132話 積層魔界領域パンデモニウム7&途中経過
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《――リザルト》
《――イクスプロイット・エネミー“魔神アモン”討伐》
《――レイドバトル参加者、偉業ポイントを一五獲得》
《――アイテムドロップ判定。魔神アモンの残滓×5を取得》
《――リザルト、終了》
《――引き続きリザルト》
《――アイテムドロップ特殊処理。PCジークはブラックボックス:レジェンドを取得》
《――リザルト、終了》
† † †
積層遺跡第五層――そこで壬生白百合はシステムメッセージを聞いた。横で物陰に隠れて、足を使って矢をクロスボウに装填していたベイオネットが笑った。
「上手くいったみたいね」
「だね。こっちは――」
そう言って白百合とベイオネットは同時に物陰から覗き見る。そこには向こう側を見通せないほどの数のグレーターデーモンの群れが、ドドドドドドドドドドゥ! と口から炎を次々と吐き出すブレスで攻撃してくる地獄絵図が繰り広げられていた。
■なんじゃあ、あの密度はぁ!?
■元々、最悪この第五層だけで一二時間保たせるつもりだったんだからなぁ! こいつは骨だぜぇ!
■こちら白兵戦部隊、無理だわ、これ……援護射撃求む、援護射撃求む!
■お客様の中に回復手段を持たれた方はいませんかー!?
■衛生兵! 衛生兵!?
■敵が九、空が一! 繰り返す、敵が九、空が一!
結局、万魔殿の扉から侵攻することさえままならない――それに加えて、アレだ。
■魔法陣展開を確認! 総員、対ショック体勢!
■周囲を警戒しろ! ひとつでも射線が通ってたら終わりだぞ!?
コメント欄に飛び交う警告、それに白百合は視線を巡らせ緑色の光で描かれた魔法陣をいくつか弓矢で射抜き、パキン! と的のように射抜いて砕く! だが、本命は次だ。
――遺跡が、凄まじい振動に揺れる! 大量の魔法陣から放たれる、砲弾のような矢が降り注いだのだ。間違いない、レライエの空間転移の魔法陣を利用した直接支援“砲撃”だ。
「落としきれないね、さすがにアレは」
「いや、弓でアレだけ落としてたら充分だから」
魔法陣が射撃攻撃や魔法で阻害できることはわかっているが、対応しきれる数ではない――おそらく、既に鋼鉄のケンタウロスを展開しているのだろう。ケンタウロスとレライエ本体、その手数ならば白百合を含めたPCさえ凌駕してくる――それに加えての、あのデーモンの群れである。
「どうする? 一度撤退してみる? どう考えても人員が足りないでしょ」
「うーん、それだと時間が間に合うか不明だからなぁ」
ベイオネットの提案は、ある意味では真っ当だった。ここにいても、ただ質量で押し潰されるのみ――もっと多くのPCが第五層へ到達し、万魔殿の扉に登録してから挑んだ方が効率的ではあるだろう。
「無限湧きではないと思うから、少しでも削っておいた方がいいと思うんだ。ゾンビアタックできる分、こっちが有利だし」
「一種のリスポーン狩りを受けない程度には減らしておかないと、か」
また、白百合の意見も真理だ。どちらを選択したとしても、ようは戦術が変わるだけの話だ――ならば、とベイオネットは白百合に乗った。
「なら、撃墜数を稼ぐだけ稼ぎましょうか」
「だね」
ここが主戦場になる前に、どれだけグレーターデーモンの数が減らせるか? 白百合とベイオネットは同時に物陰から飛び出すと弓とクロスボウでグレーターデーモンたちを射抜いていった。
† † †
「すまないね、私はここで戦線離脱だ」
十三番目の騎士のその言葉に、異を唱える者はいなかった。彼が高齢ということはあまり浸透していないが、本気で動くと長時間は保たないという話は知られている――むしろ、彼がいなければ魔神アモンを倒せていたか怪しいところだ。この騎士が隠れたMVPであることは、間違いない。
「……私も、もうちょっと休んだら急ぐ、から……」
『むちゃしやがって……』
「ま、あれだけむちゃをやればのう」
その場に横になっているのは、壬生黒百合だ。“大変化・玉藻前”の反動だ、完全にプレイヤーの精神力の方が保たない。SDモナルダと藻女が甲斐甲斐しく介護してるのを見て、エレイン・ロセッティは他の仲間たちに言った。
「うん、クロはワタシが責任を持って転移で送る。だから――」
「任せなさい。あんたたちの分は、こっちが請け負うわ」
最後まで言わなくていいわ、とモナルダが代表して返答する。騎士に黒百合とエレイン、このレイドバトルの主力級がまとめて脱落、あるいは一時離脱を強いられた――それだけでいかに、あのレイドバトル最強の魔神が恐ろしい存在であったかわかる結果だ。
「なら、行こうぜ。茶番やってる時間も惜しい」
■ジークん、ツンデレってる場合じゃねーって
■この子ってば素直じゃないんですのよ、ごめんあそばせ
「るっせええ!」
■おハーブ畑で捕まえてごらんなさいな、オホホ
■お? それがブラックボックスの中身?
普段どおりに弄ってくるコメント欄の中で、ジークは自分の手にある長剣に視線を落とす。変哲のない西洋風の両刃剣――ただし、光を反射するとなぜか黄金の光沢を放つ不思議な剣だ。
† † †
・無銘の聖剣
太陽神の加護を宿した、無銘の聖剣。現状では破壊不可属性を帯びただけの頑丈なだけの剣である。しかし、その聖剣は持ち主と共に“偉業”を積み重ねることにより“成長”する。
未来の勇者よ、キミは未だ未完の大器である。太陽の如き偉業の先に、キミだけの聖剣を手に英雄譚にその名を刻むことを望む――。
† † †
「……つっかえねえ」
ボソリと吐き捨てるジークを咎める者はいなかった。その口元に、確かな笑みが刻まれていたからだ。その表情を見たら、彼の言葉に口を挟もうという者はいるはずもなく――。
「とにかく、行きましょうか」
「第二層はどうなっとるのかのう、確か以前の第三層が第二層になっておるんじゃろ?」
サイネリアの言葉に、十六夜鬼姫が他の誰かの動画を確認する。選ばれた一〇人と万魔殿の扉を選ばなかった者は自動的に第二層に行っているはずで――。
「……は?」
「お? ボクは地味に二層に行かないといけないんだけど――どう、な……って……」
鬼姫が絶句したそこに、アカネが覗き込み……その絶句の理由を理解した。
『ぎゃ、ああああああああああああああああああああ!! また破産したああああああああああ!!』
『こんなん無理じゃあああああああああ!!』
■合掌……
■だから、あそこでダブルアップするなと……
『いけると思ったんじゃあああああああああああああ!?』
■思った以上にヤバくね? ここ……
■どこの世界のレイドバトルで、こんな展開予想すんだよ……
第二層の配信者たちの悲鳴が聞こえた。あのレライエが待ち構えていた大きな吹き抜けは、すっかりと作り変えられていたのだ。
――そう、そこにあったのはケバケバしい光によって輝く、大カジノ場であった。カードやスロット、賭け戦車レース。さまざまな駆け勝負が揃ったギャンブル場だ。
その光景を見て、モナルダは深呼吸。キリっと表情を引き締めて、凛々しい声で言った。
「――よし、行くわよ! いざ、第二層!」
「はい、姉さんは第五層に直行ですよー」
「うええええええええ!? ちょっとだけ、ちょっとだけえええええええ!!」
■当然の処置
■どうしてレイドバトルで主力を負ける勝負に組み込むと思うのさ?
■はいはーい、賭け狂いは向こうですよー
サイネリアに首根っこを掴まれて持ち上げられたモナルダが、強制的に運ばれていく。どう考えてもレイドバトルでジャンルが違う大カジノ場に、モナルダが行けることは決してなかった。
† † †
二層では某詐欺師が無双しております……。
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