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105話 三匹が行く2

ハイファンタジージャンルで『どうも! こちらメイド・サーヴァント派遣業ヴァーラスキャールヴにございます!~仕事人間な冒険者の元へ、メイドになったヴァルキリアが押しかけるとこうなるらしい~』というお話を始めてみました。基本、こちら優先ですので不定期になるかと思いますが、そちらもぜひお楽しみくださいませ。


   †  †  †


 積層遺跡都市ラーウムの地上部分、そこには遺跡へと挑む人々の街がある。今は、そこはひとつの噂で持ち切りとなっていた。


「ネビロス?」

「そうでござる、魔王ベリアルに匹敵するアークデーモンとのことでござるが……」


 酒場“灰色(はいいろ)(つき)”亭で、アーロンとサイゾウはエールを傾けながら噂について語っていた。


「なんでも第一階層で未発見の領域が見つかって、その最奥の扉を守っていたアークデーモンがネビロスらしかったのでござる」

「まさか、まだそんな場所が残っていたとはな」


 虱潰しに探した、そのはずであった。アーロンとしてはまだ探しきれていない場所があった方が驚きだ。


「いや、仕方ないでござるよ。多分、見つかってもたどり着くのは難しいと思うでござるよ」

「あん? なんでまた」

「いや、この配信動画見たらわかるでござる」


 サイゾウが開いたウィンドウで、問題の配信動画が開く。


『くっそ、難しいな!』

『もうちょい、もうちょい、頑張れ頑張れ!』


 光の文字で描かれた(サークル)、そこでひとりのPCプレイヤーキャラクターが熱唱していた。その周囲では、仲間と思われるPCたちが必死に応援している姿が映っていた。


「歌ってみた? いや、それにしては妙だな……」

「見ていれば、わかるでござるよ」


 そのうち、動画の中で一曲歌え終わる。ピカピカと光る円――やがて、ひとつの文字列が歌っていたPCの頭上に踊った。


《――87POINT――残念っ!》

『ぐがー、惜しい!』

『絶対これ、芸術点がネックやろ!』

『もう一回! もう一回!』


 あ、とアーロンはそれを見て、サイゾウの言葉の意味を理解した。


「もしかして、カラオケの採点で開くのか!?」

「そういうことでござる」


 実際、かなり歌の上手いPC――動画配信者本人らしい――でも一〇曲ほどかかって九〇点ギリギリで通過している。アーロンは酒の席で歌うぐらいがせいぜいだし、サイゾウも歌は門外漢だ。


「又左殿、どうなんでござろうなぁ」

「アレで卒なくなんでもこなすが……さて、どうだろうなぁ」


 彼らの目的は、パイモンの恋愛指南書だ。問題はこの目的の物が積層遺跡のどこかにあるのはわかっていても、どこにあるかわからないことだ。


「これでネビロスが守っていた扉の向こうにありました、はちょっとなぁ」

「これ、一発でクリアできる人に心当たりはあるでござるが……」

「あぁ」


 ふたりの脳裏に浮かぶのは、ディアナ・フォーチュンというバーチャルアイドルの顔だ。彼女なら、一発でクリアするだろう。歌関係ではあるし。ちょっと挑戦を頼めばやってくれそうではあるが――そうなると、その先のネビロス戦も一緒に同行するのは目に見えている。

 もしもそこでパイモンの恋愛指南書を見つけてしまった場合――想像して、ふたりは身悶えた。


「あかん、絶対頼めないわ……」

「そうでござるなぁ。そうなると、他に歌が上手そうでPCに頼むか――」


 こういうギミックがある限り、なにかしら解決策があるはずだ。でなければ、へたをすると誰にもクリアできない死にイベントになりかねないからだ。


「今、考察班はこのギミック解決のためのミニシナリオがないか探索中でござる」

「なら、それが見つかるまで先に進むのが無難かもなぁ」


 サイゾウとアーロンがそう相談しているところへ、堤又左衛門(つつみ・またざえもん)こと又左が遅れてやって来た。三階攻略挑戦のために消耗品を補充、準備を整えて来たのだ。


「お、なにかあったのか? 旦那方」

「――又左殿、歌は得意でござるか?」

「……はい?」


 ――結論から言うと、三人は最初の予定通り第三層に挑むこととなった。


   †  †  †


 積層遺跡は、全体で五層あるとされていた。なぜそれがわかっているかと言えば、伝承でエルダーレイスにされた王様が、最下層とされる第五層にいるとされているからだ。

 また、積層遺跡には各所に転移可能な(ポータル)が設定されている。地上部分の広場にある門から、登録してある遺跡内の門へ飛べるショートカットが可能なのである。 そして、現在三人はもっとも深い門へ登録している数少ないトップランナーだった。


「階層の門番が、イクスプロイット・エネミーでないのが救いだね」


 第一層の門番はレッサーデーモン・グラップラーと呼ばれる六本腕のデーモンだった。六本の腕で自在に拳打を繰り出してくるデーモンで、最初アーロンと又左のふたりでクリアしようとした時は、左右から挟撃して受ける攻撃の手数を減らして倒した。

 門番は一度倒してしまえば、門に登録さえしてしまえば門の先に転移できるようになるので何度も倒す必要はなくなる仕様だ。


「イクスプロイット・エネミーだと、レイド戦必至にござるからなぁ」


 その後、サイゾウが加わって二度目の挑戦は心得たもので、ふたりの挟撃で身動きを封じたところをサイゾウの遠距離攻撃で沈めてことなきを得た。なるほど、パーティ単位で倒し方に色々と工夫ができそうだな、と思ったものだった。


「次はあいつらしいぜ、旦那方」」


 又左の視線の先、門の前にいたのは三本腕のデーモンだった。左右の腕で巨大ショーテルを二本、一本の腕で大盾を構えたデーモン・シールダーである。大盾を前に構え、歪曲した刃で盾を迂回して攻撃してくるタイプだろう。

 三人がフロアに入ると、デーモン・シールダーは眼前に大盾を構えて近づいてきた。


「俺が正面に立つか、サイゾウ――」

「了解にござる」


 アーロンが大剣を抜き、前に出る。二メートルの又左でさえ腰当たりまでにしかならないほどの巨体だ――文字通り鋼鉄の壁が迫ってくるようなものだった。


『ガア!!』


 ドン! と衝撃波を伴うデーモン・シールダーの《シールドバッシュ》。それをアーロンは大剣の《ウエポンガード》で受け止める。ズン……! と身体の芯まで届く衝撃に、アーロンは体勢を崩した。


「チッ!」


 そこに二本の巨大ショーテルによる切っ先が迫る。その切っ先を朱槍の刺突で強引に弾いたのは又左だ。その隙に体勢を立て直し、アーロンは構え直す。


「《シールドバッシュ》で相手をノックバックさせて体勢を崩してショーテルで攻撃って、基本に忠実なヤツだな」

「普通、ショーテル一本と大盾だと思うんだがな!」


 デーモン種族はインプから始まり、レッサーデーモン、デーモン、グレーターデーモン、アークデーモンの順で格が上がっていく。格が上がれば、基本的にサイズが大きくなる。加えて、人型が多いというだけで平然と手足が増えるし必要とあれば戦闘状況の変化に対応して変身までやってのける――デーモンとは、恐るべき戦闘種族なのだ。


「前は硬いようでござるが――!」


 ガシャン! とサイゾウは折りたたみ式の巨大手裏剣を展開、投擲する。なぜ、折りたたみ式なのか? それは手裏剣にした時格好いいからである――そう夜刀(やと)に説明して作ってもらった時は、大いに笑われたものだ。

 しかし、この格好いいこそがモチベーションを跳ね上げさせるのだ。唸りを上げる巨大手裏剣、それが大きな弧を描く軌道をもってデーモン・シールダーの背中へ突き刺さる!


「《超過英雄譚(エクシード・サーガ)英雄譚の一撃(サーガ・ストライク)》」


 ドォ! と背中に走る衝撃と激痛に、咄嗟にデーモン・シールダーは背後へ大盾を向ける――もちろん、そこには誰もいない。


「「《超過英雄譚:――」」


 その刹那、アーロンと又左が動く。横へ回り込んでアーロンは大剣を振り上げ、又左は引き絞った矢のように真っ直ぐに渾身の刺突を繰り出した。


「「――英雄譚の一撃》!!」」


 ドォ! と大盾を握っていた三本目の腕をアーロンの大剣は切り飛ばし、又左の刺突はデーモン・シールダーの背を刺し貫く! 宙を舞う大盾が、ガウンガウン! と落下してたわむ金属音を響かせた。


『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「盾のないシールダーなんざ、もう怖くないっての」


 両腕のショーテル二本を振り回す、盾無しのデーモン・シールダーへアーロンが吐き捨てる。この時点で完全に体勢は決していた――三人は囲むようにデーモン・シールダーの周囲を囲むと、呼吸のあったコンビネーションで襲いかかった。


   †  †  †


 門に登録し、三人はすぐに地上の広場へ戻ってくる。はぁ、と吐息をこぼし、広場の隅で又左が石畳の上で胡座をかいた。


HP(ヒット・ポイント)が、半分以下になったら……背中側にも腕が生えて、盾が増えるっておかしくね……っ」

「いやぁ、打てる時にぶっぱして……正解で、ござったな……」


 前方向の大盾を装備した腕を落としておいて良かった、でないと前後を大盾で固められて死角を失ったデーモン・シールダーとやらされるところだった。


「……うし、考察サイトに情報上げといたわー」

「この疲労状態で探索は自殺行為でござるな……今日は解散しとくでござるか……」


 アーロンが情報を上げ終わったのを待って、サイゾウがそう提案した時だ。


「すみません」

「ん?」


 声をかけられ、又左が見上げる。そこにいたのは、焦げ茶色のフードで全身をすっぽりと覆い隠した何者かだった。


「お三方は、デーモン・シールダーを倒された……んですよね?」

「それが、なんだ?」


 又左の表情に浮かぶのは、あからさま警戒だ。今戻ってきて、情報を上げたばかりだ。それでこちらがデーモン・シールダーを倒したことを知って声をかけてくるのは、さすがに妙だ。

 それに――アーロンは、サイゾウに視線を向けるとサイゾウも密かにコクリと頷いた。気づいている、という合図だ。


 声をかけてきた何者か、それがPCではなくNPCノンプレイヤーキャラクターだと察したのだ。


「実はお三方の実力を見込んで、ご相談があります。力を貸してくださいませんか?」


《――ミニシナリオ“エウリュディケの歌声”を始めますか? Y/N》


   †  †  †

三人とも、結構優秀なのです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日の更新ありがとうございます [気になる点] ケルベロスがマジで出てきそうな名前が出てきましたよ? [一言] 殿様、アーロン 千石、又左 たこ、サイゾウ かな?
[一言] なんかフラグ踏んだか?あるとしたら 「マップで初めてデーモンシールダーを倒した」がフラグとは思えんから「初めてデーモンシールダーを特定の手順で倒した」とか「指定の住人の前で特定条件を満たして…
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