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閑話 似タ者同士、目的ノ合致

   †  †  †


 黒い流星が一条の螺旋を描き、グレーターデーモンとデーモンアンデッドを巻き込んで落下した。倒されたグレーターデーモンたちは、すぐさまアンデッドとなっていく――それを遺跡の屋根からネビロスは見下ろしていた。


『あー、来たね』

『邪魔にならない程度にお前はお前で遊んでいろ』


 死霊魔術で倒されたグレーターデーモンを復活させ続けるネビロスに、レライエからの思念が届く。それにネビロスは返すことなく、ひとりでぼやいた。


『まったく、はしゃいだものだね。あのムッツリ――うお!?』


 ガゴン! と後頭部に矢が突き刺さり、ネビロスが身をすくめる。頭部が空洞なのでいいが、胴部だったら“本体”に届いていたところだ。洒落になっていない――文句を言おうものならまた飛んでくるだろうから、口には出さない。


『あー、もー、どうしてくれようか――』


 邪魔をするな、ということはレライエはもはや役目のことなど頭にはないだろう――第五層にいるべき、我らがすべきことはイクスプロイット・エネミー・エルダーレイス“死ねずの愚王”を守ることだと言うのに。


『……やだなぁ、真面目なのは私だけ?』


 やれやれ、と思いながらネビロスは背後を見る――神殿へと続く遺跡都市の大通り、そこを抜けられればもはや守りはないに等しい。そうなってしまえば、エルダーレイス“死ねずの愚王”は目と鼻の先だ。

 現状、数と地の利で保っているものの、これ以上の時間経過は好ましくない。自分が守り、レライエが倒す――そのコンビネーションがあってこそ守りきれる算段だ。その片方がいなくなれば、後はジリ貧で……。


(……いやになるね)


 言い訳だけが積み重なっていく。それを自覚するからこそ、ネビロスは――。


「好きにすればいいだろうに」

『――――』


 その声に、ネビロスは振り返り――絶句した。大通りを守っていたデーモンアンデッドたちが、消滅していっていた。その原因は明白だ。声の主が肩に担いでいた照明装置の光に照らされる度に、ジュウ! と灰となってかき消えていたのだ。


「上の景品交換場で入手できる、対アンデッド浄化装置……らしい。吸血鬼への紫外線照射装置みたいなものか?」


 そこに立っていたのは“神通力(じんつうりき)黒雲(こくうん)(まも)り・一片(ひとひら)”の黒雲の鎧と羽衣を身に纏ったカラドックだ。その背に背負った浄化装置のおかげで色々とおかしな格好になっているが、カラドックは気にしない。


『“ 灰は(ashes t)灰に(o ashes)ちり(dust)はち(to)りに(dust)”かい? その聖句を刻んだ聖光を照射する……随分と趣味的な代物だね、キミ』

「使えるものはなんでも使う――それも英雄というものだろう?」


 カラドックが背負った物だけではないらしい、戦場のいたる所でデーモンアンデッドたちが浄化される冗談のような光景に、ネビロスは肩をすくめる。


「それで? どうする?」

『……ん? 戦うのだろう?』


 それ以外、あるのかい? と問い返すネビロスにカラドックはきっぱりと言う。


「戦う以外の選択肢がないのはわかっているとも。問いたいのは、()()()()()()()()()、だ」

『――()()()?』


 その問いに、まったく予想の範囲外の問いだったとネビロスが動きを止める。カラドックはネビロスを浄化装置で照らしながら――もちろん、魔神に効果はないのは承知の上で、だ――改めて、問いただす。


「お前は私と同じ、本質が守る者なのだろう? ならばこそ、どう戦うかが問題ではなくどこで戦いたいかが重要なはずだ」

『――――』


 ネビロスが、動きを止める。その言葉の意味がわかるから――理解し、納得できるからこそわからないことがあるからだ。


『……それは自分たちを不利な状況に追い込むとわかっていた上で言っているのかな?』

「私も()()に行けるので助かる、という話だ」


 ネビロスとカラドックは互いに言葉と視線が交わり――。


『「――ハハッ」』


 ――そして、()()()()()が笑った。


 彼女“たち”の本質は、同じものだ。タンク(守る者)であり、個での戦いに意味を見いださないもの――そして、きっと思っていることも一緒だ。


『いや、行ったら邪魔者扱いされるんだが……わかってて言ってるよね? 性格悪いな』

「そこは邪魔者同士やればいいだろう?」

『――ようはこっちを行きたい場所で戦うダシに使いたい、と?』

「そう言っているはずだが?」


 眩しい光に照らされ、ネビロスは発作的に笑う。バカ正直な挑発もあったものだね、と。


『――後悔するよ?』

「させてみるといい」


 ガシャン! とネビロスの鎧が変形する――金属製の三つ首の魔犬、その上に乗る黒髪に黒いドレス姿の小柄な少女は、犬耳をピクピクと動かしながら言い捨てた。


「ダシに使われてあげよう――私は先に行って待っているよ」

「すぐに追いつくとも」


 ガオン!! と三つの首が咆哮し、空を駆けていく――それを見送って、カラドックは改めて浄化装置を黒雲で覆って呟いた。


「これなら後光……ぐらいに見えるかな?」


 さすがに照明を背負った姿は間が抜けすぎている。カラドックは黒雲を足元に、ネビロスを追って走り出した。


   †  †  †

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― 新着の感想 ―
[一言] やぁ、ここ迄約二日で一気に読ませてもらったよ(^^)/
[一言] 赤外線はコタツ用で紫外線かなぁと
[気になる点] ルビの修正方法がよくわからないのでこちらから。 灰は灰にのあたりのルビがおかしくなってます。 [一言] ピカピカカラドック姉さんとか最高に面白いですね。
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