28話 悪と呼ばれた者たち1
ゲームとして語るならば彼らはただ倒すべき者であり、世界として語るのならば彼らもまたひとつの視点である。
† † †
……なにかがおかしい。
ソレは最近、そう思うようになった。“■”たちに言われて、毎日のように生き返ってしてはあの“ちっこいれんちゅう”を狩る毎日。
いや、べつにそれはいいよ? オイラ、そのためにうまれたからね? “■”たちだってみんないっしょだし? きにしないよ?
でも流石にソレも、一〇回もコロコロされたあたりで気づいたのだ。おかしい、行く先々で待ち構えられている気がするのだ。
どかーんとばくはつさせるくろいのとか、おっきなけんもってつんつんしてくるのとか、あかいふくきて「びしょうじょのてきはゆるさない」とかいってるのはいいよ? うん、まだマシ?
問題は『ちっこいのにおっきいくろいの』と『うさぎなのか、ねこなのかわかんないきんぴかの』は駄目だ、ズルい。うにょうにょしてるし、ピカピカするし。きっと“■”たちと同じ力を使ってるのだ、卑怯じゃん、ずっこいじゃん!
そんなことを考えていると、ソレは再び生き返った。周囲を確認すると、森の中だ。どうやら今日は森の中で“ちっこいれんちゅう”を狩らないといけないらしい。
こんどのオイラは、どんだけいきれるかなぁ?
空を見上げる。まだ、夜が明けていない。どこまでも透き通った夜空の星はとっても綺麗だ……“ちっこいれんちゅう”いないし、もうちょっとみてようかな? そうソレが思っていた時だ。
「なんだ、双獣王の眷属か」
『……グルゥ!』
ソレはビクリと身を震わせて、その声に振り返る。半月の明かりだけが木漏れ日のように降り注ぐ森の中、声の主はそこに立っていた。
そこにいたのは、ソレが知る“ちっこいれんちゅう”よりももっと小さい者だった。あのくろいのとかきんぴかより、もうひと回り小さい。身長は一メートルほど、フード付きの血のように赤いコートですっぽりと全身を覆った――。
「まったく、最近は寝床に連中が来ることが増えたから移動しようと思ったんだが。こんな場所で獣王の眷属と鉢合わせるとはな」
声の主が一歩前に出る。その時には、その両手には二本のショートソードが抜かれていた。フードの奥から覗くのは鷲鼻と緑色の肌、鋭い眼光。
ソレは思い出す、たしかそいつはごぶりんとかいうよわっちいはずのいきもので。でも、これはだめだ、これってたしかおおもとのつきの“■”がいっていた……。
『いいですか? フローズヴィトニル。貴女がこれから行く場所には、接触してはいけないモノがいくつかいます』
月の“■”は、日の“■”よりも優しくて。物覚えの悪いソレに根気よく教えてくれた。
『まず、私と同じ“八体の獣王”が一体百獣王。その“影”です。これは貴女から手を出さなければ決して襲ってきません。金色の猫に似たものがいたら、すぐに逃げなさい』
はい! と元気よくソレが答えると月の“■”は、その尾で背を撫でてくれる。その感触が優しくて好きだった。
『そして、そうそうないとは思いますが……念の為に憶えておきなさい。最弱から絶対強者に至った者、真祖殺し、最新の王』
月の“■”は、ひとつひとつ言い含めるように、ソレにその名を伝えた。
『“五柱の魔王”の一柱、序列第五位魔王“血塗れの頭巾”。貴女がコレと出会わないことを祈っています』
あ、コレじゃん――そうソレは気づいた。
† † †
「……おい」
『クゥン……クゥン……』
「おい、なんの真似だ?」
フローズヴィトニルが選んだのは、降伏という手段だった。その場でごろんと横になってお腹を見せる。
ほら、こうさんこうさん。だって“まおう”だよ、“まおう”。つきの“■”とおなじかそれいじょうにつよいんだよ? かてっこないじゃん?
だから、フローズヴィトニルの本能は降伏を選択した。ほらほら、たたかうきはないよー、どう? どう?
「……はぁ、もういい」
やる気が削がれた、とレッドフードは双剣を消す。襲いかかってくる相手ならいざしらず、これで斬り捨てたらただの弱者いびりだ。いくら“影”の身とはいえ、そこまで堕ちた真似をするのは魔王の称号を持つ者としてできなかった。
あ? もういいですか? それじゃあオイラしごとがあるんでしつれいしま~す。じゃあね! とレッドフードから離れてそそくさとフローズヴィトニルは消えようとした。だが、それを制止したのもまた魔王だった。
「おい、待て」
『……クゥン?』
「それはもういい! これに触れろ」
え? まだおなかみたいの? と寝転がろうとしたフローズヴィトニルに、レッドフードはどこからか取り出した水晶の板を地面に置いた。それをフローズヴィトニルはクンクンと匂いを嗅いで舐めて確認――なめたらおこられた――、そのままぺたんと前脚を水晶の板に置いた。
『わー、なにかきらきらしたぴかぴかがながれだしたよきれー! おなかへったまおうこわいよなんだろこれ』
「思考がやかましい。聞かれたことだけ考えろ」
フローズヴィトニルは生まれて初めて黙っていてうるさいと怒られた、理不尽だと思った。
「……なるほど。セント・アンジェリーナへの“双獣王・影”たちの進行の時期だったか。“妖獣王・影”が敗れたとは第三位の“影”から聞いていたが……やはりズレが出始めているな」
『あれ? なんでしってるの?』
「お前が思考を垂れ流しにしたんだ」
『そっかー』
わかってないな、とレッドフードが呆れたように吐き捨てる。しつれいな! わかってるもん、とわかっていないフローズヴィトニルはぷんぷんと怒った。レッドフードは、それをスルーする。
「……だが、お前。もう少し頭を使ったらどうだ?」
『ずつきもーしょん? オイラにはたしかにないね』
「物理的に使えと言っていない」
レッドフードは椅子代わりにしていた岩から立ち上がり、フローズヴィトニルを見上げて言った。
「その厄介な連中が出てきたら逃げればいいだろ? 勝てない相手と戦わない、お前がさっき本能的にやったろうが」
『――! まおう、かしこい!』
「……そうかい」
尊敬の眼差しを向けられたレッドフードは、ものすごく嫌そうな顔で受け流した。
† † †
この出会いは、本来のスケジュールにはない出会いだった。
――例えば。
称号:《英雄》がこの時期に生まれるきっかけとなった“妖獣王・影”の撃破がなければ、この時期の“双獣王・影”と眷属による襲撃はなかった。
また、イクスプロイット・エネミーマーナガルムのミニシナリオにおいて元狩人ハーンが生き延びることによってフローズヴィトニルのことが最初期から判明していなければ。
レッドフードが仮の根城に使っていた“ドヴェルグの廃坑”で、アースエレメンタルの新しい倒し方が発見されて《英雄候補》たちが集まって来なければ。
――いくつもの偶然の組み合わせが、この第五位魔王と双獣王の眷属が出会うという未曾有のイレギュラーを生み、スケジュールとは違う流れを生んでしまった。
そして、それは裏の目的においてこれ以上ない成果と言えた。
† † †
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