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閑話 Who is the hero?

   †  †  †


『おっかえり、クロ!』


 壬生黒百合(みぶ・くろゆり)の頭の上に、SDモナルダが降り立った。

 積層遺跡都市ラーウム、その大広間へとファストトラベルして来た黒百合を待っていたのだろう。それに器用にバランスを取って、SDモナルダを受け止めた。藻女(みくずめ)の座るものの隣の髪飾りに、慣れたようにSDモナルダは腰掛ける。


「ただいま。そういえば、アモン戦のメンバーは決まった」

『おう! ちゃっかりおりじなるものこってるぞー』


 ヴン、とSDモナルダはウィンドウを黒百合の目の前に展開する。そこには一〇名の名前が乗っていた。


   †  †  †


・壬生黒百合

・エレイン・ロセッティ

・カラドック

十三番目の騎士サーティーンス・ナイト

・サイゾウ

・モナルダ

・サイネリア

・アカネ

十六夜鬼姫(いざよい・おにひめ)

・ジーク


   †  †  †


「……鬼姫さんも入ってる」

『ぴーぶいぴー、あいつつよいんだよなぁ』


 決闘システムでトーナメントをやった場合、充分可能性はあるとモナルダも言っていた気がする。アカネも合流しており、見知った者も多いが――


「ふうん、いもうとがはいっておらんのだなぁ」

「逆、シロには最初の第五層に行ってもらう」


 藻女の疑問に、黒百合はそう答える。プリネリアの考察動画視聴者の人が、第五層のマップを手に入れてくれたのが大きい――あの鐘の位置からレライエが狙撃してくるなら対応できるのは壬生白百合(みぶ・しろゆり)ぐらいなものだ。これにベイオネットや他の射撃攻撃系有志が多数、カウンタースナイプとしてフォローに入る予定だ。

 アーロンと堤又左衛門(つつみ・またざえもん)こと又左の名前がないのも、おそらくは遊撃として動くつもりだからだろう。


「闘技場組は《超過英雄譚(エクシード・サーガ)》の抱え落ちは許されない。加えて足りない時は、何としてもリキャストタイムを凌ぎきらないといけないからかなりきつい」


 闘技場の仕様はこうだ。

 まず、最初に選ばれた最大一〇名は自動的に闘技場へと飛ばされる。そして、この一〇名は一度でも戦闘不能となりリスポーンした場合、二度と闘技場には戻れない――そう考えれば、やはりタンクであるカラドックは()()()()()を別にして必須であったと言える。


()()があったとしても、なかなかにきついのぉ」

『? あれってなんだよぉ、教えろよぉ!』

「今は内緒。一度、闘技場組は全員で集まって相談する必要が――」


 不意に、黒百合が言葉を切る。その視線が向いている方へ、SDモナルダと藻女が視線を追った。

 そこにいたのは、ひとりの青年だった。青年は心底嫌そうな顔で、一言吐き捨てた。


「遅い出勤だな。重役出勤かよ」

「……ちょっと用事があった。あなたも闘技場組に入ったんだね、おめでとう」

「めでたくねぇ」


 黒百合の言葉を、ジークは短く吐き捨てる。ただ、黒百合はなにも言い返さない――ジークは頭を掻き、小さく首を左右に振った。


「……違ぇ、そういうこと言いに来たんじゃない」

「ん」

「わかったよう――ああ、それも違ぇって」


 言いたいことがあるのだろう、そう思って黒百合は相槌も打たずに待つことにした。なにかを言いかけては言葉を飲むを繰り返すジークに、SDと藻女がヒソヒソと会話をする。


『なんだよ、じあんか? じあんなのか?』

「わらわ、しってるぞい。つんでれってやつじゃろ?」

「違うわ!? 聞こえてんだよ、ちんちくりんどもがぁ!!」

「こら、黙る」

『「はーい」』


 黒百合にたしなめられ、SDモナルダと藻女は同時に返事。沈黙した。ジークは深くため息、ようやく絞り出すように言った。


「あの化け物とやるんだ、お前、ちょっと練習台になれよ」

「……私?」

「あの大鎧。あれなら、充分仮想アモンになるだろ」


 ジークの言葉に、黒百合は敢えて訂正しなかった。そっちは理解していた、そうではなく彼が自分にそれを頼んできたことを疑問に思ったのだ。


(心境の変化でもあったのかな?)


 理由はわからない、なら随分と好転しているようだ。ジークからするのは馴れ合いの空気ではない――むしろ、こっちを嫌ったまま利用してやろうという気概さえ感じる。


「……なにがおかしいんだよ」

「ん? 笑ってた?」

「目が笑ってんだよ、ちくしょう!」


 馬鹿にすんな、と吐き捨てるジークに、黒百合は自分の頬を撫でる。九割の感情カットはきちんと作動しているはずだ――それでも伝わるあたり、かなり表に出てしまっているらしい。

 なら、毒を喰らわば皿までだ。黒百合は、ジークへと切り出した。


「私より仮想アモンにふさわしい練習相手がいるんだけど、どう?」

「――あ?」


   †  †  †


 ――翌日、ジークは英雄回廊:ホツマにある天守閣にいた。


『うーし、行くぞぉ!』

「え、ちょ――まっ――」

『よーい、どーん!』


 どーん、と言い終わる前に砲弾のような拳を食らって、開始一秒でジークの身体が粒子となった。あらら、と殴った張本鬼(ちょうほんにん)である大嶽丸(おおたけまる)が殴った右手を振るって苦笑した。

 やがて、どたどたどた、と走る音がしてジークが天守閣の屋根に戻ってきた。


「なんだよ、今の!?」

『いやぁ、普通に殴っただけだぜ?』

「おっかしいだろ、アレ!?」


 噛み付くように文句を言ってくるジークに、大嶽丸は小さく肩をすくめる。そこにあるのは、もはや呆れきったという表情だ。


『お前もアモンとやんだろう? あいつなら、こんな一発ぐらい普通に打ってくんぞ。お前こそ、大丈夫か? あいつ()くらいやれとは言わねぇけどさぁ』

「ぐぬぬ……!」

「はははは! なら、もう一回私が挑戦していいかね? ミスター・オーガ」


 そう言って口を挟んだのは、誰であろう十三番目の騎士だ。それに、大嶽丸は改めて向き直った。


『おう。お前さん相手になら、もうちょい本気でやっていいかね』

「はっはっは、お手柔らかに頼むよ」

『なにを言ってやがる。最初から、『一分』ひとりで保たしたのは、“大英雄”以来だぜ?』


 完全に戦闘態勢に入っているひとりと一体に、ジークが歯軋りしながら後退する。それに黒百合がジークの背中を軽く叩いて、言った。


「相手が悪い。私だって、初めては一分持たなかった」

「嫌味かよ、ちくしょう! ああ、確かに仮想アモンとしちゃ文句ないけどさ!」


 目の前では、大嶽丸と騎士が激突する。完全に身体能力で勝る大嶽丸を、騎士は最小の動きと卓絶した技、反応速度で受け流す。方天戟“兵主月牙(へいしゅ・げつが)”、かの序列第二位魔王のブラックボックス製の武具が、火花を散らす。騎士の動きは優美でさえある。一撃一撃、当たれば致命傷になりえる一撃を完全に《受け流し(パリィ)》で凌いでいた。


「あなたは、あの人を手本にした方がいい。あの人のあれは、きっとあなたの完成形」

「……そ、れは、わかるんだけどよ」


 まず、ジークでは完全に知覚できない。時折、動きが見えることはあるものの、それも一瞬一瞬で途切れるものだ。あの大嶽丸というエネミーはいざしらず、あの人は本当に人間なのかも疑わしかった。


「あの人の凄さは、先読みにある。あの先の先は、本当に世界の最高峰と言うしかない」

「――先の先?」

「VR格闘ゲームとか、トッププロのことはわかる?」

「ん、ああ……」


 世界最強に憧れたのだ、知っていて当然だ――とは言えない。あまりにも遠すぎて、胸を張ってそう言えないのが正直なところだ。


「一三番目の騎士のあの人の場合、相手がどう動くのか完全に先読みして、それを突いて動く。相手の手に対して、動き出す前に必ず先手で対処する先の先における究極系って言っていい」


 相手の殺気、動こうとする意識の軌道が察知できる――そんな『ゾーン』の集中力した卓絶した読み。それがあって、初めて成り立つ領域だ。


「全米NO1のヴィクトリア・マッケンジー。彼女の強味は反射神経や動きの正確さのみではない。確かな知識と読み合いの技量、加えて相手の動きを完全に制御下に置く1フレーム単位でじゃんけんを強いてくる技巧が強味。彼女の場合は、対の先の究極系」


 対の先――相手と同時に動きその上で先手、上手を取る。これは『ゾーン』を用いて一瞬で考えるのもおぞましい選択肢を用意できるヴィクトリアならではの最強の形だ。


「世界一、後藤礼二(ごとう・れいじ)はこのふたりとも違う、後の先の究極系。相手が動いた後に動いて、相手から先手を奪う反射神経と身体能力、完全な予備動作を殺しきった無拍子があって初めてなりたつ神業」


 後藤に関しては、もう考えるだけ無駄だ。おびただしい数の反復練習という狂気の努力と反射神経という天賦の才――そのふたつの融合、それが生んだ奇跡だ。黒百合――坂野九郎(さかの・くろう)は、二年前に奇跡的に一ラウンド奪い、一対一で迎えた三ラウンド目に見せた後藤の動きを、一生忘れない……いや、忘れられないだろう。


「先の先、対の先、後の先。この三つの中では、あなたは先の先向き。観察力もある、対人の読みも鋭い。そう思って、今回は参考になればとあの人も誘った」


 よく見て、学んでくれると嬉しい。そう言う黒百合に、ジークは苦虫を何匹も噛み殺したような表情になる――喉元まで出るお礼が、やはり出てくれない。反発の方が強くて、飲み込んでしまう。


「……あっそ。借りはアモン戦で返すよ」

「うん、それでいい」

「おう!?」


 パン! とついに騎士が殴り飛ばされ、消滅する。それを見て、ジークは再び大嶽丸の前に出た。


「おい、次はオレでいいよな?」

『おいおい、せめて――』

「まずは、一〇秒保たせる。文句はないよな?」


 目は死んでいない、挑むように睨みつけてくるジークに野太く笑って大嶽丸は言った。


『おう、今日中に一〇秒保ったら、ブラックボックスじゃないが景品ぐらいはくれてやんぜ?』

「上等だ、吠え面かくなよ!」


 言って、ジークが長剣を抜く。それに、大嶽丸も応じて屋根を踏み砕きながら迎撃した。


   †  †  †


「おや? ジーク君、早いね?」

「に、二秒保った、保ったんだよ! 次こそ!」


   †  †  †

比べる相手がもうおかしいねん……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 周りがアレだからあんまり実感湧かないけど大嶽丸に手加減ありでも2秒保たせられたの凄いよな
[良い点] 数年後、少年から青年になった彼が世界に挑んでいる姿が見えるみえる。 [気になる点] 黒百合との会話を見ていると素直になれない彼を理解してくれるパートナーが出来たらより映えそうだな。 そんな…
[良い点] 毎日の更新ありがとうございます [気になる点] ジークんは、しばらく、ちびモナとみずくめのおもちゃですねー。 [一言] 本当に脳筋突撃思考の低プレイヤースキルだと、未踏領域にたどり着くまで…
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