129話 積層魔界領域パンデモニウム4&“大変化”
※昨日は病院での検査検査でぶっ倒れてました、申し訳ない!
† † †
『raaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』
「チッ!」
完全武装したアモンが前進するのを、カラドックが迎え撃つ。“神通力・黒雲の護り・一片”の黒雲、神通力たるそれでアモンを飲み込もうとするがアモンの反応が早すぎる。膨れ上がる雲より速く、横へ飛ぶ――だが、そこには既に十三番目の騎士が回り込んでいた。
『おっと、お戻りはそちらだ』
振るう方天戟“兵主月牙”をアモンは大剣でブロック――だが、騎士は構わない。
『――アーツ《ウエポン・オーバーロード》』
ゴゥン! と方天戟が爆発、その衝撃で僅かにアモンの巨体が浮く――その背後に《震脚》とともに踏み込んだアカネの右拳が触れる!
『《超過英雄譚:英雄譚の一撃》アーツ《寸勁》!!』
地に足が戻る寸前、アカネの《超過英雄譚》を乗せた一撃がアモンを吹き飛ばす! 空中にある限り、踏ん張れない――それを見越したコンビネーションだ。そのまま黒雲に吹き飛ばされたアモンの黄金が銀色に戻っていく。
『逃さない』
そこへ“魔狼・遮那王”を解除した壬生黒百合が上空から九本の尾すべてを黒い鎖へと変えてアモンへと放った。ジャガガガガガガガガガガ! とアモンを絡め取っていく鎖、鎖、鎖。それを振りほどこうとする刹那の間隙で充分――サイゾウは準備を終えている。
『臨む兵、闘う者、皆 陣烈れて前に在り――! 忍法火遁唐獅子疾走!』
燃え上がりながら牙を剥く唐獅子が《超過英雄譚:英雄譚の一撃》を乗せて黒雲と鎖に囚われたアモンへ炸裂。そこへ十六夜鬼姫とジークが同時に駆け込んだ。
「「――《超過英雄譚:英雄譚の一撃》!!」」
鬼姫の刀が右脇腹を、ジークの長剣が左脇腹を、同時に捉えた。ギギギギギギギギギギン! と鎧の表面を削るに終わったが、確かに《超過英雄譚》の一撃というひとつの仕事は果たした。そのジークの顔面に、アモンの手が伸びる!
『おっと!』
「――っ」
その手首を“百獣騎士剣獅子王・双尾”の斬撃で、エレイン・ロセッティが撃ち落とした。ジークは紙一重で腕を掻い潜り、大きく後方へ跳んだ。
「くそ!」
礼よりも先に反射的に悪態をついてしまうのは、もはや習性だ。完全に速度についていけていない、その自覚があるだけにジークは己の不甲斐なさに歯軋りする。
(こ、れが――)
これが、憧れた世界の速度なのか? だとずれば、自分はあまりにも憧れに遠すぎた。ジークは至らない自分に苛立つがゆえに、ひとつの事実に気づかずにいた。
『行くわよ』
『はい』
ジークと鬼姫が逃げる時間をエレインが稼ぎ終えると、モナルダとサイネリアがアモンへ迫った。二人で左右へ交差し、同時に戦斧と戦鎚を放り投げる。自動的に最適解を選択するアモンは、その動きを視線で追う――その反射行動を利用して、モナルダとサイネリアは一瞬の隙にアモンの懐へ潜り込む。
ふたりが同時に腰から引き抜いた、片手メイスだ。その形状が新体操のバトンに酷似しているのは、決して偶然ではない。コンタクトマテリアル――指先だけで回転させ、最小の動きで遠心力をつけた片手メイスを、モナルダとサイネリアはアモンの両膝へとそれぞれ叩きつけた。
『『《超過英雄譚:英雄譚の一撃》!』』
得意分野であった新体操の動きを利用した一撃を赤青姉妹は打ち込み、そのままアモンの目の前を通過――遅れてアモンの両肩へ、空中でモナルダとサイネリアの戦斧と戦鎚を掴んだ黒百合がふたつの武器を振り落とした。
『――《超過英雄譚:英雄譚の一撃》!』
ガゴン! と轟音を立てて、ふたつの武器がアモンの両肩へ叩き込まれる! そのままそのまま空中で前転した黒百合は戦斧をモナルダへ、戦鎚をサイネリアへ投擲して返却する。
『raaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』
空中の黒百合へ、アモンが左のパイルバンカーを繰り出す。それを防いだのは騎士だ。一合、二合、三合、四合、五合――アモンの左右の連撃を騎士は再生させた方天戟で受け流しながら、不意に方天戟を離した。
アモンはその方天戟を爪先で蹴り飛ばす――既に二度、その爆発を受けていたのだ。それを嫌ってのことだが、そこには既に空中で落とした黒百合の小狐丸を受け取り居合の構えを取った騎士がいた。
『――シィ!!』
至近距離、引き抜く動作と腰の捻りを利用した刹那の抜刀。騎士の《超過英雄譚:英雄譚の一撃》を込めた居合斬りが、アモンの脇腹を深く切り裂いた。
――その九発目の《超過英雄譚》が、正午の一分終了の合図だった。
† † †
■クッソ、なにがあったかほとんどわからねぇ!?
■リアルタイム配信だからなぁ、ちくしょう。『ゾーン』持ちの動きは異次元過ぎる!
■ようやく二分目……二分目ぇ!? 濃密にも程があんだろぅ!?
コメント欄も、ようやく追いついた。トップクラスの速度領域、それを外野がついていけないのは当然だ。高性能のVR機器による補佐があるからこその速度、それでも『ゾーン』に踏み込めない者にはほとんどの動きが異次元過ぎてついていけない。
■エレちゃんは後二発“双尾”のストックがあって、カラドックの姐さんは《不破の英雄》だから――
■残り、四発……四発ぅ!? あの一分を後、一五回やんのかよぉ! 無茶じゃねぇ!?
■ん? あれ? クロちゃん以外が後方へ退いてね?
■おいおいおいおいおいおい!?
† † †
完全に銀色に戻ったアモンが身構える。そうなった理由は、黒百合がひとりでその場に立ち塞がり残り全員が散ったからだ。
――カラドックさん以外が一度、できる限り早く《超過英雄譚》を吐いてほしい。その後は、私ができる限り時間を稼ぐ。
そう事前に仲間たちには告げていた。エレインには、ここで全部を出し切ってもらう――だから、自分は奥の手を切る。
『いくよ、藻女』
『うむ』
黒百合の頭上に立った藻女と黒百合が、同時にパン! と目の前で手を合わせた。
『『“大変化――』』
その瞬間、黒き九尾が黒百合を包む――刹那、“ソレ”が地を蹴った。アモンが左右の大剣を同時に振り下ろし迎撃。豪快かつ鋭い斬撃を、“ソレ”は白黒二本の打刀で受け止めた。
直後、アモンの膝が繰り出される。“ソレ”の顔面に向かって放たれた膝蹴り――だが、“ソレ”の背から伸びた九本の尾が連続で繰り出されアモンの巨体を吹き飛ばす!
ズサァ! とすかさずアモンは着地する。出力負けしたのだ、この物理最強と真っ向から殴りあえる魔神が――!
『『――玉藻前”』』
そこに立っていたのは、長い黒髪に黒い巫女服を着た九尾を持つ狼耳の女だった。見た目なら、二十歳になるかどうか。背はそれなり高く一七五ほど。無表情な瞳に、鋭利に整った美貌。その身体のラインも巫女服の上から見てもわかる女性的なそれを描いていた。 そう、ちょうど、黒百合を成長させたらこんな容姿になる……そう思わせる、美女の姿だ。
『raaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――!』
アモンが前へ出ようと踏み出そうとする、しかし、伸びた九尾は前後左右自由自在にアモンへと襲いかかった。アモンはその尾を叩き落とし、回避し、なおも前へ出る――だが、そこに一本の投げ斧が投擲される。“玉藻前”が投擲したそれをアモンは咄嗟に身を沈めて回避――しようとして、そこに置かれるように突き上げられた尾によって顎を強打、打ち上げられた。
『ガ――!』
『まだ、終わらぬわ!』
空中で跳ね上げられたアモンを、次から次へと尾が殴打していく。一打一打の威力は欠けた。だが着実な積み重ねは、徐々にアモンへ蓄積していく――その連打を可能とするのは、“玉藻前”本体の二刀の斬撃や視線、動作による誘導があってこそだ。
これこそが、黒百合の“奥の手”――“大変化・玉藻前”。藻女に九尾の制御を任せ、自身はそのフォローと生身の制御に全精力を集中する、一心同体の合せ技。藻女がホツマ妖怪軍の独立NPC扱いであること、そしてブラックボックス製の“黒面蒼毛九尾の魔狼”と併用していること――それらを加味しての“裏技”である。
『raaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
『『時間稼ぎ、付き合ってもらう』』
完全武装した魔神と九尾の女が、闘技場の中心で激突した。
† † †
※可愛い女の子にも綺麗なお姉さんにも対応できるようになりました(バ美肉少年)
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