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40話 英雄回廊:ホツマ9

※今回は伏線回収会となっております。

   †  †  †


『いやあ、久方ぶりに身体を動かしたってぇ気分だわ』


 大嶽丸(おおたけまる)は地面に胡坐をかいて呵々大笑する。たった一分の激闘で破壊された天守閣は、現在も修復中ある。そのため護法たちの提案で外での食事会が催されていた。


「あれが軽い運動かよ。付き合わされる方はたまらんぜ、大嶽丸の旦那よぉ」

『まぁ、形態変化は使ってねぇし、ちょっと散歩程度だってのは本当だぜ?』


 堤又左衛門(つつみ・またざえもん)、又左のぼやきに大嶽丸はあっさりと答える。護法もそれに同意するように、お茶碗にご飯を盛りながら言った。


『当然です。大嶽丸様がアレを使われたら、それこそ《大英雄》が二桁揃っていなければ相手にならないでしょうに』

「あるんですね、そんな称号……」


 イザベルは初めて聞く称号に、遠い目をした。現状、イクスプロイット・エネミー“妖獣王(ようじゅうおう)(エイリアス)”の討伐に成功した壬生黒百合(みぶ・くろゆり)以外、《英雄候補》しか存在しないのだ。


『ま、気長にやんなぁ。《大英雄》なんざ、五〇〇年前だってひとりしか到達できなかったんだからよお』

「五〇〇年前というと聖女アンジェリーナでござるか?」


 サイゾウの疑問に、大嶽丸は自分の顎を撫でながら否定した。


『いいやぁ、確かに“聖女の守護者”のひとりだったがな。あの聖女の姉ちゃんは……ま、旗印みたいなもんよ。あるいは(かしら)っていうべきかね』

「……旗印はともかく、後者は印象変わるでござるなぁ」

『実際に知ってる俺からすりゃあ、聖女っつうか任侠とか極道っつう方がしっくりくっからなぁ』


 大嶽丸は軽く言うが、それこそサイゾウは避けていた表現で頭を抱える。もしかして、その情報を外に出さないようにここが配信禁止エリアに指定されたのではないでござろうな? ()()()()()()()()()()()……。


『しかし、黒百合たちは遅いなぁ、おい』

『それは致し方ないかと。おふたりはかなり無理をされましたから』


 大嶽丸の言葉に、護法が棘を含んだ声色で指摘する。ぽりぽりと頬をかきかき、大嶽丸は罰が悪そうに唸った。


『黒百合もだけどよぉ、あっちの姉ちゃんも根性みせっからさぁ、ついな?』


   †  †  †


 黒百合とカラドックは、共に温泉の中に浸かっていた。ふたりともに無茶が過ぎた、だからこそ治療が必要になったからだ。


「これ、癖になりそう……」

「できれば、何度もこんな治療が必要な無茶は控えてほしいんですけど……」


 心地よさそうに“妖獣王の黒面(こくめん)”を被った黒百合が言うと、ディアナ・フォーチュンは苦笑する。いや、このしゅわしゅわと肌が泡立つ感覚が泡風呂のようで心地よいのだ、本当に。


「いや、これは黒百合さんの言う通り中々……」

「ん、でしょ?」


 黒百合の隣で大の字に寝転がっていたカラドックの賛同に、黒百合は我が意を得たりと言う。二対一となって、ディアナも分が悪いかと思って深くは追及しないことにした。


「ん、と……」


 黒百合は身体が小さいからか、油断すると湯船に沈んでしまう。それを見て、ディアナは湯船の中を移動して自分の太ももの上に黒百合の頭を置くように座り直した。


「……ディアナ?」

「何度も体勢を直すのも大変でしょうから」


 見えなくて良かった、本当に良かった、と黒百合の中で坂野九郎(さかの・くろう)は心底思った。というか、アレなのだろうか? 最近は膝枕が流行ってるの? ねぇ!? んなわけあるかーい! と九郎は自問自答する。特に見えなくと『妹』には感じなかった()()()が目の前にあって、落ち着かない。


「……黒百合さん、今回は礼を言う」


 そんな中、隣でカラドックがそう切り出す。膝枕のおかげで頭の位置がちょうど良くなったのか、横顔に視線を感じた。


「今回のおかげで、タンク役として少しは自信がついたよ。ありがとう」

「いや、大嶽丸相手にふたりで二〇秒も稼いだんだし、すごいと思うけど……」

「そこはほら、一〇秒間ひとりで殴り合った誰かさんがいるからな」


 ちゃぷと小さな波が立って、頭を撫でられた感触がする。なんとうか、アレだ。頭を撫でるのも流行ってるんですか!? ねぇ!? と九郎は胸中で叫ぶ。いや、大嶽丸にも撫でられたから、そこはそれなんだけどさ、ととにかく深く考えないことにした。


『そういえばお客人、このままホツマへ向かわれるのですか?』


 湯船の外に控えいた護法の声に、されるがままのまま黒百合は答えた。


「ん、そのつもり。ホツマから物資とか救援を受けられるようにしたいし」

『なるほど、コネやあてはもうあるのでございますね』

「――――」


 その瞬間、ピタリと黒百合とディアナ、カラドックの動きが止まった。


「「「――え?」」」


   †  †  †


『え? あてがあって行こうってんじゃなかったのかよ』


 治療を終えて大嶽丸に確認を取ったら、素直に呆れられた。飲みすぎだ、と護法から杯を奪われた大嶽丸は、代わりの白湯を飲みながら唸る。


『ま、行くだけならそう時間はかからねぇよ? 特に黒百合がいんなら九尾の尾を使えば結構早く着くんじゃねぇかな』

『ですが、ホツマの足利幕府も現状はホツマ妖怪軍と序列第三位魔王天魔波旬(てんま・はじゅん)との三つ巴中ですから。物資関連となると、相応の準備が必要でしょう』

「……あれ? それってもしかして」


 気づいたイザベルが、最大の問題点を口にした。


「レイドバトルに、間に合わない……とか?」

『んだなぁ。俺はただ行きたいのか、それこそあてでもあったのかと思ってたぜ?』

「……ちょっと、作戦会議を」


 呆れ顔の大嶽丸の前で、六人が円を作って顔を突き合わせる。最初に口火を切ったのは、又左だ。


「……どうすんの? コレ」

「しかし、別の場所で同じ問題が起きたと思うでござるよ?」

「もしかして、最初から物資とかそういうのは見込めなかったのでしょうか?」


 サイゾウの指摘に、ディアナがそう推測する。あくまでルート開拓だけで、それ以上のメリットはなかった――その可能性も、確かにあった。そこに別の可能性を提示したのは、カラドックだ。


「あるいは、まだミニシナリオのフラグが立ち切ってない可能性もあるのではないか?」

「うー、でもシステムメッセージでミニシナリオそのものは全部クリアしたって言ってませんでした? その後、追加されたってことでしょうか?」


 カラドックの意見に、イザベルが首を捻る。可能性は、いくらでもある――黒百合はしかし、記憶を掘り返す。


「……ガルムによって滞っている物資の問題も解決するかもしれないと言い出したのは、ハーンさん。だから、この特殊ルートで物資の問題が解決する可能性はあったはず」

「そうなると、やっぱり見落としがあるのでしょうか?」


 黒百合の呟きに、ディアナがそう切り出す。ならば、一度セント・アンジェリーナに戻るか? ――なにか、なにか大事なことを見落としている気がしてならないのだ。


 アルゲバル・ゲームスは説明をあえて省くことがある。それは、プレイヤー自身に気づかせるためだ……だから、思い出せ。


《――現在、セント・アンジェリーナに実装されていた全ミニシナリオのクリアが確認されました》

《――特殊ルートの開示が、開始されます》


 思い出すのは、あの時のシステムメッセージ。実装された全ミニシナリオ、とあの時点で言ったのだ。ならば、再度ミニシナリオが実装されたなら、そうアナウンスされなければシステムメッセージが()をついたことになる。

 それだけはない、と黒百合は、九郎は断言できる。一度でもシステムメッセージが嘘をつけば、今後疑われ続ける。そこは運営とプレイヤーの信頼関係に関わる問題だ。そこを間違う運営ではない、という信頼がある。


(なら、その前にあったなにかがフラグ――)


 思い出せ、なにがあった? 実装されていた全ミニシナリオのクリアが確認された、ならばなにかしらのアクションが行われ――。


「……あ」


 無表情のまま、黒百合は素早く動き出す。その動きに呆気に取られた五人の中から代表するように、ディアナが問いかけた。


「ど、どうしたんですか? クロちゃん」

「――あった」


 黒百合はメッセージ機能を確認して、その事実を確信した。


()()()()()()()()()()()()()


   †  †  †


《――妖獣王さんからあなたに組織勧誘が届いています》

《――ホツマ妖怪軍に加入しますか? Y/N》


   †  †  †

まさか、スパムメッセージが最後のフラグとはお釈迦さまも思うめぇ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 婚約不可避? あるいは丸め込む [一言] 私としてはアンジェライナはセント・アンジェリーナと別扱いと思ったわ。
[気になる点] 獣王の側についていいんかな?まあ一応あの女狐は聖女に付いてたっけ? [一言] やっぱりそれがフラグかよぉ。 絶対会わなきゃ行けないパターンやんけ。
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