものに変えていた。
「……これ、魔女としてどうなんでしょう?」
■錬金術師っぽいけど、魔女術だって薬使うからセーフ判定で!
■完全にディアナんがひとりは欲しいサポート要員に……
■ここまで割り切れればもう立派な戦術よ!
■魔法使うだけが魔女じゃないって!
サポートに主眼を置いていった結果、完全に攻撃手段を失ったのがディアナである。だが、彼女の性格からすればこちらのスタイルこそ本来のものだ。よく人を見て、よく状況を把握する。木ではなく森を見る視界の広さ、とも言うべきか。サポートキャラに重要かつ大事な資質をディアナは持っていた。
■おーい! エレちゃんから伝書鳩! 『切り札の一枚切るからフェンリスウールヴを抑えて』だって!
この状況での切り札を切る、という判断。ハティの目撃証言から、エレインが状況を大きく動かすべきだと判断したのだとディアナは理解した。
エレインは決して考えなしではない。しかし、いざという時には思考ではなく感覚に判断を委ねる――そういう時のエレインの判断の正しさはディアナもよく知っていたから。
「……! わかりました! タイミング、お任せしますと伝えてください!」
† † †
サイゾウは、エレインの提案に一瞬目の前が暗くなった。
「……おじさん、時々若い子の発想についていけなくなるの」
「ん? サイゾウ、そんな年寄り? 六〇とか、七〇とか?」
「いや、そこまでではないでござるが……」
まだ三〇代である、と主張したいお年頃であった。そんな遠い目をするサイゾウに、パンっとエレインは背を叩いていった。
「お爺様、言ってたよ。老いってのは年齢じゃなくて、泣き言吐いた数だって」
「……それは格好いいお爺様にござるな」
苦笑し、サイゾウは意識を切り替える。死して屍拾う者なし、忍者とは己がなした結果だけで生き様を示すもの。ならば、今ここで示すべきは――。
「さぁ、若者の意地、見せてやるでござるよ!」
そう言ってサイゾウは二体のフローズヴィトニル分身体へ駆け出した。その瞬間、敢えてエレインが後退する。その結果起きたのは、ニ体がサイゾウに襲いかかるという悪夢であった。
「おっかな!」
一体目の牙を紙一重で躱し、二体目の爪の振り下ろしをサイドステップで回避する。一手でも失敗すれば立て続けの連撃で倒されるのは必至だ。いや、それよりもおっかないのは――。
「いっくよー!!」
「ひぃ!?」
† † †
「今です! フェンリスウールヴを全力で抑えつけてください!」
† † †
“百獣騎士剣獅子王・双尾”を構え、迷わずエレインは必殺の一撃を繰り出した。
「《超過英雄譚:英雄譚の一撃》! コンボ:クルージーン・カサド・ヒャン――」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
エレインの巨大な光の剣の刺突が、サイゾウごと二体のフローズヴィトニル分身体を貫き――そして、エレインはその場で強引に横回転する。
「――アーンド、《超過英雄譚:一騎当千》!!」
ズガン! とバーラム大森林の一角が切り飛ばされ、エレインの薙ぎ払いが二体のフローズヴィトニル分身体を消滅させ、フェンリスウールヴを豪快に切り裂いた。
その瞬間、エレインの獅子の髪飾りのひとつが黄金の光の粒子となってかき消える。
これこそが、“百獣騎士剣獅子王・双尾”のもうひとつの効果。二本の尾に本来とは別の《超過英雄譚》をチャージしておける、というものだ。その組み合わせ次第では、今のように単体対象の《超過英雄譚:英雄譚の一撃》を範囲攻撃系の《超過英雄譚:一騎当千》と組み合わせることで超火力の範囲攻撃さえ可能とするのだ。
あの壬生黒百合にして、『当たり』と評したブラックボックスの産物である。デメリットはあれど、効果に比べれば些細なものだった。
『グ、ル、ル――!?』
身体中が英雄たちの武器に貫かれたフェンリスウールヴが身悶える。これ以上の追撃はマズい――フェンリスウールヴは本能でそう理解した瞬間だ。
「ぁぁあああああああああああああああああああああああ! おっかなかったでござるよ!」
空中を跳ぶサイゾウが、演技ではなく半泣きで叫ぶ。いくらPC同士にダメージ判定がなかったにせよ、エネミーが溶ける攻撃に晒されるというのは、やはり心臓に悪く――。
「というわけで、拙者の怖さ、半分でも味わうがいいでござるよ!」
「おっ前なああああああああああああああああ!?」
フェンリスウールヴの眉間に大剣を刺していたアーロンが、思わず叫ぶ。“魔法の巻物”を展開、サイゾウは水墨画の炎を渦巻かせながら叫ぶ。
「《超過英雄譚:英雄譚の一撃》改め! 火遁降龍炎弾!!」
ゴォ! と水墨画の炎が一匹の龍の形へと――そのまま真紅の炎へ変わるとフェンリスウールヴへと襲いかかり、無数の悲鳴と共に狼の形をした赤錆色の森を焼き払った。
† † †
《――リザルト》
《――イクスプロイット・エネミー“フェンリスウールヴ”討伐》
《――レイドバトル参加者、偉業ポイントを一〇獲得》
《――アイテムドロップ判定。鉄の森の錆びた枝✕5、鉄の森の錆びた種✕1、ウールヴソウルを取得》
《――リザルト、終了》
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地味に黒百合がマーナガルムを抑えられるか否かが、成否を握っていたりします。
レイドバトルも、そろそろ後半戦に突入いたします。
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