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52話 Raid Battle:Sun Eater&Moon Chaser8

※誤字報告、いつも助かります!

   †  †  †


「ディアナ――あれ?」


 セント・アンジェリーナの教会へ壬生黒百合(みぶ・くろゆり)がたどり着くと、そこにはディアナ・フォーチュンだけではなく、スコルを抑えに向かっていたはずの壬生白百合(みぶ・しろゆり)の姿があった。


“黒狼”『シロ、早すぎない?』

“白狼”『へへ、死に戻っちゃった』


 あー、と黒百合は苦笑する。わざと戦闘不能になって、リスポーンポイントまで戻ってきたのだ。デスペナルティがないからこそのゲーム的な()()手段だ。


「あ、クロ。マーナガルムについて、ディアナさんが相談があるって」

「はい、サイゾウさんとアカネさんから連絡がありまして――」


 切り出すディアナに、黒百合は一つ頷く。そして、白百合とディアナの手を取った。


「説明は移動しながら聞く。いい?」

「は、はい……! 南にお願いしますっ」

「じゃあ、しっかりと――」


 掴まってて、と緊張した面持ちのディアナと少し笑みをこぼす白百合に黒百合が言おうとした、その時だ。


「――お姉ちゃん!」


 その声に、黒百合が振り返った。そこにはひとりの男の子がいた。どこかで見た記憶がある……そうだ、“銀色(ぎんいろ)牡鹿亭(おじかてい)”でぶつかって()()()()()しまった男の子だ。


「…………」


 男の子は、ひとつ、ふたつ口を開いて、なにかを言いかける。一分一秒が惜しいこの状況でも、黒百合は待った。男の子の表情が、それだけ必死だったからだ。切り捨てることはもちろん、急かすこともしてはいけない……そう思えたから。


「……が、ん……ばって……!」


 必死に、男の子はそれだけを絞り出せた。その言葉にうっすらと笑みを浮かべて、黒百合は頷く。


「ん、ありがとう。頑張ってくる」


 黒百合はそう言い残し、南へと船を急がせた。黒百合の腕の中で、ずっとこっちを見上げている男の子を見て、白百合は苦笑しながらぼそっと呟いた。


「モテモテだ、クロ」

「ん?」


   †  †  †


『おおー』


 フローズヴィトニルは自分の分身から得られる情報を確認、状況を把握する。


『ヴァーさんがたおされてー、ウーたんがけんざいでー……あ、マーちゃんがやられたっぽい?』

『そうですか……教えてくれてありがとう』


 フローズヴィトニルの背に腰掛け、月の“母”が優しく尻尾で撫でてくれる。その感触にフローズヴィトニルはその心地よさに目を細めた。


(ああ、本当にこの子は……)


 イクスプロイット・エネミー“双獣王(そうじゅうおう)(エイリアス)(いん):ハティ”は、特にフローズヴィトニルに目をかけていた。

 ()()()獣王であるはずのフェンリル、そのフェンリルの魂を三つに分割して生み出された化身、それがフローズヴィトニル・ヴァナルガンド・フェンリスウールヴという存在だった。


(フェンリスウールヴとヴァナルガンドは、神とそれが庇護していた人間を憎んでいましたが、この子は騙される前の魂から生まれましたからね)


 神々の黄昏(ラグナロク)においてフェンリルは、主神であるオーディンを喰らい殺す運命にあった。そのため危険視されたフェンリルは、運命の時まで拘束されることになる。ヴァナルガンドは神々に騙され、拘束されたその時の魂から生まれ。フェンリスウールヴはその復讐を誓い、縛られ続けた魂を受け継いでいる。

 だが、フローズヴィトニルは騙される前。勇敢なる神ティールに大事に育てられていた頃の魂で生み出された……彼女だけは、憎悪とも悲嘆とも無縁の魂だった。


(無垢というのが幸福かどうかはわかりませんが……今の私には特に好ましく感じられます)


 微笑み、ハティはフローズヴィトニルの背から降り立つ。そのままフローズヴィトニルの頬を撫でて、優しく語りかけた。


『もうここはいいですよ。貴女は貴女の役目を果たしなさい』

『は~い。ガンガン邪魔してくるよ!』


 フローズヴィトニルは立ち上がり、駆け出した、手を振る代わりに尻尾を振って去っていくフローズヴィトニルに、ハティも小さく手を振って見送った。


   †  †  †


■ほうほう、そう来ますか……

■それが一番無難な選択だなぁ

「確かに、この時間内でそう対処できるなら一番」

■だけど、この素早さでってなると同時配信ありきのレイドバトルだね

■それはわかる、確かに新感覚だわ……


 コメント欄にそう答え、黒百合はバーラム大森林の南側へと到着した。黒百合の腕の中で、白百合が下を見て言う。


「あ、いたいた!」

「こっちこっち!」


 森の中で両手を振るのは、エレイン・ロセッティだ。その横にはアーロンとサイゾウ、アカネ、イザベル・テオドラ姉弟の姿があった。

 そこへ、船と化した尾に乗った黒百合が白百合とディアナを抱えて降りてきた。


「これで、前回のマーナガルム戦に関わった全員が揃いましたね」

「いやー、この視聴者による連携、思った以上に便利でござったな」


 テオドラの言葉に、サイゾウも心底感心したようにこぼす。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 単純だが、実際にこれができたのは同時配信という情報伝達手段があったからこそだ。そうでなければ、マーナガルムに関しては後手後手に回っていただろう。


(配信に関するテスト込みって訳か……やってくれたな)


 黒百合の中で、坂野九郎(さかの・くろう)はそう納得した。アルゲバル・ゲームスとしてはいいテスト結果だと、満足していることだろう。


「ちょうどいいし、この後の流れも確認しとく?」


 アカネの言葉に、黒百合はカウントを確認する。後、四分ほど。視聴者の尽力のおかげで思った以上に時間が確保できている――確かに段取りの時間はありそうだ。


「マーナガルムが出現したら、今度こそ責任を持って足止めする。その間にフェンリスウールヴへの対処とハティの探索、フローズヴィトニルの警戒を行なってほしい」

「そうなるとハティを発見後が重要でござるな」


 サイゾウの言葉に、黒百合が頷く。それにディアナが言葉を継いだ。


「私はエレちゃんと一緒に行動して、フェンリスウールヴの方へ」

「うん、とっとと倒して次に行くよっ」

「俺もフェンリスウールヴ、というかガルム対処だな。又左はもう向かってる」

「なら、あたしはイザベルさんとテオドラさんと一緒にハティ探索に向かうのがいい……かな?」


 白百合の確認に、黒百合は頷く。その上で黒百合の視線を受けたアカネとサイゾウがそれぞれ答える。


「ボクはシロちゃんたちの護衛だね。前衛が足りないし」

「拙者はフェンリスウールヴの方でござるな。フローズヴィトニルが出たら引き受けるでござる」


 役割分担が決まったところで、残り時間が一分を切った。それを確認して、黒百合は九本の尾を展開して告げた。


「フェンリスウールヴ対策後は、それぞれ事前に決めていたようにスコルとハティに分散して。その時は、私もマーナガルムを倒してすぐにどちらかに向かう」


 ガシャン、と左右の巨大な腕が作り出される――その瞬間、高速で黒百合が振り返った。


『グ、ロ――』

「させない」


 カウントが〇になった瞬間、と大鎧の左右の腕が真上に出現したマーナガルムを捕まえた。そのまま蒼黒い狼頭を胸部にした胴体と両足も尾によって生み出し、首なしの大鎧となった黒百合が全体重を乗せてマーナガルムを地面に押し倒した。


「行って」

「うん、任せたぞ!」


 代表してエレインがそう言い残し、全員がそれぞれの担当へと散っていく。それを確認し、マーナガルムを地面に押し付けながら黒百合は大鎧をクラウチングスタートの体勢にした。


「さっきの勝負、勝ちは譲る――ただし、二度目はない」

『ガ――!!』


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と地面をマーナガルムで削りながら、黒百合は大鎧を走らせた。ある程度フェンリスウールヴと距離を取り、今度こそ逃さないとマーナガルムとの再戦の幕を強引に上げた。


   †  †  †

実際、何人も視聴者という協力者がいるとものすごく同時配信って便利です。

鳩を飛ばす、とか視聴者がいいくつかの配信を飛び回るのがリアルでもありますが、ゲームに使ったっらすごく便利じゃない? というのがアイデアの元です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 彼女だけは、憎悪とも悲嘆とも無縁の魂だった え!?フローズヴィトニル女の子だったの!? [一言] 本来の獣王というワードが気になる。 ハティ&スコルは本来獣王ではなかった? 先代とかで…
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