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141話 積層魔界領域パンデモニウム17

※誤字報告、いつもありがとうございます! 助かっております!

   †  †  †


 拳を作っては開き、壬生黒百合(みぶ・くろゆり)は自分の指先にまで意識が張り巡らされているのを感じた。


「お? もう大丈夫?」

「ん」


 黒百合がエレイン・ロセッティの言葉に頷きで返す。ロールプレイをする余裕も帰ってきた、だからこそまずするべきことがあった。


“黒狼”『ディアナ、どう?』

“銀魔”『はい。景品交換所を色々と探ってみました』


   †  †  †


 第二層、カジノ跡。景品交換所の通路で、プルメリアと共にディアナ・フォーチュンはリストの作成を終えていた。


「基本的に店売りの消耗品や武器防具よりも優秀なものが多いですね。ある意味、ここで装備を整えて第五層を攻略することを想定していると思うのですが――」


 プルメリアはゴーレムのコッペリアを台座に書き記しながら、リストを作成。直接、リストのデータを黒百合へと転送する。


「各分類に纏めてみましたが、いかがでしょう?」

『ん、助かる。手伝ってくれた考察班の人にもお礼を言っておいて』

■お安い御用だわー

■オレら、こういうデータ収集好きが集まってっからな。むしろ、やり甲斐あったわ

■考察に使えそうなアイテムも結構、多かったしなー

「……だそうです」

『ん、さすが』


 積層遺跡都市ラーウムの地上部分、大広間。そこで黒百合は膨大なリストを展開、光る文字の壁を目の前にエレインを見る。


「手伝ってくれる? エレイン」

「ラジャー! 種族アンデッドに効果のあるアイテムはこっちで判別するから」

「こっちは()()()()があるかどうか確認する」


 エレインがリストに視線を走らせる。『ゾーン』を用いた高速処理――その光景をエレイン主体で配信していると視聴者から驚きの声が上がった。


■すっげえな、エレちゃん! どういう速度で認識処理してんだ?

■あー。これ、極々たまにあるらしいで? 現代でもVRオフィスが主体になった理由な

■『ゾーン』を事務処理に流用できるんだっけ? とはいえ、この速度はねぇだろ……

■これ見たら、一流企業がヘッドハンティングに来るかもなぁ


 VR機器の真価が生んだ作業の効率化は、ある意味で現代の情報処理速度を飛躍的に向上させたと言われている。特にエレイン――中の人であるエステル・ブランソンは幼い頃から最新鋭のVR教育を受けて育って来た身だ。


 ――現代において、天才の一秒と凡人の一秒は明確に違う。そんな言葉を残した著名なVR機器エンジニアもいるぐらいで。ある意味で、AIが仕事で人類を駆逐できていない理由の一端でもある。


 その隣で、黒百合もリストに素早く視線を走らせていく。その速度もエレインの情報処理に負けず劣らないものだった。

 ただし、こちらはただ『ゾーン』を用いたから、ではない。


■クロちゃんも処理早いなぁ

『クロのばあい、ちゃんと“そくどく”してるけどなー』

■ん? SDモナわかるん?

『こう、ひとみのうごきがこうなってんだよ』


 SDモナルダが短い指で、大きく8の字を描く。全体を読むのではなく、特定のワードに意識を集中させて反応する――そういう“読み方”だ。


 例えば、こんな話がある。あるところに、誰もが認めるとある熟練のスペースシャトルの作業員がいた。その作業員は最終工程のチェックを終えたシャトルの外観を見ただけで、こう指摘したという。


 あの部分、ネジが緩んでいる――と。


 実際確認してみたところ、確かに作業員が指摘した部分のネジが緩んでいたことが判明した。なぜ、外観から見ただけで数値にでないような緩みを発見できたのか? それは作業員の経験値からくる観察力に他ならなかった。


 人間の感覚とは、時に最新技術からなる機械の察知すら超えて違和感として異常を認識する。それは人間が思った以上の知覚情報を常に得ているからである――それが一定以上に至った時、人間は第六感とも言うべき特異な知覚力を獲得しえるのだ。


 エレインのそれも黒百合のそれも、方法論は違うもののその発展しすぎたVR機器の情報処理能力を十二分に活用するからこその超人的な処理能力だった。


 そして、そこに“彼女”が加わる。


「っと。私はキミたちをチェックすればいいんだね?」

「ん、よろしく」


 そこに現れたのは白拍子――吾妻静(あずま・しずか)だ。彼女の場合、『ゾーン』は使用できない。だが、『ゾーン』を使える人間の変化を共感覚で色として知覚できるのだ――言わば、二重チェック体勢だ。


「エレイン、違和感はある程度静の方が見てくれる。精度を下げても速度を上げてくれると助かる」

「ラジャー!」

「……それでできるのが、本当にすごいね。キミたち」


 静が苦笑するしかないレベルに、黒百合とエレインはいる――ツインテールの毛先を指先でクルクルと巻いて速度を上げるエレインと無表情で視線を走らせる黒百合、その後ろ姿を集中して静は“観察”した。


   †  †  †


『――こっちは終わった』

「え? まだ一五分しか経ってないですけど!?」


 黒百合からの通信に、プルメリアが驚きの声を上げる。名称だけではなく、各アイテムの効果まできちんと網羅した、という意味ならば、もうそれは尋常な速度ではなかった。


■うっそだろ!? こっちが何時間かけて情報集めたと思ってんだよ!?

■なぁなぁ、マジでクロちゃんとエレちゃんってAIとか言わないよな!?

「あー……ちゃんとリアルは存在しますよ?」

■マジかぁ…………マジで?

■いっそAIであってくれた方が自信喪失せんわ、これ……


 実在を請け負うディアナに、逆に視聴者が意気消沈する。天才はいるのだ、悔しいが。


『交換してほしい景品をリストアップしておいた。そのまま、交換が終わったら上に戻ってきて――こっからは、最終決戦に挑む』

「はい、わかりました。もうしばらく待っていてください」

「もう少し、手をお借りしますね、みなさん」

■OKOK、戦闘じゃ頭数にしかならねぇもんな!

■いや、エクシード・サーガ・オンラインはこういう地味な活躍の場があるからありがたいわ

■……つか、なんに使うのか見当もつかんもんもあるな


 プルメリアが配信で見せたリストを見て、考察班の視聴者が景品交換所に散っていく。それを見て、ディアナとプルメリアも頷き合い、行動を開始した。


   †  †  †


 第五層――そこはまさに絶望的な戦場だった。


「あー、これ『プラネット・フォール3』を思い出すなぁ」

「聞いたことあるね、そのゲーム。二世代ぐらい前のVRアクションゲームだっけ?」

「私がやったのは1から3がセットになった、リメイク版だけどね」


 互いに物陰に身を隠し、ベイオネットの口からこぼれたゲームの名前に壬生白百合(みぶ・しろゆり)が言った。


「地球外生命体のギガスと呼ばれる巨人型宇宙人が、実は銀河連邦から追放された旧人類が生み出した生物兵器だって判明して、その最後に残った製造工場が最終ステージなの」


 口を動かしながら、手鏡で物陰からベイオネットは“向こう側”を確認する。空を飛ぶグレーターデーモンの群れと地を埋め尽くすデーモンのアンデッドたち。その数は絶望的だ。


「強化外骨格メタリック・ウォーリアを失った3の主人公がさ、それでも生身で製造工場の中心を目指すんだけど、その道中でギガスがこんな感じで無限湧きなんだよねー。製造工場だからって無茶すんなって思ったもんだったよ」

「こっちはネビロスの死霊魔術があるからこそ、だけどね」


 しみじみと語るベイオネットに、白百合は身を隠し続ける。ドドドドドドドドドドドドドドド……と地面が揺れるのは、上空からグレーターデーモンたちが炎の矢を撃ち込み続けるからだ。


「でも、確かあれってラストの方で……」

「そうそう。こう、上空から降下ポッドが落ちてきてさ。その中から、相棒のメタリック・ウォーリアが救援に駆けつけてくれるの。しかもさ、それが3の今まで使ってたのじゃなくて、3の主人公の父親が1のラストで使ってた博物館に寄贈されてた昔のボディでさ」


 1のデータを引き継ぎでやると3のオープニングで1の最終決戦時の旧式メタリック・ウォーリアのデータがそのまま引き継がれ、1から2、3と戦いながら戦闘システムをアップデートして進化していくという燃え展開で有名になったシリーズだ。

 後に監督は、この演出を3でやりたいためだけに1のシステムにわざと不備を残したと告白したほどのこだわりようだった。


「いや、もう最高に鳥肌立ったんだよねー。駆けつけた時の、相棒のセリフが最高で――」


 ベイオネットが口にしようとした、その時だ――ヒュオン……! と一条の黒い螺旋が天井から真下へと落下した。


「――!?」


 ドォ! と衝撃波がグレーターデーモンの一部とデーモンアンデットの一角を吹き飛ばす! 地面に作られたクレーター、その中心から歩み寄ってきた漆黒の大鎧が言った。


『やぁ、ロバート。これからちょっと大昔の友達に挨拶しに行くところなんだ。キミもどうだい? ――だった?』

「あ、ははは! それそれ!」


 こちらの話を聞いていたのだろう、黒百合の『プラネット・フォール3』再現の登場の仕方にベイオネットが吹き出す。ちなみにこの大昔の友達とは銀河連邦から追放された旧人類が逃げ込んだ滅ぶ寸前の惑星――はるか以前に人類が放棄した()()だったのだが。


『お待たせ、シロ』

「うん、待ったよクロ」


 大鎧の肩に、白百合とベイオネットが座る。そして、振り返りざま大鎧は蒼黒い大太刀で一本の迫る矢を切り落とした。


『――決着をつけにきた、レライエ』


   †  †  †


 大鐘楼から射た挨拶代わりの一矢が切り落とされ、狩人の魔神が言い捨てる。


「ああ、待ったともこの時を――英雄」


 それはお預けを喰らい続けた猟犬のような、血の匂いのする笑みと呟きだった。


   †  †  †

以前、安西Pの過去話で語られた『プラネット・フォール3』は1と2の伏線を全部回収したシリーズ最高作と言われています。


1主人公:2主人公の元同僚で3主人公の父親。銀河連邦の英雄として名が残っていた。

2主人公:1主人公の元同僚で3主人公の教官。3の途中、3主人公を生かすために3機あったギガス製造工場のひとつと自爆、名誉の戦死。なお、これは途中で2の相棒機と共にプレイヤー操作で自爆を行なった。

3主人公:1主人公の息子で2主人公の教え子。ラストで新人類1主人公と旧人類の母親から産まれた、両方の性質を受け継いでいたことが判明。エンディングは、地球を完全破壊する王道エンド、ギガス製造工場によって地球を再生させるトルゥーエンド、旧人類として新人類と敵対する敵対エンドの3つに分岐。それぞれの終わりで、ファンがいる。



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[気になる点] もし静さんがゾーン覚えたら手の付けようがないと思ってしまう。 一般人からすると共感覚とか強すぎるのよなぁ。 日常生活きついだろうけど。 [一言] 毎度のことながら2人とも人間離れしてる…
[一言] クロちゃん・・・その登場は最高なんよ・・・ 普通にかっこいいしプラネット・フォールファンの人にとっては更に最高やん
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