37話 英雄回廊:ホツマ6
活動報告でも書かせていただきましたが、誤って感想を消してしまいました。
改めて、こちらでも謝罪いたします。
感想はいつでもお待ち致しております。ぜひ、やる気の注入になると思って気が向いたらで良いのでよろしくお願いします。
† † †
「……はぁ」
壬生黒百合は、深呼吸する。天守閣の屋根、そこから見える『外』はただただ闇だけだ。
『おう! よく寝れたか? 嬢ちゃん』
「……大嶽丸」
ひょうい、と体長五メートル超えの赤鬼が、屋根に昇ってくる。自然な仕種で大嶽丸は黒百合の隣に並んだ。
「……おはよう?」
『おう、おはようさん』
挨拶を返せば、挨拶が返ってくる。そういう人懐っこさは、ホツマ三大妖怪とか物理最強とか御大層な評価とは無縁で、人のいいおっさんにしか見えなかった。
『よく寝れたみたいだな。すっきりした面してるぜ?』
黒百合を見て、大嶽丸がニヤリと笑う。その言葉を聞いて、黒百合は改めて自分の両手を見て、グッパッと握っては開きを繰り返した。指先一本一本まで意識が浸透し、力が巡っている手応えが感じられる――それを確認して、黒百合は言う。
「……ん。かもしれない」
それが『妹』の膝枕の結果というのもどうかな、と黒百合の中で坂野九郎は思うが、気力が充実しているのは確かだ。
『で? 一晩考えてどうだい? 勝算は見つかったか?』
「全然」
大嶽丸の問いに、黒百合は素直に答えた。〇の状況を動かすプラスは、まだ見つかっていない――だというのに、大嶽丸は笑みを濃いものにする。
『それでも、諦めないんだろ?』
「ん」
『上等上等、それでいい。喧嘩ってのはよ、勝てるからやるんじゃねぇ。負けられねぇからやるもんだ――酒呑ならそう言っただろうよ』
大嶽丸の口から新しい名前が出てきた。黒百合は小首を傾げ、鬼を見上げる。
「酒呑童子のこと? 多分、ホツマ三大妖怪の最後だと思うけど」
『お、よく知ってんな。そういえば嬢ちゃんはホツマの縁者か』
「……そう」
キャラ設定がそうだから、黒百合は肯定した。大嶽丸は顎を太い親指で撫でながら、遠い目をする。そして、しみじみと言った。
『物理の俺、呪術の女狐、その両方を使う酒呑。俺らで何度か本気で殺し合ったが、結局、勝負はつかなかったなぁ』
「…………」
まただ、と思ったが黒百合はあえて触れなかった。酒呑童子について語る時、大嶽丸は過去形を用いる――ようは、そういうことなのだろう。
『――お前が湿気た面ぁ、すんなよ』
「ああう」
不意に、大嶽丸が親指の腹で黒百合の頭を撫でた。へたな大人の掌よりも大きい親指の腹で撫でられ、ぐりぐりと黒百合の頭が動かされる。
『女狐は三〇〇〇年、俺だって一五〇〇年は生きてんだ。それだけ生きてりゃあ、それなりに山もありゃあ谷もある……そんだけさ』
「……全然、実感がわかない年数……」
『くかかかか! それもそっか!』
黒百合は、大嶽丸と話して優しい鬼だ、と思ってしまう。いや、強い鬼というのが正しいだろうか? 強いから他者を脅かす必要もなければ、自分から喧嘩を売る必要もない。どんな相手にでも勝てるのだから、わざわざ戦って強さを証明しなくてもいいのだ。
『俺にとっちゃあ、お嬢ちゃんは久しぶりの遊び相手だ。存分に楽しませて――』
『大嶽丸様』
不意に主の言葉を遮ったのは、護法のひとりだ。音もなく屋根に飛び乗った護法は、大嶽丸を見上げて半眼する。
『朝餉の用意ができたので、お客人を呼びに行くという時に、自分が代わりに呼んできてやる――そう言い出したのは、大嶽丸様だったのでは?』
『あー、あー! そうだった、そうだった! 悪い悪い』
自身の神通力で生み出した存在へ、大嶽丸はそう素直に頭を下げる。その仕種が面白くて、黒百合は無表情のまま吹き出しそうになった。
『……お客人、主がご迷惑をおかけしました。朝餉の用意ができていますので、冷める前にどうかお早く』
「ん、ありがとう」
『では――大嶽丸様も、ついでに用意しましたので食べますか?』
『俺、お前らの主だよなぁ!?』
護法は『そうですが、なにか?』と言い残して屋根から飛び降りていった。それを見送って、黒百合は改めてポンポンと大嶽丸の脹脛を叩いて言う。
「一緒に食べよ?」
『……んだな』
† † †
「勝算は、一応ある」
朝餉を食べ終え、六人だけで集まった部屋で黒百合はそう切り出した。それに疑問を口にしたのは堤又左衛門、又左だ。
「マジか。俺にはさっぱりだぜ? あんな化け物」
「もちろん、戦えば勝てない。でも、一分間私が生き延びればいいだけならやりようはある」
又左の言う通り、倒せと言われればもう昨日の内にセント・アンジェリーナに帰っている。もちろん、ホツマに行くなどという話も白紙に戻していただろう。
「昨日、ひとりで戦ってなにか糸口でも?」
カラドックの問いに、黒百合は首を左右に振る。ひとりで挑んで見たのは、あくまで状況の確認だ。その結果、ひとりでは逆立ちしても無理だという結論が出ただけだ。
「みんなの力を借りたい。でないとどうしてもクリアできない問題がある」
「それはもちろんですけど……私に、なにができるでしょうか?」
イザベルの疑問は、もっともだ。戦闘が目で追えない、その時点で足手纏いにさえなれないのだから。
「拙者、かろうじて影は追えたでござるな」
「す、すごいですね……っ」
軽く手を挙げて言うサイゾウに、イザベルは目を丸くする。それだけでも驚きのことだ、サイゾウはコクリと頷いた。
「『ゾーン』に入れれば、なんとかでござる」
「俺はサイゾウさんほどじゃないが、タイミングを読めればギリギリだな」
「……私も又左さんと同じくだ」
又左とカラドックの返答に、ディアナ・フォーチュンは首を左右に振った。
「私もイザベルさんと同じです。とても目では追えません」
「ん、ありがと。それがわかれば充分」
黒百合は力強く頷き、そう返す。そして、黒百合は『策』を語り始めた。
「簡単に言うと、大嶽丸と鬼ごっこをしようと思う――」
† † †
最後まで黒百合の『策』を聞き終えた五人の内、最初に口を開いたのはカラドックだ。
「……本気か? 黒百合さん。どう考えもこの作戦は――」
「これがベスト。カラドックさんが無理だって言うなら、別の方法を考える」
黒百合の言葉に、カラドックは思わず口を閉じる。残り四人も表情も、厳しいものだ。それを理解した上で、黒百合は続けた。
「大嶽丸がこの天守閣をリスポーンポイントにしてくれたから、《超過英雄譚》の変更が行える。使うのはあらゆるダメージを〇に変更する《超過英雄譚:不破の英雄》と他人の《超過英雄譚》を即時に使用可能にする《超過英雄譚:あなたの英雄譚》」
黒百合は改めて、重要な点を仲間たちへ告げる。
「実質六回の《超過英雄譚:不破の英雄》で、大嶽丸の攻撃を一分間耐え抜く」
† † †
本気の遊びほど、心が躍るものない、そう思っております。
気に入っていただけましたら、ブックマーク、下欄にある☆☆☆☆☆をタップして評価をお聞かせください! よろしくお願いします。




