閑話 ?????????
† † †
深き深き冥府のそこで、腹を抱えながらベリアルは笑い転げていた。
「あー、はははははははははははははは! そう来るかー。カイムも馬鹿やったなぁ」
目尻に浮かんだ涙を指で拭い、ベリアルは改めて王座に座り直す。序列第四位魔王ベリアルは、王座に腰掛けながら足をプラプラとさせた。
「これで第三層でエリゴールとカイムのコンビ。第四層でパイモン、第五層でレライエとネビロスか……」
目の前に浮かぶ、五つのエリア。そのうち、第一層と第二層にはバツがついて潰れている――第三層と第五層が丸であるのに対して、第四層が三角なあたりが担当者のやる気の差か。
「うんうん、頼まれてた実験もうまくいってるみたいだし、いいんじゃないかな? この状況なら第五層も盛り上がるだろうし?」
ベリアルは虚空の立体映像をペシペシと操作していく――第二層のカジノが崩壊したので、用意していた景品交換所を設置。景品を確認しつつ、第三層を整えていく。
「さすがに手動はメンドイけど、仕方ないか。ハルファスが“向こう”に行っちゃったしなぁ」
ベリアルは、基本的に『人が嫌がることを進んでやる』タイプだった。自身の楽しみのためならあらゆる艱難辛苦もなんとやら――そういう意味では、苦を口にしてもベリアルは手を止めることはなく。
(さて、キミがどう出るか、見せてもらおうじゃないか――)
ベリアルが微笑む。愛らしい少女であり、悪意の名にふさわしい笑みだった――。
† † †
■すっげえな。一気にカジノがチップに変わって崩れたんですけど!?
■豪快だったなぁ、アレ
ディアナ・フォーチュンはコメント欄に流れる言葉に視線を向けて、改めて周囲を見回した。
そこにあるのは無数の店舗だ――景品交換所と書かれたいくつもの建物。どうやら、ここで得られたチップを景品と交換するための場所らしい。
「でも、クリア……でいいんですよね?」
■みたいだねー
■実際、結構エグい真似してたっぽいね、カイム
■ディアナん、どのくらいゲットしたっけ?
「えーっと」
ディアナは、チップの枚数を計算する――八〇〇〇〇枚とちょっと、実のところ藻女を抜かせばカジノ挑戦者では第二位のチップ獲得数である。
■……カラオケで荒稼ぎしたもんなぁ
■おひとりで九年ちょっと分稼いでらっしゃる? どうなってんの?
■むしろ、よく対応できたよな、あのアドリブに……
「楽譜が出てましたから、結構イケますよ?」
■無理無理
■歌いながらその楽譜の音を正確に再現できるって、ある意味『ゾーン』並におかしいんだよなぁ
カラオケ系のゲームでディアナがかなりの大勝ちしてなお届かないのだから、どれだけ困難な条件であったかわかる。
本当ならオーナー権限でルールを改定後、各ゲームの守護者と対戦。それに勝つことでチップの獲得数を一〇倍から一〇〇倍に増加させるというギミックがあったのだが――それも今となっては、意味がない。
「お、おったな」
そこへ、ひょいっと藻女が現れた。小さな尾で生み出した船に乗った藻女にディアナは目を丸くした。
■お? 藻女ちゃん?
■クロちゃんと別行動とは珍しい
「わらわはくらんこうかだからな。おなじくらんのこのもののとならせっしょくできるのよ」
「ああ、そうでしたね。どうしました?」
「これ、わたしておく」
そう言って藻女が渡したのは、大きな革袋――藻女が獲得した全チップが入った袋だ。それこそカジノを潰してなお余りある量のチップが詰め込まれた代物である。
「あのものからのでんごんじゃ」
――多分、カジノだからなにかしら景品と交換できると思う。ただ、まずは景品になにがあるか、確認してほしい。
「……クロちゃん的には、このカジノはただのトラップと思っていないんですね?」
「そのようじゃな。なにかしらのいみがある、そうかんがえておるようじゃ」
おそらくは、オーナーであるカイムでさえ知らない“なにか”があるはず――あくまで予感や予想であり、確定事項ではないけれど。
「わかりました。プルメリアさんと合流して、景品交換所を探してみます」
「うむ、ではの」
そう言って、藻女はその場から去ろうとする。その小さな背中に、ディアナは言った。
「ありがとうございました、藻女さん」
「……おぬしもいい性格しておるの」
少しだけ振り返り、藻女は苦笑。そう言い残して去っていく小さい姿が――ディアナには、本当にか弱く小さく見えた。
† † †
(……三〇〇〇年の孤独、ですか)
ディアナは思う――三〇〇〇年という時間、それは決して“設定”でないことが明確になったのだ、と。
チップの枚数は、ログイン時間の一時間につき一枚の計算である。だが、それはPCにのみ対応したことではないはずなのだ。NPCにも当てはまるのだとしたら、実際のログイン時間は生きてきた歳月に等しいのだ。
荒唐無稽だ、そこになんの意味があるというのか? だが、それを可能とする技術はもう目にしているのだ。
(時間圧縮、今、体験していますからね……)
リアルの時間が三〇〇〇年なはずもなく――だが、脳内時間はどうだ? 三〇〇〇年の時間を体感したというのなら、それは本当に三〇〇〇年生きたこととなんの違いがあるというのか?
だから、ディアナは思わずにはいられない。きっと、“彼”もこれを確かめたかったのだろう。
(このエクシード・サーガ・オンラインというゲームに、遊び以外のなにかがある……ということなのでしょうか?)
† † †
その答えにこそ、この世界の“真の目的”があるのでしょう――。
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