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87話 明けない夜がないように

   †  †  †


 神聖都市アルバ。それはかつて神代の時代にこの地より去ったという神々から、地上の規律を代行すべき任を託された聖務代行教徒会――略して聖務教会の本拠地である。神聖都市、またの名を白亜の聖都――聖務教会の“教え”により白亜の建物のみで構成された都市である。


(ふん、よく言う――)


 深夜、人気のない裏通り。白い都、その闇に紛れるように黒ローブの人影がその壁の一部に触れる――その瞬間、バチン! という激しい火花が散り、通りに不規則に光の紋様が走っていった。


(白亜、白で統一しているのはアビリティ《聖域(サンクチュアリ)》の()()()を隠すためだろうに)


 聖務教会が保有するアビリティ《聖域》は、聖言を防具や物体に記すことによりアンデッド系エネミーの侵入や接触を防ぎ、持続ダメージを与える。これは神聖都市のみに伝わる特殊アビリティであり、称号《英雄候補》以上の者にしか教えられることのない秘技である。

 例えば、チョークで聖言を白亜の建物に書き込んでおけば()()()()()()()()()()()。教義が先か実利が先かは不明だが――どちらにせよ、神の教えと嘯いて都合よく利用しているのは確かだ。


「――で? いつまで隠れている?」


 黒ローブの声が裏通りに響き渡る。返答はない。ならば、と黒ローブは一歩前に出た。


「アビリティ《血装外骨格ブラッディ・エクソスケルトン》」


 ぞぶり、とローブの下から溢れ出したのは鮮血だ。その鮮血は刹那で黒ローブの人物を包む、禍々しい鮮血色の全身甲冑へと姿を変えた。そして、黒ローブを投げ捨てながらその右手を虚空へかざした。


「――アーツ《カズィクル・ベイ》」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! と白亜の聖都、その一角が地から伸びる赤い棘で埋め尽くされた。パシュパシュパシュパシュ! と闇の中で巻き起こる無数の光の粒子――PCプレイヤーキャラクターたちが戦闘不能となり、リスポーンポイントに飛ばされる痕跡だった。


「ほう、ひとり残ったか」

「格上なんだから油断してくれないでござるかなぁ!? 本当!」


 そう言って膨大な血の杭の中から黒い影が飛び出した――サイゾウだ。紙一重、範囲外へと逃れることに成功していたのだ。


(二〇人の《英雄候補》が鎧袖一触ってヤバいにもほどがあるでござるよ!)


 スタっと建物の屋上に立って、サイゾウはその地獄を生み出した相手を見る。


「高位吸血鬼、“貴族(ノーブル・ブラッド)”“串刺し公(カズィクル・ベイ)”ヴラド殿、とお見受けするでござる」

「いかにも」


 ガキンとヴラドのヘルム、その口部分が変形し笑みを形取る。高位吸血鬼のみが使用できるというアビリティ《血装外骨格》は、その膨大な魔力が宿る血を鎧とする強力無比な護りだ。


(称号《英雄》未満の対象からの《超過英雄譚(エクシード・サーガ)》以外の通常攻撃無力化、でござるか……ミニシナリオの順番、間違えてないでござるか?)


 今現在、エクシード・サーガ・オンラインの数〇〇万人を超えるPCの中でも称号《英雄》を所持しているのはただひとり、壬生黒百合(みぶ・くろゆり)のみだ。ようは囲んで《超過英雄譚》でタコ殴りにする、ぐらいしか対処法が存在しない相手なのだが――。


(ああ、せめてアーロン殿か又左殿、アカネ殿……カラドック殿がいればまだ検証の余地もあるのでござるがなぁ)


 あのヴラドの代名詞とも言うべきアーツ《カズィクル・ベイ》がまずい。全周囲に展開する広範囲攻撃である上に「与えたダメージ分の攻撃力が一定時間上昇する」という特殊効果持ちなのだ。串刺しにした者の血を取り込む、という触れ込みだが、ゲームバランス的には囲んで殴るより少数精鋭の《英雄》で決戦に持ち込む方が有利な仕様だった。


「どうした。来ないから、こちらから行くぞ」


 ヴラドが白い敷石を砕いて、跳躍する。それにサイゾウは後退、だがヴラドはクンと指先を動かすと退こうとした忍者の背後に血の杭による槍衾が出現。サイゾウはそれに突っ込む形となってしまう。


「こなくそ!」


 タタン! とサイゾウはそこでバク転。大きく跳躍して血の槍衾を飛び越えて――。


「お、おう」


 血の杭による槍を投擲の体勢で振りかぶっていたヴラドの姿を見て、サイゾウが悟る。空でも飛べない限りこりゃ駄目だ、終わりだわ、と。


「聖女とやらに伝えておけ、英雄候補」


 ガン! と強く踏み込み、ヴラドは血によって作り出した投槍器(アトラトル)で加速させた血の杭を投げ放った。


「明けない夜がないように、沈まぬ太陽もないと言うことを――!」


 一直線、音の速度を超えた血の杭に胸を貫かれサイゾウは光の粒子となって消えていった。


   †  †  †


 ミニシナリオ:串刺し公襲来。


 それは“夜の国ラント・ディア・ナハト”の生き残り、イクスプロイット・エネミー“串刺し公”ヴラドから聖女を護るという護衛シナリオだった。ヴラドの襲撃期間は一ヶ月、最初は一時間しか神聖都市アルバに居ることのできなかったヴラドは徐々に都市の護りを解除していき、その滞在時間を伸ばしていくというギミックのあるミニシナリオだ。

 現在、ミニシナリオ発生から一〇日経過。一日に付き、滞在時間が一〇分増える計算で、現在の滞在時間は二時間四〇分となっている。最終日の三〇日後になってしまえば、六時間――それだけあれば、ヴラドには目的を果たして余りある余裕ができてしまうだろう。


 神聖都市アルバを訪れていたPCたちによる抵抗は続いているが、状況は好転していない。


   †  †  †

サイゾウさんは弱くないのです、本当に当たる相手当たる相手が悪いのです……。


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― 新着の感想 ―
[一言] システム的に無理ってやつやなサイゾウさん割と不憫な感じだけどトップ帯だから弱い訳じゃなくて攻略の為の手段が足りないって感じなんだよな 串刺し公に関してはそれでも勝てるかは分からないけど
[気になる点] (称号《英雄》未満の《超過英雄譚エクシード・サーガ》以外の攻撃の無力化、でござるか……ミニシナリオの順番、間違えてないでござるか?) ・これは「英雄以上の攻撃を受けて、英雄候補はエク…
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