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127話 積層魔界領域パンデモニウム2

※申し訳ないです、最後の方抜けがありました。追加しときます。

   †  †  †


 ゴゥン! と積層遺跡都市ラーウムに響き渡る鐘の音が響く。時間だ――それと同時に、PCプレイヤーキャラクターたちは浮遊感に襲われた。


「――全員、集まって」


 壬生黒百合(みぶ・くろゆり)の声に、藻女(みくずめ)が背中から“妖獣王(ようじゅうおう)黒面(こくめん)”を投げ放つ――それに右手を向け、黒百合が唱えた。


「「――“黒面蒼毛九尾こくめんそうもうきゅうび魔狼(まろう)”」

『GA、AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』


 蒼黒い狼頭が黒百合の眼前で吼える――そして、九つの尾がそれぞれ船になって他の九人を載せた。


 バサバサバサ、と風の音がする。落下する先は、第一階層闘技場――トン、と黒百合はエレイン・ロセッティが乗る船に降り立つと・十三番目の騎士サーティーンス・ナイトへ告げた。


「お願いします」

「うむ、まずは小手調べだね」


 方天戟“兵主月牙(へいしゅ・げつが)”を手に、騎士は下を見る。闘技場の真ん中、そこに立っていたのは体長五メートルほどの巨躯――梟を模したヘルムが特徴的な銀色の全身甲冑を身に纏った魔神アモンだ。


「では、失礼するよ! 魔神君!」


 ヒュガ! と騎士は迷うことなく方天戟を投擲した。速い、あっという間にアモンへと到達すると、騎士は呟く。


「アーツ《ウエポン・オーバーロード》」


 ――その瞬間、アモンを中心に大爆発が巻き起こった。ビリビリと震える大気、騎士が投擲した方天戟“兵主月牙”が内側から破裂し、爆発を巻き起こしたのだ。

 上がる噴煙、それを船の縁から見下ろしてモナルダが目を丸くする。


「ちょっと!? なんなの、あれ!?」

「ああ、あの方天戟“兵主月牙”は武器の破壊を代償に、消耗度が低ければ低いほど一撃の威力が上昇するという効果があってね」


 モナルダの疑問に、騎士はあっさりと種明かしする。そして、騎士は右手を虚空にかざし唱えた。


「アーツ《月牙転輪》」


 そして、騎士の手の中に()()()方天戟“兵主月牙”が現れる。それを見て、スン……と黒百合は光の消えた瞳で補足した。


「その人のブラックボックス製の方天戟“兵主月牙”は、武器の破壊を代償に通常攻撃力を上昇。加えて破壊後、武器を修復できるって言う()()()がひとつの武器で完成している、当たり武器」

「ひゅーひゅひゅー」


 吹けてない口笛で、藻女は視線を逸らす。SDモナルダの半眼が向けられるが、藻女は請け負わなかった。


「さすがに少しは効いたじゃろ」


 言う十六夜鬼姫(いざよい・おにひめ)の言葉は、願望だ。鬼姫自身も自覚があるのだろう――だから、次の騎士の言葉に動揺はなかった。


「いや、躱されたね」

「以後は、打ち合わせ通りに」


 その瞬間、騎士と黒百合が船から跳んだ。着地と同時に、ふたりは左右に駆け出す。一隻だけ空へ、仲間を乗せた七隻は闘技場のそれぞれの位置に散っていった。


「クロ君」

『――――』


 騎士からの警告、その直後に砂塵からアモンが飛び出した。『ゾーン』を用いた知覚でさえ、なお速い――最短距離、最適の動きで黒百合の顔面に前蹴りの一打を打ち込んで来た。


(あれは殺意ではないね)


 騎士――サー・ロジャーが捉える意識の線は、そのあまりにも無駄のないアモンの動きに、機械を連想させた。むしろ、その意識の線が見えずにあの一撃を警告があったとしても躱した黒百合を褒めるべきか。


「――ッ!」


 足が引き戻される、その時にアモンが身を捻る。縦だった爪先が横へ、引き戻す動きで黒百合の後頭部を後ろから痛打しようと狙う。それを黒百合は高速でしゃがみ、アモンの膝を蹴って後方へ転がった。

 アモンはそれを追おうとするが、背後から騎士の突き出した方天戟がアモンの足首を刈る。モーションのキャンセル、前へ出るという動きが強制的に止められたアモンに黒百合は騎士が降りた船を一本の尾へ戻し投げ槍へ――アモンの顔面へすかさず投げつけた。


『――――』


 アモンはその槍をほんのわずかに首を横へ移動させただけで回避――ズサァ! と投擲に合わせて駆けていた黒百合が、騎士の横へ並んだ。


『どう思います?』

『機械的――いや、自動的に最適な動きを行なっているように感じるね』


 お互いに『ゾーン』を用いた、思考入力による情報共有。騎士の感想に、黒百合は頷いた。


『同感です。こちらの動きに完全に対応する完璧な後の先だと思います』

『なるほど。ならば――』

『――対処できない角度、速度、タイミングを見出します』


 このふたりのみが最初にぶつかっているのには、理由がある――最低でも最初の一回は《超過英雄譚(エクシード・サーガ)》を他のメンバーにも当ててもらわなければ、勝機がないからだ。

 だから、まずはそのタイミングを作る――黒百合と騎士は、同時に駆け出した。


   †  †  †


(くっそ……!)


 ジークはふたりの行動を見て、船から飛び降りる。走る、足を止めては駄目だ。あのふたりがアモンを抑え、隙を作った瞬間に《超過英雄譚》を打ち込むのが自分の役目だ。

 思い出すのは、騎士の人との訓練の間に行われた会話だ。


『キミはあれだな、本当にもったいないな』

『……もったいないッスか?』


 一三番目の騎士に練習中の合間にそう言われ、ジークは眉根を寄せた。抽象的過ぎる、そう言いたげなジークの表情に察したのだろう、騎士は言葉を変えた。


『うん、キミのプレイスタイルはあのミスターゴトウを真似ているのだろう?』

『……ッ!?』


 ビクッ、とジークが身を震わせる。図星を突かれたからだ。そして、だからこそ騎士は笑って言った。


『いやいや、悪いことではない。憧れへの模倣。私の孫娘も最初は私の真似から始めたものだよ』

『……無謀だなぁ』


 騎士と実際に練習で打ち合っているからこそ、ジークにもわかる。あのバーチャルアイドルが全米NO1と世界一と同じ位置にその名前を上げた理由を。本物だ、この人は――自分の憧れと同じ場所に立っている人なんだ、と本気でジークは思っていた。


『ま、今では孫娘はほら、クロ君。彼女にも憧れているようでね。私のソレからは外れ、自分の道を歩き出しているよ』


 少し寂しいがね、と付け足しながら、ああ、とジークはこの人孫馬鹿だわ、と思ったが口にはしなかった。


『――――』

『うん、キミもわかり始めたよね? クロ君も、確実に“こちら側”だ』

『……そうっすね』


 本人の目の前では絶対に言いたくないが、この人に意地を張っても仕方がない。そう思ってジークは正直に言った。なにせ、すごいと思った()人目の人だから。


 一人は世界一。もうひとりはそのライバルである全米NO1……もうひとり、すごいと思った人がいた。後藤礼二(ごとう・れいじ)屈指の名勝負、アジア大会で彼から一本を奪った謎のワイルド枠のVR格闘ゲームプレイヤー『Yoshitsune』だ。


『彼女の場合、ただただ自分の道を歩んできたのだろう。一歩一歩確実に――だが、キミの場合は違う。憧れに直接挑戦してしまった。だから、その過程が足りない』

『……蛇口の構造を一から発明するのに一〇年かかったなら、別の誰かが〇から発明するのにはやはり一〇年かかるってヤツっすか?』

『お、いい例えだね』


 褒められると、ジークは居心地が悪くなる。人の受け売りだからだ。


『そうだ、キミが蛇口をひねりたいだけなら、それでもいいだろう。だが、キミがしているのは憧れの人と同じように蛇口を作りたいのだろう? なら、その過程もないがしろにしては駄目だ』

『……効率よく学べってことっすよね』

『うん、そう。別にすべて同じでなくていいんだ。同じ結果に行き着けるなら、別の手法を試してみるのもいいと思うよ』


 それにね、と朗らかに騎士はヘルムの下で笑う。それは心底からの言葉だった。


『憧れてくれるのは光栄ではあるがね。いつだって、後に続く者には自分より先に行ってもらいたい――歳を取ると、そう思うものなのさ』


 今も成長する孫娘がいるからこその、騎士の万感の言葉だった。


   †  †  †

このフロント二枚の安心感よ……。


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