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11話 第一回突発トレント乱獲大会

ハック&スラッシュはガチャとよく似ている(名作タイトル風に)

 丘陵部にあるセント・アンジェリーナの周囲は、バーラム大森林と呼ばれる森林地帯によって覆われていた。いくつかの街道が通っておりそこは安全地帯だが、一歩森に踏み込んでしまえばさまざまなエネミーに遭遇するフィールドとなっている。


「中心の空洞にセント・アンジェリーナがあってぐるりと森が囲んでる感じ。アレだね、上から見たらいくつかに切り分けられたドーナッツに見えるかな」

■お、わかりやすい

■シロちゃん、そういう説明上手いな

「あはは、ありがと」


 流れる視聴者の発言に、壬生白百合(みぶ・しろゆり)が微笑んだ。その間にも白百合の手は止まっていない。放たれる矢は、次々に襲い掛かってくるエネミー、人のシルエットをした樹木を刺し貫いていく。


「いっくぞー!!」


 矢による先制でニ〇体を超えるトレントの群れが動きを鈍らせると、エレイン・ロセッティが金色のツインテールを跳ねさせて突撃した。その手に握られるのは、飾り気のないバスタードソードだ。まずは大上段からの縦斬り、ズドン! と豪快に一体のトレントが左右に両断されるとそこから踏み込み、切っ先と自身を跳ねさせて下段から斬り上げる。


■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

「よーし! ガンガンいくぞー! お前たちー!」

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!

■エーレ! エーレ! エーレ!


 湧き上がるエーレ! コールにテンションを上げて、エレインは動きを加速させていく。トレントの群れ、その中心を跳ねるような動きでエレインは切り開いていった。


■エレちゃん、テンション上がると手がつけられないタイプかー

■なんなんだろうな、あの無駄のない無駄な動き……

■跳ねるって動きが攻撃モーションに組み込まれてんだな、あれ。剣の使い方は独特に見えて、しっかりと剣先の遠心力で斬ってるあたり、正統な使い方してんだよなぁ


 配信視聴者たちのやり取りがほのぼのとしているのは、エレインと白百合の安定感に加え万全のフォローはあるからだ。


「ディアナ」

「ええ」


 壬生黒百合(みぶ・くろゆり)に名を呼ばれ、ディアナ・フォーチュンは杖を構える。ヴヴヴヴヴン! と周囲に浮かぶのは五本の魔力の矢だ。


「マナ・ボルト!」


 ガガガガガン! と縦横無尽に不規則な動きで放たれたディアナのマナ・ボルトがエレインの横から回り込もうとしていたトレントたちを貫き、砕く! それでもなお生き延びたトレントへ、黒百合が右手の刀で斬り払い左の手斧を投げつけた。

 ズガン! という快音を立てて手斧がトレントに突き刺さり、吹き飛ばす。地面に転がって動かなくなったトレントに素早く駆け寄ると、黒百合は手斧を逆手で引き抜き回収した。


■……斧の扱い上手いな、クロちゃん

「斧の扱いは海賊仕込み」

■レッオーか!? やっぱ、血で血を洗ったあの海の出身か!?


 黒百合は、それには答えない。アイドルは狼の毛皮を着てバーサーカー化、二時間ぶっ続けで世界蛇(ヨルムンガルド)の頭にリズムゲーのバチよろしく両手の手斧を叩き込みまくったりしないのだ……暴れ回る世界蛇での世界一周は、結構楽しかったけど。


 白百合の弓による先制と牽制。エレインの突撃。ディアナの魔法による範囲攻撃と黒百合のフォロー。四人パーティの安定した狩り――そう、これはもはや戦いとは呼べない――は、本日既に二〇〇体を超えるトレントを倒すに至っていた。


「……改めて、第一回突発トレント乱獲大会の趣旨について説明する」


■第一回……だと……? まさか、第二第三が……!?

■止めたげてよぉ、トレント絶滅しちゃうぅ

「バーラム大森林ではトレントの再設置(リスポーン)は一〇分単位」

■あ、駆逐お願いしていいッスか……(震え声)

■ソロで森に挑んだら範囲攻撃なきゃ詰むじゃねぇか!

■なんで始まりの街の周辺にそういう悪意ポイント作るかなぁ!? アルゲバル・ゲームスッ!


 高速の掌返しを見せる視聴者たちに、黒百合こと坂野九郎(さかの・くろう)も「せやね」と言うしかない。

 トレントが出現するのは森に入ってしばらくしてからだからだ。バーラム大森林の()()部分は始まりの街近くのフィールドということもあって敵の強さも手頃で、稼ぎも悪くない。だから、「もう少しもう少し」と『欲』を見せて踏み込んでしまったPCプレイヤーキャラクターへのトラップと言える。


「今回、目的のドロップ品はトレントの極上の枝とトレントの極上の種。枝の方は杖の素材に、種の方は装飾品(アクセサリー)の素材になる」


 トレントの極上の枝を用いた杖は魔法攻撃力が高く、種の方の装飾品はトレント製の杖と組み合わせるとSP消費量が減るというシナジー効果がある。どちらもセント・アンジェリーナ周辺で手に入る魔法系の武器と装飾品としては指折りの性能だ。


■でも、トレントって火属性が弱点じゃなかったっけ? ファイアー・ボールの魔法があれば……

「倒すだけならいいけど、今回の趣旨的にNG」


 すん……と黒百合の瞳から光が消える。勘のいい一部の視聴者は、それだけで察してくれた。


■もう、試したんやなって……

「……火属性を、使うとね……ドロップする、素材のランクがね……一段階、下がるみたい……」

■え? 極上の枝と極上の種ってドロップ率いくつよ?

「多分、一%……かな……」


 フルフル……とハイライトの消えた目で、黒百合が震える。ハック&スラッシュ系のRPGをやったことのある者なら、その想いは痛いほどよくわかった。


■アルゲバル・ゲームスには血も涙もねぇのかよ!?

■極上の枝と極上の種が最高ランクなら、火属性使ったら絶対にドロップしないのか……鬼仕様だな

■ボクの胸でお泣き(ガバッ!)

■運営さん、こいつです


“黒狼”:『いや、焼け焦げたトレントの枝ってドロップ品が出た時に気づくべきだった……アルゲバル・ゲームスはそんな楽は許してくれない……』

“白狼”:『ま、三回目で気づいてよかったと思おうよ、クロ』

“銀魔”:『で、ですよ……クロちゃんが最初に気づいてくれたんだし……』


 秘匿回線でそんな会話をしつつ、ディアナが黒百合の頭を撫でて慰めてくれる。頭に触れられるなんていつ以来か……黒百合の中で九郎も思わず癒やされてしまった。


■てぇてぇ……

■見ろ、クロちゃんの目に光が……!

■これがお姉さんの包容力!?

■おい、さっきのバカ。慰めるって言うのはああやるんだ、硬い胸でやるもんじゃねぇ

■一応、ボクはDはあるんだけど……

■――すんません、すんません!

■誰がボクっ娘だって思うんだよぉ!


 視聴者たちが妙な方向で盛り上がっている間に、エレインが言った。


「おーい、次が来るぞー!」

「……とにかく、ディアナが極上の枝と極上の種をひとつずつ手に入れるまで続ける」


 刀と手斧を手に取って、黒百合は身構える。あ、とそこで思い出したように黒百合は手斧を掲げて言った。


「セント・アンジェリーナの武器屋で売っている手斧には、アーツ《伐採》がある。攻撃時に使用すると植物系エネミーの防御を無視する効果がある、オススメ」

■でも、お高いんでしょう?

「たったの一〇〇〇サディール。一回トレントの群れを倒して、ドロップ品を売ったら回収できる」

■……なにか、深夜の通販番組みたいなノリだな

■二〇体を手斧で倒せたら苦労しないって!


   †  †  †


「あ、出た! 極上の種」


 ディアナがそう歓声を上げると、コメントがドっと増えた。


■88888888888888

■8888888888888888888888888888888

■8888888888888888888888888

■やっとかー、四〇〇体は倒したか?

■88888888888888888888888888888

■88888888888888888888

■8888888888888888888888888888888

■ディアナんに極上の枝が二連続で出た時はいやな笑い出たわ……

■狙った特定のドロップだけでない、ハクスラあるあるだよね

■8888888888888888888888888888888

■8888888888888888888888888

■88888888888888


 一%は一%ではない。出れば一〇〇%であり、出なければ〇%である。

 ハクスラ道とはシグルイなり――そんな格言がニ一世紀初頭から脈々と受け継がれた理由を多くの者が知った日であった。

安西P「ちっ、思ったより早く気づいたか」

部下G「いつか刺されますよ?」


【スカーレッドオーシャン よもやま話】

 神々と一緒に戦うアインヘリアルルートでは、ヨルムンガルドと呼ばれる世界蛇と戦うはめになる。世界蛇の弱点である頭のあるポイントに立って武器を振り下ろすと、ヨルムンガルトは暴れだして舞台であるミッドガルド中を動き出す。

 これはレッオー界隈では「ワールドツアー」と呼ばれ、武器の左右でヨルムンガルドの進行方向をある程度コントロールできるため世界一周も可能だった。

 なお、レッオー界一の悪役ロキの本陣に突っ込ませることも可能で、それは通称「お礼参り」と呼ばれたという。


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