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29話 セント・アンジェリーナ1

※コツコツと伏線を回収するのが、大好き(性癖)です。

   †  †  †


“忍々”『黒百合殿、黒百合殿ー!』


 その対フローズヴィトニル対応班の秘匿回線からの呼びかけに、壬生黒百合(みぶ・くろゆり)は反応した。


“黒狼”『サイゾウさん、お疲れ様。そっちはどう?』

“忍々”『駄目でござるなー、向こうは完全にやり方を変えてきたでござる』

“胸武”『捕捉しきれないねー。いつの間にか襲われてやられたって連中ばっかだよ』

“阿栄”『そもそもどこに出てくるのかわからないのに、奇襲されたら手の打ちようないわな』


 ある日から、完全にフローズヴィトニルの行動パターンが変わっていた。元々、真正面から堂々と襲って来たから襲われた側も逃亡したり対策班に応援を呼ぶ余裕があったのだ。


(襲撃じゃなくて完全に狩りにシフトチェンジしやがった)


 黒百合の中で、坂野九郎(さかの・くろう)は極まった厄介さに頭が痛くなった。アビリティ《悪評高き狼(フローズヴィトニル)》という戦闘不能にしたPCプレイヤーキャラクターが入手したアイテムを失わせるという極悪能力を持ったエネミーが、頭を使って来た……正直、この展開は予想の範囲外だった。


(いくらアルゲバル・ゲームスでも、ここまで凶悪な一手を打ってくるとはなぁ……)


 野生の狩猟動物としては、正しい選択である。圧倒的格下の草食動物にも捕食側は身を隠し、自身が確実に仕留められる間合いまで近づくのを待つのが普通なのだ。だが、この普通をやられたらゲームとして対処不可能になってしまう訳で――。


“阿栄”『完全にダンジョンやフィールドが地雷原になってるな。「ここに地雷が埋まってます」って看板があるだけで、埋まってようがなかろうが警戒しないといかん。それだけ後手後手になるってもんだ』

“胸武”『とにかく、大多数で慎重に行動してもらうようにしてるよ。その上で今まで通り救援があったら出動して救助。最悪、誰かがリスポーンポイントに戻ってきたらそこに対策班が向かう方向だね』

“忍々”『もう一〇日経過したでござるからな、アルゲバル・ゲームスもきっつい一手を打ってきたでござるよ』

“黒狼”『とにかく、今一番賑わってやられると被害が大きい“ドヴェルグの廃坑”には必ずひとりは詰める方向で。最悪、ツアーでも組んで――』


 フローズヴィトニルへの対処法を話し合っていた、その時だ。システム音が、不意に鳴り響いた。


《――現在、セント・アンジェリーナに実装されていた全ミニシナリオのクリアが確認されました》

《――特殊ルートの開示が、開始されます》


“阿栄”『お、ついにか。つか、もう教会への寄付が一〇〇〇〇〇〇サディール集まったのかよ』

“忍々”『初日にどこぞの匿名のお大臣のおかげで五分の一がどかっと終わったでござるからなぁ』

“胸武”『特殊ルートの開示? あれ? メリーちゃんパパ関係?』


 その“胸武”――アカネの言葉に、黒百合は思い出す。そういえば、システムメッセージで特殊ルートが言及されていた。


“金兎”『クーロー! 今、いいかぁ!?』

“黒狼”『ん? なにかあった、エレイン』

“金兎”『あのなー! メリーがパパが話したいことがあるってワタシのとこに来たんだー。クロも来てくれない?』


   †  †  †


 セント・アンジェリーナは中央広場を中心にほぼ円形に広がった街だ。四方に入り口があり、大通りに繁華街や宿屋などが集まり住宅地は大通りから離れた場所に集まっている構造だ。

 その住宅地の中に、ハーンの家はあった。


「すまないな、わざわざ家まで来てもらって」

「いえ、そんなお気になさらないでください」


 お茶を振る舞うハーンに、ディアナ・フォーチュンが大人の対応で返す。呼ばれたエレイン・ロセッティと黒百合、ディアナ、壬生白百合(みぶ・しろゆり)の四人で訪れたが、この四人である理由は簡単だ。


■……細かいよな、家の家具やらなにやら。キーイベントのNPCノンプレイヤーキャラクターだからかもしれないけど。

■そう思うだろ? 意外に一軒一軒中身が違くてリアルかと思うぐらい凝ってんだよなぁ。

■作り込みもここまで来るとおっかないわ


 この四人なら、公式に配信できるからである。後で改めて他のPCに説明するより、お手軽で簡単に拡散できるという判断だ。


「実は“里”の方から、正式に手紙が届いてね。正直、話していいものか長老に確認していたのだが……」

「“里”? ああ、狩人をしてらした村ですか?」


 白百合が、思い出しながらそう訊ねた。あのマーナガルムやガルムの群れの時、確かにハーンに助けられた者が言っていた。


 ――あの人、元狩人だったから……引退して、娘さんとアンジェリーナに住み始めたばっかの人でさ……。


 セント・アンジェリーナに住み始めたのは狩人を引退した後。ならば、狩人をしていた頃はどこに住んでいたのか?


「ああ、俺はある“隠れ里”で狩人をやっていた。その“里”の名前は――()()()()()()()という」

「ん?」


 その『事実』にすぐに気づいたのは、エレインだ。エレインは、虚空に指を動かて綴りながら言う。


「それってあれだよね? 発音が違うだけでアンジェリーナと同じ綴りだよね?」

「そうだ、それが今回キミたちに話したい内容を関係している」


 エレインの言葉を肯定して、ハーンはテーブルに一枚の地図を広げる。それはセント・アンジェリーナを中心としたバーナム大森林を含む周辺の地図だ。


「アンジェライナは、この地図上ではこの位置にある」


 そう言ってハーンが指し示すのは、バーナム大森林の南側。道の整備されていない、かなり深い森の部分だ。


「アンジェライナが“隠れ里”なのは、他でもない。実はこの“隠れ里”こそ、本物の聖女アンジェリーナの墓があるからだ」

「……え?」


 ハーンの言葉、それはある意味でこれまで語られてきたセント・アンジェリーナの根幹を否定する内容だった。


   †  †  †


「……私たちは教会の地下で“聖女の墓所”を見ていますし。“聖女の守護者”とも遭遇してますよ?」


 ディアナの疑問ももっともだ。コメントもその意見に半分以上が同意する。


■だよなぁ。きちんとあったもんなぁ、棺とか。

■これが特殊ルート? え、ちょっと頭がついていけないんすけど……?

■多分、こっちが混乱するから先に結論を言ってくれただけだろ? 先を促した方がいいんじゃね?

■スキップ、せんといてな!


 大丈夫、スキップボタンはない、と言いかけて黒百合は沈黙した。ネタに走るには空気がシリアスすぎる。だから、言葉を変えて先を促した。


「もう少し詳しく説明してもらっても?」

「ああ、もちろん。これは今回の“双獣王(そうじゅうおう)(エイリアス)”の襲撃にも関わることだ」


 ハーンは頷き、言葉を続ける。


「キミたちは英雄の試練を受けるために教会の地下に挑んだ。この時、試練の間以外にも部屋を見ている……違うかな?」

「あー……確か、スケルトンが、出て、き、た……」


 白百合が言いながら、言葉がどんどんと失われていく。言いながら、その答えに至ったからだ。

 あのチュートリアルが行われた八角形の部屋に、なにがあったのか? それを思い出したのだ。


「“八体の獣王”、それがそれぞれ彫られた八本の柱のある部屋があった」

「そうだ。試練の間ではなく、そちらの部屋の方があの教会があそこにある理由なんだ」


 ――話は五〇〇年前になる。この土地の外からやって来た聖女アンジェリーナと彼女を守護する騎士団は、ある目的を持ってこの地に訪れていた。


「聖女の目的、それは“八体の獣王”の力をこの地に封じる、というものだった。神話の時代、神々さえ討った“八体の獣王”との戦いは壮絶を極めたという。だが、彼らには《英雄》の力があった」

「《英雄》の力? それって……」

「キミたちと同じだよ。アンジェリーナとその守護者たる騎士団は――」


 ハーンの言葉、それを先読みするように黒百合が言った。


「――リスポーン。死んでも、生き返った?」

「ああ、そうだ。その《英雄》の証たる力があったからこそ、“八体の獣王”の力をこの地に封じるという偉業を達成できた」

■……あれ? 今、ものすごく重要なこと言われなかった?

■ようは聖女とその仲間はPCと同じだったってことか……すっげえ世界観的に重要な話じゃね?

■正式サービス開始前の情報提供としてふさわしいっちゃ、ふさわしいけどなー。


 確かに、ものすごく重要な話をされている。ハーンがキーキャラクターであるとはわかっていたものの、ここまで世界観の根幹に至る情報まで握っているとは黒百合こと九郎は思ってもいなかったが。


「“八体の獣王”も一枚岩ではなかった。この内、妖獣王(ようじゅうおう)白面金毛九尾はくめんこんもうきゅうび(きつね)百獣王(ひゃくじゅうおう)ライオンハート、仙獣王(せんじゅうおう)斉天大聖(せいてんたいせい)は聖女に協力したという」


 からん、と側頭部でなにかが鳴った。“妖獣王(ようじゅうおう)黒面(こくめん)”からドヤ顔の気配がしたので、デコピンで黙らせておく。


「さまざまな冒険を経て、聖女たちは“八体の獣王”の力は後のセント・アンジェリーナの教会地下に封印した。そして、“八体の獣王”の力を座標にそれぞれの支配領域へと転移できるシステムを聖女は構築されたのだ」

■あ! これ、ファストトラベルのことか!

■あー、このセント・アンジェリーナからどこにでも飛べるようになるってことね、理解

■世界観とシステムを紐付けてるんだな。こういのとこ仕事が丁寧だな、アルゲバル・ゲームスは。


 ゲーマーという生き物は、ゲーム用語に置き換えた途端にどんな難解な話でも理解する生き物である。黒百合的にも、ストンと納得できる解答だった。


「いわば、この地に聖女が没し教会の地下に墓所があるというのはカモフラージュだ。これは、“八体の獣王”に対してではなく彼らに敵対している“五柱の魔王”に対してだが」

「なるほど、言わば転移システムは場合によっては自分たちの首元に迫られるかもしれない危険なもの。双獣王は、それを放置したくなかった?」

「おそらくは。それに上手くやれば自分の力の一部を取り戻すだけではなく、他の獣王の力も取り込める。そうなれば、“八体の獣王”のパワーバランスも一気に崩れるだろう」


 疑問に綺麗に答えてくれるハーンの解説に、黒百合は考え込む。


“金兎”『どうかしたか? クロ』


 秘匿回線で、エレインが聞いてくる。なんと答えたべきか、考えがまとまっていない黒百合は慎重に答えた。


“黒狼”『ん、自分の中で噛み砕いてるだけ。まだ、答えを出すには重要なことを聞いてないから』

“金兎”『重要なこと?』


 エレインが小首を傾げる。その仕種に黒百合は無表情なまま、瞳に優しい輝きを宿す。そして、言った。


“黒狼”『今のは、あくまで隠し設定の開示。まだこの情報からどう特殊ルートに入れるかまでわかっていないから――』


   †  †  †

エクシード・サーガ・オンラインという魔境の一角を、ぜひお楽しみください。


※秘匿回線の名前ネタ

“忍々” 読み方、ニンニン。言わずとしれた忍者マニア。

“胸武” 読み方、きょうぶ。言わずとしれたDカップ不審者。

“阿栄” 読み方、アーロン。麻雀でいう栄和(ロンホー、ロン)から。


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[一言] 忍々と胸武で笑ったのは私だけじゃないはず
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