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98話 沈まぬ太陽もない10&本気の職務VS本気の遊び

※誤字修正、いつも助かります!


ハイファンタジージャンルで『どうも! こちらメイド・サーヴァント派遣業ヴァーラスキャールヴにございます!』というお話を始めてみました。基本、こちら優先ですので不定期になるかと思いますが、そちらもぜひお楽しみくださいませ。

   †  †  †


“白狼”:『お兄ちゃん、お兄ちゃん! 口調!』

“黒狼”:『うお!? 悪い、つい』


 秘匿回線で壬生白百合(みぶ・しろゆり)に指摘され、壬生黒百合(みぶ・くろゆり)は小さく咳払い。普段の黒百合の口調を心がけながら、改めてヴラドに問いかけた。


「……教えて。あなたを騙した、この事件の黒幕は誰?」

「そ、れは――」


 ヴラドが答えようとした、その時だ。コメント欄でひとつの悲鳴が上がった。


■うわ! なんか、聖務騎士団が武装して出てきたんだけど!?


   †  †  †


 ――聖務騎士団。それは神聖都市アルバの防衛からアンデッドなどの神の摂理に反する者の処理、そして教義に従わない者の排除を任務とした騎士たちの軍団である。

 聖務騎士団を纏め上げる団長ジークハルト・シュトラウスは、かつて先代聖女付きの騎士として先代の序列第五位魔王“真祖”クドラクの討伐にも参加した、歴戦の猛者であった。


「待て、これは一体どういうことだ!?」


 聖務騎士団副団長アーデルハイト・フライホルツは、声を張り上げる。自分の部下であるはずの聖務騎士団がなぜか突如動き出し、大聖堂を囲むように展開し始めたからだ。


「それが、団長からの緊急の命令だと伝令が……」

「そのような話、私は聞いていない! その伝令はどうした!?」


 しどろもどろに返す聖務騎士もまた、状況が見えていないのだろう。アーデルハイトは舌打ちしたくなるのを堪え、足早に歩き出した。


「誰か! 誰か団長の居場所を知る者はいないか!」

「団長でしたら、今日は――」


 その時だ、ズン……! と大聖堂の一部に鈍い衝撃が走ったのは。その衝撃の正体を見て、アーデルハイドは絶句する。


「な、ん、だと……!?」


 聖女の間がある大聖堂の離れ、そこに体当たりをする二体のトライホーンの姿があったからだ。


   †  †  †


■なんか、大聖堂がおかしいんだけど!?

■ああああああああああああああああああああああ! 聖務騎士団通してくんねぇし!

■……なぁ、聖務騎士団が()()()()()()になってんだけど? 気の所為?

■うわ! マジじゃんか! モンスターだけじゃねぇのかよ、エネミー!

■そりゃあ、山賊とかもエネミー判定らしいからなぁ……

■ああ、なんでエネミーって言うのかと思えば、人間(NPC)(エネミー)になる可能性があるからなのかよ……


 すでに視聴者やミニシナリオの参加者にも動揺が広がっていた。当然だ、つい先程まで味方と思っていたNPCノンプレイヤーキャラクターが突然敵に回ったのだから。


“不舞”『これは用意周到に仕込まれた()()だよ。どうする? クロ』

“黒狼”『どうするもこうするもない』


 吾妻静(あずま・しずか)が秘匿回線で軽い調子で聞いてくると、黒百合も軽く答えた。


「みんな、プランAに移行する」

■お、やんの? マジでやっていいの?

■プランAって、プランBなんて聞いてないんですけど?

■ははは、いいねいいね! まったく持って()()()()だわ!


 これも想定の範囲内だ、準備はしてある。すべての引き金を引いた者の責務として、黒百合は音頭を取った。


「さぁ、思う存分()()で対抗しよう」


   †  †  †


(ああ、まったく可哀想に)


 静はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。本来であれば、黒幕が現れ事件の背景を語ってくれるターンの()()だ。なにせ、今回は黒幕は最初からヴラドを利用し、聖女を排除する目的があった。そのため、裏で裏で動いていたため、PCプレイヤーキャラクターとの接触を極力避けている。

 そのためにポっと出感を拭うための段階が、後ひとつからふたつあったはずなのだが――。


(その思惑に風穴を開けて、数段早めてしまったのは私たちだがね)


 クラン《百花繚乱》の考察班の介入。これが大幅なショートカットを生んでしまった。なにせ、本来ならオーレウムで情報を買ってくる、などという想定はなされていないのだ。この神聖都市アルバ内を探索し、情報収集することでたどり着けたはずなのだから。


(いやぁ、悪いね。本当に悪い。きっと「誰?」って言われるよ、あなたは)


 クスクスと静は楽しげに笑う。その笑顔はまさに蝿魔王が変じた美女(ビヨンデッタ)のようだった。


「思う存分、我ら英雄(ゲーマー)の本気を堪能してくれたまえよ」


   †  †  †


「……なぜ、こ、んな真似、を……?」


 聖務騎士団団長ジークハルトは、そう苦しげに呻いた。ジークハルトを拘束するのは、光の鎖だ。アーツ《ホーリー・バインド》アンデッドならば継続ダメージを与えるそれは、アンデッド以外にも【バインド】――動きを封じるBS(バッド・ステータス)を与えるものだった。


「あなたならわかってくれると思ったのですが、残念ですよ。サー・ジークハルト」

「コルネ、リウス……枢機卿(すうききょう)……! 聖女を、なぜ、聖女の命を奪おう、などと……!」


 コルネリウス枢機卿は、忌々しげに振り返る。枢機卿の部屋の窓から見えるのは、トライホーンが突撃する聖女の間がある離れだ。その聖女の間を苦々しげに眺め、コルネリウス枢機卿は吐き捨てる。


「今のあなたこそ、その答えですよ。サー・ジークハルト」

「な、ん、です、と……」

「あなたは聖女を崇拝している。先代の聖女、そして今の聖女エミーリアを。()()()()()()()()()!」


 コルネリウス枢機卿もまた、かつての先代魔王クドラク討伐の場にいた者だ。あの時はまだ、枢機卿ではなく司祭だった。あの魔王にさえ届き得る奇跡――それを直接目にして、本当の危うさを知ったのだ。


「聖女の奇跡は、亡き神が与え給うたもの。しかし、人々はそれを忘れてしまう。あれほどの奇跡を前にすれば、神ではなく聖女の奇跡にすがってしまう! それでは駄目だ、駄目なのですよ! 我ら聖務教会が、神よりも崇拝するものがいるなどと!」

「そ、んな、こと、で……!?」

「――そんなこと!?」


 ジークハルトに、コルネリウス枢機卿が憤怒の表情で振り返る。血走った目が、彼の中に蓄積された怒りと恐怖を称えていた。


「あってはならないのです! あってはならない! 崇拝を我らが間違えれば、それこそ――」


 その刹那、一条の電光が大聖堂の離れ付近に落ちた。それと同時に、コルネリウス枢機卿派であった神官が駆け込んでくる。


「コルネリウス様! 英雄たちが聖務騎士団と交戦を開始しました!」

「な、ん……っ」


 その言葉に目を見張るのは、ジークハルトだ。恐れていた最悪が起きてしまった。英雄たちは聖女を救おうと言うのだろう。多くの聖務騎士は、コルネリス枢機卿の策謀を知らない。ジークハルトの命令と信じて、命を懸けて――。


「た、ただ、それが……ですね」

「ん? どうした?」

「な、なんと言ったらいいか……あ! そう、アレ、アレを持って英雄たちが……!」


 神官が指で示したのは、窓の外だ。トライホーン二体の突撃を受け止める黒雲――“神通力(じんつうりき)黒雲(こくうん)(まも)り・一片(ひとひら)”を身に纏うカラドック、その右腕に握られていたモノ。


 ――それは巨大な、見事なまでのハリセンだった。


   †  †  †


 スタン・ハリセン――通常攻撃でダメージが出ない代わりにデバフである【スタン(小)】を与える、という先のオープンβにおけるガルム戦がアイデアの元となったセント・アンジェリーナで最近開発されたネタ武器である。

 ただし、ネタ武器と侮るなかれ。クリティカルが発生した場合、【スタン(大)】を与えることも可能である。実戦でも有効な武器ではないか? ともっぱらの噂であり――。


   †  †  †


「あ、あれで殴られた聖務騎士たちが、みな、捕縛……されて、いま、して……」


 心底言いにくそうに神官が言う。これでは英雄たちが聖女に誘導されて聖務騎士たちを死に追いやった、という事前に用意していた言い訳が使えなくなる。

 否、それ以上にコルネリウス枢機卿が我慢ならなかったのは――。


「ば、ばば、ば……馬鹿にしておるのか!? あの連中は!?」


   †  †  †


■いいのかなぁ、これ。ついさっきまでシリアス系のミニシナリオだと思ってたんだけど……?

■いやー、もう真面目な空気が雲散霧消っすわ! 手応え気持ちいいー!

■あははははは! バーカ、バーカ! もうここまで来たら割り切って、馬鹿騒ぎしちゃうもんねー!

■姉さん、ノリノリで両手持ち用巨大スタン・ハリセンを片手武器に変更するアビリティ組み込んでたじゃないですか……

■だってー、どうせ馬鹿やんならとことんでしょうよー!

■ごめんな、騎士さんごめんな! そんな必死に悲壮な顔しないで! 吹いちゃう!

■はっはっは! お前もギャグキャラにしてやろうかぁ!


 聖務騎士団とPCたちの激突は、もはや茶番と化した。本来であればここで必死に訴え、聖務騎士団たちの信頼を得て大逆転――そういうシナリオだったのだろうが。


「ポっと出の黒幕になってしまったし、こう、今更、色々と語られても、だし……」

■クロちゃん、血も涙もないね……

■二〇年越しの謀略が茶番にされるとか、オレなら正気失うわ

■まー、クロちゃんの言うこともわかるわ。序盤で顔出しするなり、中盤で怪しいムーブしろっての。ガチでテロ完遂させようとすっから黒幕として影が薄くなるんだわ


 それだけ、相手も職務に本気だったということだろう。だからこそ、こちらも本気で対抗しなくてはならない。


「私たちは英雄(ゲーマー)、本気の遊びで応える。いい? みんな」


 手にしたスタン・ハリセンで黒百合は、大聖堂を指し示した。


「――敵は、大聖堂にあり」

■オー、イエー!

■行くぜ行くぜ行くぜぇ!

■レッツ、パーティーターイム!!

■ちくしょう! 俺も参加しときゃ良かった!

■なるほどなぁ、プレイヤーの選択って重要だわ、絵面の意味でも


 地鳴りのような鬨の声と共に、英雄たちの勢いが増していく。その光景を呆然と見て、ヴラドは咳き込むように笑った。


「はっ、はは、本気の遊びと来たか……お互い、相手が悪かったな。枢機卿」


   †  †  †

本気には本気を返す。ただし、同じ本気とは言っていない。



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― 新着の感想 ―
[一言] "敵は、大聖堂にあり"は草
[気になる点] 「我ら聖務教会が、神よりも崇拝するものがいるなどと!」 微妙な感じですが 「我ら聖務教会に、神よりも崇拝するものがいるなどと!」 がーがーになってて違和感があったので 意味合いは多分変…
[一言] 唐突なホンノウジムーヴッ!!シリアスは死んだ
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