43話 セント・アンジェリーナ5&ペペン・キングダム
密かな目標でした、今月中(16日)で五〇話達成にございます。
† † †
壬生黒百合たちがセント・アンジェリーナの教会にたどり着くと、唐突にコメント欄が賑わった。
■――お! 帰って来た!?
■おかえりー、どうだった? ホツマ!?
■クロちゃんとディアナんが撮影禁止エリアから戻ってきたー!
ああ、そうか、と黒百合は思い出す。ずっと撮影を続けたまま撮影禁止エリアにいたのか、と。
「ただいま。ホツマ関係は……説明が難しいから、後でまとめてやる」
■そっかー。こっちの動画は見てる?
「私は情報はカットしてました。クロちゃんは?」
「ん、さわりは見たけど。街の様子はあんまり」
■そっかー、じゃあビビるでー
■ぶっちゃけ、想像の斜め上って言うか……ま、実際に見てよ
■頑張ったぞ―!
教会にいたNPCである神官たちに帰還の挨拶をしながら、六人は改めて教会の外を見て――コメントの意味を理解した。
「うっわー……すごいことになってません?」
イザベルが、そう呆然と呟くのも仕方がない。街で一番高いところにあるセント・アンジェリーナ教会から、一望できた光景は以前とすっかり変わっていた。
元よりセント・アンジェリーナを覆っていた城壁は一段高くなっている。いくつかの櫓が建てられ、城壁の要所には大規模なバリスタが設置。門も新造され、二重構造に作り変えられていた。
以前と違い、完全な城塞都市に作り変えられていたのだ。
「ちょっと見ない間に、よくここまでやったもんだな、おい」
堤又左衛門、又左は心底感心したように唸る。確かに、これは想像の斜め上だ。
■いやー、都市防衛組が頑張りましたわー
■ほら、教会への募金ミニシナリオあったじゃん? あの予算内で色々、防備が足せたもんでさ
■もう別ゲーだったわ、ここだけ
「……ペペン・キングダムで時の王座を使った気分」
思わず、ボソっと呟いてしまった黒百合に、ディアナ・フォーチュンは小首を傾げた。
「ペペン……? なんです? それ」
「アルゲバル・ゲームスが前に出した、シミュレーションゲーム」
■……アレかぁ
■やめて! 地震雷火事親父やめて!
■ガチでクロちゃんがアルゲバル・ゲームスマニアな件……
† † †
――ペペン・キングダム。
それはペンギン型妖精ペペンとなって南極王国を発展させるシミュレーション・ゲームである。アルゲバル・ゲームスの初期の商業作品で、安西Pが関わっていない珍しいオフラインゲームだ。
元はオフラインVR対戦格闘ゲーム妖精大戦ティル・ナ・ノーグの外伝的な作品で、最弱にしてマスコットキャラ妖精ペペンたちが、南極にいかにペペン南極王国を築いたかをシミュレーションゲームで再現したものだったのだが……。
「プレイヤーはキングペペンとなって王国を発展させる。その時のキーアイテムが時の王座。これに座ると時間が加速して、最大一〇倍速で王国が発展する……んだけど……」
北極帝国シロクマ型妖精シロクマンが一定時間で攻めてくるというタイムリミットがあるため、この時の王座の使用は必須となっている。しかし、この時の王座は便利である反面、明確なデメリットが存在した。
「ランダムで災害イベントが起きるシステムのせいで、災害イベントが起きたのを見逃して対処しないと、コンマ秒で王国が滅んでる……」
■死に覚えシミュレーションゲームってパワーワード、あの時に生まれたんだよなぁ
■くしゃみした瞬間に国民の数が〇になったトラウマ
■本当、ランダムだから運ゲーなんだよなぁ、アレ……
災害にもレベルがあり、最大レベルが大地震、大嵐による雷、謎の大火災、そして通称親父と呼ばれる巨人族の襲来とこれらは時の王座使用時には一秒で王国を滅ぼしていくため、多くのゲーマーにトラウマを残したのだった。
「時の王座から立ち上がって、なにごともなく発展している……こんなに嬉しいことはない……」
ちなみに、この最大レベルの災害はそうは起こらない。しかし、リアルラックの低い坂野九郎は面白いようにこの最大レベルの災害を引きまくったものだった。
■ちなみに、ペペン・キングダムは結構配信系バーチャルアイドルたちに人気だから観てみるといいよ
「そうなんですか?」
■王国が滅ぶのはプレイヤーには地獄だけど、視聴者には抱腹絶倒だから
■ちなみに四人同時対戦もできるんだけど……友情破壊ゲーなんだよな
■ひとりが親父引くと、全員巻き込むからなぁ
最下位がこの巨人襲撃を引くことを親父リセットと呼び、多くの悲劇と喜劇を生んだ隠れた名作である。ただ、トラウマになる確率が多いため拡散しにくいという欠点も持っていて、知名度は低い。
「うん、無事に発展している。今はそれでいい……」
「そ、そうだな」
目の光を失いながらしみじみと呟く黒百合に、カラドックはそう返した。色々とトラウマを抱えているのだな、と思う。
† † †
――某アルゲバル・ゲームスVR作業場。
「おい、誰だぁ!? ペペンのシステム組み入れたヤツぅ!」
「細川Dでーす!」
「……ま、地震雷火事親父入ってないし、良かったか……?」
「でも、ヴァナルガンド襲来の可能性あったらしいっすよ?」
「――細川ァ! シナリオ担当の権限で親父要素入れてんじゃねぇ!!」
「いやー、本当によく引かなかったっすよねー」
† † †
六人は一度解散し、それぞれの用事をすませるためにセント・アンジェリーナの街へと出ていた。ディアナとも一度別行動となり、黒百合が回復アイテムの補給に市場へ向かおうとしていた、その時だ。
「クロだーっ!」
ガバッ! と後ろから抱きついてくる小さな影があった――エレイン・ロセッティだ。
「エレイン……? どうしたの?」
「もう、しばらく頭使いたくな~いっ」
ぐてんと脱力してしがみついて来るエレインが、気怠げにそうぼやく。どうしたのか理由を詳しく聞こうとすると、先にコメントが教えてくれた。
■今回の都市の防衛計画、エレちゃんが考えたからなぁ
■一ポイント単位での計算、えぐかったわ
「……そうなの?」
「ほーめーてー!」
「ん、頑張ったね」
■てえてえ
■ええなぁ、久しぶりのこの組み合わせ!
黒百合に撫でられて、エヘヘ、とエレインの表情に笑みが戻る。しっかりと立たせてあげると、エレインも改めて離れて黒百合に問いかけた。
「で? そっちはどうだったの? うまくいった?」
「……ん、ちょっと長くなる。シロにも伝えたいから一緒に話そうか」
「うん! シロは今、フローズヴィトニルの件で出てるから連絡しよっか?」
一緒に歩き出すと、エレインは自然に黒百合に手を繋いで来る。抱きついて来たのもあり、少し過剰とさえ思えるほど、甘えてくるが……そこで、ふと黒百合は理由に思い至る。
(ああ、そうか)
実際、『妹』の方とはリアルで話しているからそう感じなかったが、エレインとは本当に久しぶりに会うのだと思い出した。ようは、会えずに甘えられなかった分、甘えてきているのだ。
「ん、ただいま。エレイン」
「おかえりなさい! クロ」
改めて交わす言葉、それに心の底から嬉しそうにエレインは握る小さな手に力を込めた。
† † †
地味に親父成分を引かなかったのは、エレちゃんのリアルラックもありました。
以前のトレントの時もそうですが、エレちゃんリアルラック最強説。
後、地味にエレちゃんが甘えてくるのは相応の理由がございます。それも今後の展開で……。
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