100話 朝と夜の境界線上2
ハイファンタジージャンルで『どうも! こちらメイド・サーヴァント派遣業ヴァーラスキャールヴにございます!~仕事人間な冒険者の元へ、メイドになったヴァルキリアが押しかけるとこうなるらしい~』というお話を始めてみました。基本、こちら優先ですので不定期になるかと思いますが、そちらもぜひお楽しみくださいませ。
† † †
“忍々”『あ。黒幕見つけたでござるよ? もう誰かに無力化されてたでござる』
“黒狼”『お手柄。ディアナとシロのところに連れて行っといて』
“忍々”『心得てござるー』
† † †
聖務騎士団副団長アーデルハイド・フライホルツは、全力疾走で聖女の間へと向かっていた。マントを脱ぎ、鎧さえ脱いで――少しでも早くエミーリアの元へ辿り着こうと必死に。
「――ん?」
聖女の間の目と鼻の先、そこでアーデルハートは見た。ひとりの騎士と高位吸血鬼が対峙している光景を。
「ッ!? ヴラド! まさか、もうここまで来ていたのか!?」
焦ったアーデルハイドが、咄嗟に純白の長剣を鞘から抜いて構える。それを制したのは、なぜか英雄であるはずの騎士だった。
「待ちたまえ。彼はもう聖女に危害を加えるつもりはないよ」
「……は? なにを言って――」
「あれ? アーデルハイド?」
ガチャリ、と廊下の声に気づいたエレイン・ロセッティが聖女の間から顔を出す。揺れるツインテール、それを見てアーデルハイドは安堵の笑みを見せた。
「エレイン殿。ならば、聖女様はご無事なのですね」
「うん! 大丈夫だよー。騎士さんもありがとう」
「いやいや、ご婦人のためとあればこの程度朝飯前だとも」
背後を見せないために、ここで初めて会いました、というように騎士と騎士は笑い合う。
■お、間に合った?
■いや、待ってたみたいだぞ? ヴラドのヤツ
■律儀だなぁ、おい……
■あの騎士、十三番目の騎士だろ? あの蚩尤を抑え込む化け物やぞ? 偶然とは言えよくいてくれたわ……
「うん、聖女様も無事みたい」
ガラっと窓を外側から開けて、黒百合が姿を現した。手を振るエレインに、騎士の視線を気にしながら小さく手を振り返して廊下へ降り立った。
「ヴラド、まだいたの?」
「キミを待っていたようだよ、彼は」
「そ、それは……律儀」
思わず、瞳の光が消えた黒百合が視線を泳がす。それに、エレインが小首を傾げる。
「ん? クロ、どうしたの?」
■いやー、サイゾウさんが発見したコルネリウス枢機卿――あ、黒幕ね? クロちゃんがそうと知らずに処理してたんだと
■もう切り抜きが出回ってるわ、これはひどい
■あはははははははははははは! 顔ぐらい、確認しなさいよ! さっきから切り抜きのリピート止まらないわ!
■姉さん、メ!
■黒幕はどこかで顔出ししておくべきだわ、世のフィクションってよくできてるわー
コホン、と黒百合は咳払いをひとつ。それにコメントが、ピタリと止んだ。訓練された視聴者たちが、静聴の構えを取ったのだ。
「待っていた、ということは――やっぱり」
「ああ」
黒いローブを脱ぎ捨て、ヴラドは白い手袋も脱ぐ。そして、その手袋を黒百合へと叩きつけ告げた。
「お前に、決闘を申し込む」
† † †
『ヴォウ』
「ん? どうした?」
地に伏した二体を気遣っていたトライホーンが、不意に上を見上げるのに御者も上を見上げた。聖女の間がある窓から、漆黒の船が九つ飛び立ったのだ。その船は、音もなく静かに聖務騎士団の訓練場へと降り立った。
「どうぞ、お嬢さん」
「い、生きた心地がしませんね……」
「そうですか? 私は楽しかったですよ」
騎士の手を借りて、空飛ぶ船を楽しんだ聖女エミーリアと青い表情のお付きの神官サンドラが地面に降りる。アーデルハイドとエレインも同じく訓練場へと自らの足で立った。
「――決闘方法は?」
「そうだな。互いにHPが〇になったら、でどうだ?」
「わかった」
黒百合とヴラドは、闘技場の中心へと共に歩いていく。決闘、と言ってもふたりは対等ではない。だからこその、条件の決定だ。
この条件は、ある意味“黒面蒼毛九尾の魔狼”維持のHP消費がある黒百合の方が不利に思える。だが、実際問題としてこの神聖都市アルバの結界によってスリップダメージを負い続けているのは、ヴラドも同じだった――だから、黒百合はその条件をヴラドが出した時点で自分の《超過英雄譚》一発分の残量ぐらいしかないのだろうと察することができた。
■え? なんで急に決闘?
■あるんだよ、色々と、男の子には
■クロちゃん女の子な、男前だけど
■茶番のお恵みで助けられないってことだろうよ
■区切りってもんは、必要だわな……くっそ、なんだよ、あのイケメン吸血鬼、魂もイケメンかよ
ザ、と申し合わせたようにふたりが向かい合う。その時だ、エレインが黒百合へと駆け寄って来たのは。
「エレイン?」
「クロ、手首出して」
「……こう?」
黒百合が右手首を差し出すと、エレインは自分のハンカチをその手首にしっかりと巻いた。そのままジッと黒百合を見詰め、エレインは微笑んだ。
「あなたの勝利を信じています」
「……ん」
それはひとつの風習だ。かつて騎士が世にいた時代、騎士は愛を捧げたご婦人の持ち物を身に着け、戦いに赴いたという――それは騎士にとってお守りであると同時に、必ず勝って戻るというご婦人への誓いでもある。
“騎士”『メアリー、メアリー! なにか、なにか! ウチの孫娘がさぁ!?』
“冥土”『はいはい。余計な口出しはお嬢様に嫌われますよ?』
“騎士”『辛辣ぅ、うちのメイドの忠誠心が低すぎる件について!』
“冥土”『好感度不足です、出直してください』
威風堂々とその決闘を眺める騎士の中でそんな主従漫才が繰り広げられ、観客たちが集まってくる。コルネリウス枢機卿が捕縛されたことにより、聖務騎士団団長のジークハルト・シュトラウスからの正統な命令で降伏したからだ。
“白狼”『……なるほど』
“黒狼”『はい? なるほどって――』
“銀魔”『なるほどなるほど』
“金兎”『あー! みんな真似っ子!?』
次々とやってきてディアナ・フォーチュンが左手首にハンカチを、壬生白百合が腰の百合花にリボンを、吾妻静が腰に扇子を仕込み、モナルダがSDモナルダを頭に乗せ、こっそりとカラドックが小狐丸の鞘にハンカチを巻いていった。
「…………」
「終わったか?」
「……みたい」
■……フルアーマークロちゃん?
■ぶはっ!
■どうしてこうなった? どうしてこうなった!?
■止めろよぉ、もう今夜の腹筋のHPは〇よぉ!?
■心配するな、腹筋は蘇るさ、何度でもな!
■蘇らないといけない時点でおかしいんだよなぁ!
■今夜はシリアスさん、有給取ってるから
■全部、全部、黒幕さんが悪いんや!
■いや、アレを黒幕さんのせいにするのは無理あるわぁ……
ヴラドは胸元から、一本のリボンを取り出す。それは劣化防止の魔法が施された、かつての主から賜った持ち物だ。それを右手首に巻き、ヴラドは告げた。
「こちらはただひとつの忠誠だが、重みで負けるつもりない」
「あ、うん」
「アビリティ《血装外骨格》」
ぞわり、とそこに血の赤による騎士が生まれる――それを見て、黒百合は思い出す。
† † †
『……あなた、なんであんな不格好な大鎧を使ってるんですの?』
ある日、ふとエリザがそう言った。大鎧、五本の尾を使って生み出す、全長三メートルの大鎧――あれは、元々大嶽丸との殴り合いを想定した重装甲パワー重視の形態だ。
『はぁ、かの物理最強とねぇ。でも、相手が機動力重視だと、もっと速度に特化した方がいいですわよ? 例えば――』
ゾワリ、とエリザの影から血が溢れ出し、全身を覆う。その血は身体のラインをしっかりと顕にする全身鎧へと変わった。加えて、ハイヒールと呼ぶにも先が尖った二本の足が特徴か。
『これはアビリティ《血装外骨格》。吸血鬼でも“貴族”にだけ伝わる闘法ですわ』
『確かに動きやすそうだけど……』
『この状態では、称号《英雄》以上でないと通常攻撃ではダメージを与えられませんわ。ま、もうひとつブラックボックス製の武器やアーツなら、通常攻撃も通るようになりますけど』
『防御力もある、か。それは確かに強い』
エリザの説明に、黒百合は真剣に感心する。エリザは《血装外骨格》を解きながら、黒百合に言った。
『相手によって使い分けられるのが、あなたの尾の強みでしょう? なら、考えておきなさいな。速度重視の相手への形態を――』
† † †
「――“魔狼・遮那王”」
五本の尾が、黒百合を覆う。それはまさに武者鎧だ。速度重視のシャープなデザイン、その上でSDモナルダを一度手で持ち上げて上げると、蒼黒い巨大な狼顔がダウンサイズ――黒百合の頭へ装着されると狼型の兜へと変わった。
背丈は、一八〇あるかないか――速度重視の武者形態だった。
『おおー! しんけいたいっ!』
黒百合は、はしゃぐSDモナルダを改めて兜に乗せてやる――その見た目を見て、静は苦笑した。
(うん、死蔵させておいてよかったね……)
静は、その形態に見覚えがあった――他でもない、かつて自分見せたCGモデルのデザインだったから。
「高位吸血鬼、“貴族”ヴラド――いざ」
「クラン『ネクストライブステージ』所属、《英雄》壬生黒百合――尋常に」
互いに、一歩前に出る。既にそこは必殺の間合いだ――だからこそ、死闘は即座に幕を開けた。
「「――勝負!!」」
† † †
フルアーマーでハーレム要素を見出してみましたが、いかがでしょう?
ちなみに、クロちゃんの瞳はそれはもう見事に死んでいました……。
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