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135話 積層魔界領域パンデモニウム10

※こちら、お久しぶりです! 是非、お楽しみください!

   †  †  †


『よーし、まずはじょうきょうをまとめるな?』

「うん、お願い」


 闘技場の客席。エレイン・ロセッティの膝枕を受けながら、壬生黒百合(みぶ・くろゆり)は空中に浮かぶSDモナルダの浮かべる3Dモデルの積層遺跡都市ラーウムを確認する。


『まず、だいいっそう。ここはあもんとのばとるがおわって、ただのとおりみちだな』


 指示棒でSDモナルダが第一層を指し示すと、大きなバツがつく。次に指示棒が示すのは第二層だ。


『いま、かいむのかじのがめぎつねのちーとでとっぱされて、あいてむこうかんじょになってる。ここもとおりみちだな』


 第二層、三〇〇〇年という“妖獣王(ようじゅうおう)”の歳月を利用した力技でログイン時間がコインに変換される裏技が炸裂。現在は獲得したコインによって、アイテム交換所となっている。おおよそ考えられる中では、最速の突破だったろう。


「で、第三層が……()()?」

『……なんだよなぁ』


 第三層、魔神エリゴールとカイムのニ柱が確認された第三層は迷宮化。第二層から侵入してきたPCプレイヤーキャラクターが攻略中だ。


「エリゴールとカイムが一緒に行動してるなら、相応に厄介」

『……めんどうみいいんだな、えりごーるってやつ』

「ノーコメント」


 同じく第四層――元は第一層であったそこは、見た目こそは変わっていない。しかし、エリゴールとカイムを倒して(ポータル)の効果が発動しない場合、この第四層にいる魔神が怪しい。


「……おそらくは、サイゾウさんたちが接触したパイモンだと思うけど」

『ねんのため、だいよんそうもそうさくたいがくまれてるらしいけどな』


 そして、問題の最下層である第五層――そこは未だ、大量のグレーターデーモンの群れとレライエ、そしてネビロスとアンデッド軍団が守っている。

 空を覆うグレーターデーモン、そして地に溢れるグレーターデーモンのアンデッドという地獄の釜の蓋が開いたような光景を見ながら、エレインは言う。


「アレだっけ? デーモンを倒してもアンデッドにされるんだっけ?」

『なんだよ。りさいくるせいしんのたかいまじんだな、ほんとう』

「相対的な数が減ってないなら、徒労感が大きい。どうにか、ネビロスを倒せればいいんだけど――」


 黒百合は、そこで一度言葉を切る。間違いなく、レライエはネビロスと一緒に行動しているはずだ、と。お互いがお互いの長所と短所を補う組み合わせだ、そうなってくると厄介極まりない――。


「第五層の攻略を進行させながら、第三層を攻略中――現状、そういう状況だね」


 ツインテールの毛の先を指先でくるくると巻きながら、エレインはそう纏めた。黒百合はゆっくりと右手を握る、まだ痺れが残る――疲労は完全に抜けきっていない状況だ。


「後、一時間ぐらい休む。エレインは――」

「大丈夫、ここで情報を纏めておくから眠っておいて」

「……そう」


 別に膝枕は良いんだけど、と思うのだが満面の笑顔で言われて黒百合は口を閉じる。これで上機嫌になってくれるなら、それはそれでいいか、と黒百合は瞳を閉じた。


「――――」


 大きく、息を吸う。目を閉じた上で、更にもうひとつ瞼を閉じる感覚――黒百合は意識して、眠りの中へと落ちていった。


   †  †  †


 積層遺跡都市ラーウム第三層――その迷宮を、“騎士団”が疾走する。


『前へ、前へ、前へ! 道を塞がば、蹂躙するぞ!』


 魔神エリゴールが紅色の炎が馬となった乗騎に乗って、その“騎士団”の先頭を駆ける。巨大な馬上槍(ランス)を腰溜めに構え、炎の旗をはためかせて疾駆するその姿は雄々しい――のだが。


「ノリがあれだよなぁ、完全に暴走族のアレだわ」

「……思っても言わなかったのによぉ」


 遠目にそれを確認したアーロンに、堤又左衛門(つつみ・またざえもん)、又左は苦笑する。付き従うのは、漆黒のフルプレートメイルに身を包み漆黒のアンデッドホースに乗るデーモン軍団だ。彼らが掲げるランプや炎の軌跡が描くきらびやかな“騎士団”は、なるほど無軌道に夜に暴走する若者のそれによく似ていた。


■報告ー! 三層北側でエリゴールの一団が――。

■マジ? 俺、東側って聞いたんだけど?

■いや、南だろ? アレだけ目立つ一団見間違えないだろ?

■――駄目だ、情報が錯綜してんぞ? どうなってんだ!?


 積層遺跡探索隊の方で流れるコメント欄が、混乱に陥っていた。上がる報告、上がる報告、情報が一定しないのだ――それを確認しながら、又左が言い捨てる。


「……ここ、迷宮の西側だよな?」

「なんだよなぁ、こりゃあ確定だろ」


 アーロンは唸る、これは間違いなくカイムの仕業だ。おそらく、こちらに誤情報を流し、エリゴール相手に集中させない作戦なのだろう――本当に搦め手ばかり使う魔神である。

 そうアーロンが思っていると、ひとつ配信者からのコメントが混じった。



□問題ねぇ、配信者は配信をオンにしろ。実際に目で見れば見間違いはねぇだろ

■お? ジークん。こっちに回ってきたの?

■なるほど、リアルタイムで配信を確認すりゃあいいのか!

□これで判明したろ、カイムのヤツ。オレたちに紛れ込んでやがる。コメントの情報より、自分の目を信じりゃいいだけのこった。んじゃな

■いや、これは地味に大きいぞ。なるほど、配信ありきのレイドバトルだもんな

■カイムが配信ハックするってんでもなきゃ、問題ないな。冴えてんな、ジークん

□了解じゃー! 別スレ建てて配信者のそれ誘導するぞいー

■お、《百花繚乱》も来たか! 心強い!


「こっちの問題は、解決しそうだな」

「なら、俺らができるのは――」

「――派手に、行こうぜ」


 又左とアーロンが、エリゴールの“騎士団”の前に立ち塞がる。これは狼煙だ、連中はここにいるぞと教えるための盛大な『音』――。


「「《超過英雄譚(エクシード・サーガ)一騎当千(マイティ・ヒーロー)》!!」」


 又左の朱槍と、アーロンの大剣が同時に薙ぎ払われた。繰り出される広範囲攻撃――エリゴールは炎の馬を巧みに操るとその上を跳んだ。


『来たか! 強者ッ!』

「喜んでんじゃねぇ!」


 後ろのデーモンたちがアンデッドホースごと破壊されようと構わない、まるで炎の濁流のようにエリゴールは又左とアーロンへと襲いかかった。


   †  †  †


 ――少しは情報戦ができるヤツもいるみたいだけど。


 ()()()()()()()()()カイムがひとりほくそ笑む。こちらの策をチートで超えられたお返しだ、相応におちょくり返さないと気が済まない――だから、カイムは敢えて危険な手段を選択したはずだった。


 エリゴールの実力と数に対抗させないため、敵戦力を分散させる――詐欺師であり、情報を操るカイムにとってそれは息をするより簡単なことだ。情報の確度を著しく下げて、相手に先手を取らせない。それだけで、充分時間は稼げるのだから。


(やられたら、一〇〇倍で返させてもらうもの)


 表のエリゴールに、裏のカイム。皮肉なことに水と油のこの二柱の魔神は、時間稼ぎという意味ではこれ以上ない理想的な組み合わせであった。


   †  †  †

水と油にも、使いようはあるというお話です。


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