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116話 遠距離弓射一〇〇〇〇 6

   †  †  †


 アーツ《転移門(テレポート・ポータル)》。それは組織:聖務騎士団に所属し、一定の功績を収めた者のみが授かる特殊アーツである。

 扱いにはかなり慎重さが求められること、悪用すれば即座に聖務騎士団に悟られ立場とアーツを没収されるなど厳罰に処されること、PCプレイヤーキャラクターに扱えるのは個人移動やアイテム等の移動がせいぜいなこと――制約が多いがそれでもな強力な転移系のアーツだ。


 エレイン・ロセッティは、その功績と個人的な友好によりこの特殊アーツを授かった。だからこその()()()――最後の詰め担当(フィニッシャー)である。


   †  †  †


「コンボ:クルージーン・カサド・ヒャン――!」


 飛び込んだと同時、エレインの“百獣騎士剣(ひゃくじゅうきしけん)獅子王(ライオンハート)双尾(ツインテール)”の光の一閃がレライエを飲み込んだ。対象が単体である――それを利用しての鋼鉄のケンタウロスとレライエを分断させる一撃だ。


『――ッ!』


 その瞬間、吹き飛んだレライエは見た。空となった大鎧が解け五尾に戻ると、二尾が再び両腕に――そのまま鋼鉄のサジタリウスを抑え込むと一気に格子状の(はり)、その隙間から半人半馬の巨体を一気に下へと運んでいく光景を。


「エレイン、合わせる」

「うん!」


 蒼黒い狼頭と七尾を展開した壬生黒百合(みぶ・くろゆり)と、“百獣騎士剣獅子王・双尾”を構えたエレインが並ぶ。

 そこで、“歌姫の短杖(ディーヴァワンド)三頭(トライヘッド)”を手にしたディアナ・フォーチュンの支援魔法が飛んだ。


「アーツ《マジック・エクスパンド》――アーツ《フィジカル・ブースト》」


 範囲を拡大した身体強化魔法がかかった刹那、黄金のツインテールを揺らして駆け出したエレインにミスリル銀製の刀である百合花を抜いた黒百合が続いた。


『チィ!!』


 舌打ちの思考入力と共に、レライエは四本の矢を速射。あの一撃の手応え、《超過英雄譚:英雄譚の一撃》をただ用いただけとは思えない――ブラックボックス製、おそらくはエピック級の武具だとレライエは判断。ダメージを稼がれるのを嫌い、即座にエレインを潰そうとしたのだ。


『スイッチ』


 だが、黒百合がエレインの前へと出る。一矢目を袈裟懸けの刀で切り落とし、二矢目を返す刃で弾いた。三矢目と四矢目を盾に変えた一尾で角度を利用して受け流す。


『スイッチ!』


 そこで黒百合の背を蹴り肩を足場に、エレインが跳んだ。頭上からの攻撃? だが、それは悪手だ――レライエは狙いもそこそこ、エレインへと矢を放つ。

 それこそフレーム単位の戦闘でただのジャンプなど、自由落下に頼る分いい的だと言わざるを得ない。胴部、適当にどこへ矢が突き刺さったとしてもそれで致命傷だ。


『――!!』


 だが、急激にエレインが加速を得てその矢を掻い潜る。理由は簡単だ、盾に変えた黒百合の尾が足場となったからだ。足場となって上は確認していない、それでもエレインの動きに対応して見せたのだ。


『クルージーン・カサド・ヒャン!』

『な、に――!?』


 髪飾りのひとつが弾けて放たれる、《超過英雄譚:英雄譚の一撃》を乗せたエレインの一撃。クールタイムは終わっているはずがない――複数回の《超過英雄譚》が使用可能なのだとすれば――!


『“百獣王(ひゃくじゅうおう)”のエピックか!』


 レライエはそこへ思い至り、完全に自分が詰まされている現状をそこで把握した。()()“百獣王”のブラックボックス製の最上級であればもう一発の《超過英雄譚》を可能とし――。


『――ッ』


 レライエは、ディアナへと視線を向ける。カラドックを始めとした全員が盾と守りを固め、ディアナを守っていた。あれではどう攻撃してもディアナには届かない――この状況まで見越したのだとすれば、策を立てた者……あるいは者たちは優れた狩人と言えるだろう。


『なら――()()だ』


 レライエは、迷わず梁から飛び降りた。


   †  †  †


『そう来たか』


 黒百合は動きを止め、危険を承知で下を覗き込む。そこには膨大な数の矢を召喚したレライエが、下へ落ちていく光景があった。


(追うなら、あの矢を対処しなくてはいけない。でも、追わない選択肢はない)


 下には鋼鉄のケンタウロスが隔離されている。それと合流させたら、それこそなにをするかわかったものではない――この後に及んで選択肢に見せかけた一択を押し付けてくる。どこまでも狩人だ、あの魔神は――!


『エレイン――!』


 その一言で、迷わずエレインがレライエを追った。迷いも惑いも存在しない、自分の成すべきことをすれば()()()()()()()()()()()()()、他人任せという名の究極の信頼だ。


『クルージーン・カサド・ヒャン!』

『アーツ《アロー・ファランクスⅢ》』


 横殴りの《超過英雄譚:一騎当千(マイティ・ヒーロー)》を込めたエレインの一閃とレライエの矢の軍勢による発進が同時に放たれた。レライエは光の刃に切り裂かれるも、矢の軍勢はそのまま突き進む――その矢からエレインを守ったのは、四尾を用いた漆黒の盾だ。


『――――!』

「《超過英雄譚:あなたの英雄譚(ユア・サーガ)》!」


 ディアナの《超過英雄譚:あなたの英雄譚》によって黒百合の《超過英雄譚:英雄譚の一撃》が再度使用可能に――百合花を切っ先とした絡み合う二尾を用いた槍を大鎧の右腕が振りかぶった。


   †  †  †


 ――レライエは、()()を待っていた。


   †  †  †


 ガシャン! と全長二メートルを優に超える機械式バリスタが、レライエの右腕に装着される。鋼鉄のケンタウロスが胴部に装備していた巨大バリスタだ。狙いをつける速射に向かないため、この場では使用を控えていたレライエ最強の武装だ。


『――グングニル!』

『射抜け』


 お互いの最大火力が、同時に放たれた。


   †  †  †


 ――爆音が轟いた。槍の投擲と大矢の射撃、その射線が激突していたからこそ起きた爆発だ。

 その衝撃に黒百合は逆らわず、ただ大盾を動かしてエレインを退避させることに集中した。槍を投げた大鎧の右腕が、空中で黒百合を受け止め――。


「――なんの真似だ!?」


 レライエの鋭い怒声が、響き渡る。届かなかったのか、そう思いながら弾けたように見下ろした黒百合は見る――槍と大矢、両方を受け止めたヘルムとショルダーアーマーで三つの犬の頭を表現した漆黒の全身甲冑がそこにあったことを。


『なんの真似もなにも、救援ですけど? プププ、レライエさんとか追い込まれちゃって必死過ぎぃ』

「ふざけるな! 誰が頼んだ!?」


 おどける魔神ネビロスに、レライエは憤怒の形相を隠しもしない。空中で静止したまま、再び巨大バリスタをネビロス相手に構えてさえ見せた。


『困るんだよね、今回のレイドバトルで手駒が減るの。わかってる? 適当なとこで退くって約条だよね? そうだよね?』

「――――」

『今回は間違いなく、キミの負け。今の一撃、溜めきってないキミのそれじゃあクロちゃんの槍の投擲で弾かれて終わりだったから。これ、両方受けてみた感想なんだけど反論ある?』


 レライエは返さない。自身が一番わかっていたのだろう、それを確認してネビロスが黒百合を改めて見上げた。


『ごめんね、今回は間違いなくキミらの勝ちってことで第三階層はもう自由に抜けていいよ。だから、アレは見逃してくんない?』

「……いい加減、こっちが選んだ振りさせる一択問題止めてくれない?」

『アッハイ』


 黒百合の無表情な中で、その瞳に込められた怒りを察したネビロスが真声で頷く。『妹』の頑張りを無駄にしてしまった、そのことへの()()()()()()怒りなのだが、そこまでは読めないネビロスは自分へ向けられたものと勘違いしたのだ。


『アレ、逃してくれないなら相手をするよ。私、多分今のキミたちなら三分かからず蹂躙できちゃうから退かせてくれると助かる』


 これはただの事実だ。レライエ相手に《超過英雄譚》は使い切っている――余力は、完全に残っていない。ネビロスがレライエと同格ならば、抵抗らしい抵抗もできないだろう。

 周囲の視線が、黒百合に集まる。だから、即座に黒百合は答えた。


「――わかった」

『うん、ごめんね』


 ただでさえ勝負に水を差した自覚があるのだろう、謝罪してからネビロスがよろめくレライエを支える。レライエはひとつの黒い箱を、黒百合へと投げつけた。それを受け止めた黒百合に、レライエは吐き捨てた。


「渡しておけ。次は勝つ」

「……早く行け」


 黒百合とレライエは、吐き捨て合う。ネビロスがレライエを抱えて消えた瞬間、ガン! と鈍い音が響いた。黒百合が、大鎧の右腕を苛立ちを込めて殴った音だ。


 ――邪魔が入ったかどうかなど、関係ない。邪魔ごと粉砕し、倒せば良かっただけのこと。それができなかった、ここまでのお膳立てをしてもらってなお届かなかった自身の不甲斐なさこそ、黒百合は――坂野九郎(さかの・くろう)は許せなかった。


(次は勝つ? ――こっちの台詞だ)


 こんな失態、二度はしない。そう強く、黒百合は噛み締めた。


   †  †  †

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹の意地を見せてくれたからには兄には兄の矜持が。オトコノコにだって意地ってもんがあるわけですよね、うん まあビジュアルはちょっと美少女ですが些細な問題ですわね 次のレイドとか口走ってましたし…
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