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104話 三匹が行く1

ハイファンタジージャンルで『どうも! こちらメイド・サーヴァント派遣業ヴァーラスキャールヴにございます!~仕事人間な冒険者の元へ、メイドになったヴァルキリアが押しかけるとこうなるらしい~』というお話を始めてみました。基本、こちら優先ですので不定期になるかと思いますが、そちらもぜひお楽しみくださいませ。

   †  †  †


 中央大陸セントラル・グラウンドの北方に積層遺跡都市ラーウムは存在する。一〇〇〇年前に存在したというラーウム王国の王都跡であり、地下へ何層もの遺跡が積み重なってできあがった積層都市として知られていた。


「なんでも、ラーウム王国最後の王様が序列第四位魔王ベリアルとなんかの契約を結んだ結果、一夜にして滅んだらしいぞ」

「よくある昔話でござるなぁ」


 積層遺跡都市の設定を要約したアーロンに、サイゾウはしみじみと呟いた。それに堤又左衛門(つつみ・またざえもん)、又左は言う。


「ま、重要なのは今、実際にデーモン共の巣窟としてここにあるってこったろ」

「そりゃあまぁ、そうだがね」


 又左の言葉に、アーロンも肩をすくめた。そんなふたりのやり取りに、サイゾウは改めて問う。


「で? あの話は本当なのでござるか?」


   †  †  †


 サイゾウが『ちょっと聖女様に謁見してきてご尊顔を拝んでくるでござる!』と神聖都市アルバへと向かった頃の話だ。


 享楽都市オーレウムの裏路地、ゴロツキどもが集う酒場“錆びた盃”亭で又左とアーロンは向かい合っていた。


「……パイモンの恋愛指南書?」

「ああ、そうだ」


 アーロンの問いかけに、又左が手酌でワインを自分のワイングラスに注ぎながら頷いた。


「ラーウム王国最後の王様が序列第四位魔王ベリアルに願った二番目の願い、この世のあらゆる美女を手に入れたいって願いを聞いてベリアルが出した、魔神パイモンがこの世のあらゆる女から好感を得られるように必要な情報が書かれた魔導書ってのがあるんだと。それがパイモンの恋愛指南書って魔導書らしい」

「……え? トンチ?」


 実際、ラーウム王国最後の王様はベリアルに四つの願いをしたという。ひとつ目は莫大な富、ふたつ目がこの世のあらゆる美女、三つ目が不老不死――そして、今は誰も伝えていない四つ目の願いの結果でラーウム王国は一夜にして滅んだという。

 ベリアルは、そのすべての願いを叶えたのだという。ただし、すべて遠回しに、だ。


「ひとつ目は伝説の古竜が守る財宝の在り処。ふたつ目がパイモンの恋愛指南書。三つ目で積層遺跡都市ラーウム最下層に潜むボスエルダーレイスというアンデッドにされた訳だ」

「……四つ目、よく願ったな? 王様」

「なにか、一発逆転を狙ったんじゃないか?」


 又左は興味なさそうに答える。それよりも重要なのは、パイモンの恋愛指南書だ。


「これ、装飾品(アクセサリー)として装備すると()()()()()()ター()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい」

「女性NPCノンプレイヤーキャラクターの好感度管理用のアイテムか」


 ギャルゲーかよ、とアーロンがウイスキーをあおったその時だ。又左は、どこか悟りを開いた上で真顔で告げる。


「いや、これがさ。PCプレイヤーキャラクターも対象らしいんだわ」

「はぃ――!?」


 ゲホゲホッ、とむせた。いや、NPC相手ならまだわかる。相手はどんなに高性能でもAIだ。そのAIに適した選択肢というのをシステム側なら掲示することは充分に可能だろう。

 しかし、PCは違う。中身にリアルな人間がいるのだ。向こうに中の人が居るPCにも効果がある恋愛指南書とはなんなのか。それこそ本物の魔法でもないと不可能だと思えた。


大嶽丸(おおたけまる)の旦那のところで護法に聞いたんだけどさ」


 護法曰く、『確か、人の思考を読み取りリアルタイムで好感度を上げる選択肢を用意してくれると聞いたことがありますね……え? 英雄相手にも効くか? 効くらしいですよ。思考入力? に介入? した上でのもの、らしいですから――』とのことらしい。


「……マジか。え? その手のってVR法で違法じゃないの?」

「チッチッチ、アーロンの旦那。違法なのは個人情報の取得と()()、記録されてないなら空中セーフなんだぜ? 知ってた?」

「ネタアイテムのために、そこまでやんのかよ」


 怖いわ、アルゲバル・ゲームス――アーロンは呆れ返る。地味に中の人が法律関係の仕事についている又左だからこそ、こんな戯言を信じられたのはなんの皮肉か。むしろ又左はアルゲバル・ゲームズの人間がこんな法律の穴を知っていたことに驚いたぐらいだった。

 だが、アーロンには又左の言いたいことはわかった。そう、痛いほどわかる。


「ようは、それを手に入れようってことだな?」

「おう。俺やアーロンの旦那なら、少なくとも悪用()しねぇ。サイゾウの旦那に声をかけようと思ったら、聖女の方に行っちまってたからさ。そっちが終わってから声をかけようぜ」


 確かに、こんなアイテムもしも悪用したら大変なことになる。わなわなと身体を義憤に震わせて、ふたりは言った。


「そんなきけんなあいてむをあくようしようというはーれむやろうがてにいれたらたいへんだー、それはさけなくてはー!」

「んだんだ、そのけっか、おれたちがちょっとおんけいをえてもごさってもんだぜ、だんなー!」


 棒読みになりながら、アーロンと又左はガッシをテーブルの上で手を握り合う。そこには確かに、熱い友情があった……かもしれない。


   †  †  †


 ただ、ひとつ勘違いしてほしくないことがある――別に、彼らはモテたい訳ではない、ということを。


「いや、もうさ。正直なとこ? モテようとは思わないけど、せめて好感度下げる選択肢は避けたくね?」

「わかりみにござる」


 又左の言葉に、サイゾウがうんうんと頷いた。彼らは自分の人生を振り返る。人生の要所要所、せめて女性に悪感情を与えない選択ができていたら……そう思うことが、一回や二回はあるわけで。人類の男女の比率が半々である限り、この問題は最低でも人生の半分程度には影響を与えてきたということになる。


「つかさ、ゲームの中でまで女性関係持ち込みたいか? お前ら」


 アーロンの言葉に、サイゾウと又左は揃って首を左右に振る。この三匹の顔にあるもの、それは周囲の人間がドン引くまでの真顔だった。

 そう、彼らは男であると同時に――否、男である()にゲーマーなのである。わざわざゲーム内で恋人を作ってイチャイチャしたいのか? 答えはNO、NOである――絶対面倒くさいことになる、それを理解できる程度には現実が見えていた。

 だが、好感度を上げるのはいざ知らず、下げる場合は別ッ! まったくの別物なのである。


「ようは好感度って人間関係のことだもんな。ゲームくらい、人間関係で頭悩ませたくないもんなぁ」

「そもそも、これだって記述トリックでござる。好感度上がるけど、堕とせるって言ってないでござるし?」


 そう、ベリアルはあくまで遠回しに叶えたのだ。だから、これ使って頑張れよ、以上の意味のないジョークアイテム以外に他ならないのだ。

 ……ここまで読めて、彼らがジョークアイテムを欲する理由。それはやはり、オンラインゲームにおいて人間関係がどれだけ重要かゲーマーとして知っているからに他ならないのである。

 悲しいかな、彼らは夢を見るのには歳を重ねすぎた。今欲しいもの? 心穏やかにすごせるゲーム環境に決まっているではないか、いやマジで。


「フっ、ドルオタたるもの推しても触れるな、だからな」

「俺ぁ、ドルオタじゃねぇけど今回ばっかは同意すんぜ」

「――後、これ知ったらNPCの手にだけは渡せないわ。気分が悪い」

「「んだんだ」」


 結果として、彼らはおこぼれは欲してもパイモンの恋愛指南書を悪用しようという考えは一切なかった。これを見たら、序列第四位魔王ベリアルはどんな反応をするだろうか? 笑うか嘆くかドン引くか――いずれにせよ、感動することだろう。感情が動けば、正の方向でも負の方向でも感動だからね。


 かくして、ゲームバカ三匹の積層遺跡都市ラーウムの攻略は順調に進んでいた。


   †  †  †

ゲームをやる時はね、静かに心穏やかに……植物の心のようにやりたいんじゃよ……。



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― 新着の感想 ―
[一言] パイモンの恋愛指南書……それってコミュ障向けトークデッキセットなのでは……
[一言] クロに使ったらどうなるかよりクロが使って目が死ぬ所を見たいと思ってしまった…
[一言] わかりみが深い 可もなく不可もなくなほどほどの位置の人間関係で居たい
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