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第90話 魔虫はどこから?

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

一番悩むのがサブタイトルです。

 兄弟猫に説教されて、紫輝に泣きじゃくられて、青蕾に怒りの甘噛み(強)をされて、言葉が通じない組み合わせで出歩かないことを約束させられてからようやく解放された。

 アーガスさん達とタロゴさん一家はその一部始終を微笑ましいものを見るような顔で見てたなぁ。まあ竹筒から出てきた清ちゃんにギョッとしてたけど。この仔うちの仔よ? 変な目で見ないでくれる?


「しかし、まさかエルドレッド隊が来とるとは思わにゃんだ」

「ええ、びっくりです」


 イニャトさん達がそう言えば、アーガスさんが片手を挙げて返事をした。


「エルドレッド隊?」

「アシュラン王国を守るガルネ騎士団の一角です。他にカリュー隊とサスニエル隊、騎竜隊がいます。騎竜隊とカリュー隊にはニャオさんは会ったことありますよね?」

「ええ、ありますね」


 アンピプテラと戦ってた時と、美影さんと出会った時に。


「4つの隊を合わせてガルネ騎士団なんですか?」

「エルドレッド隊にゃどは分隊にゃんじゃ。もともとは1つの大きにゃ騎士団だったんじゃが、団員が増え過ぎた為に小分けにして、そこにそれぞれ隊長を置くことで幅広く行動できるようにしたんじゃよ」

「エルドレッド隊を南に、サスニエル隊を東に派遣している間に騎竜隊が各地を巡回して、騎士団とカリュー隊は有事に備える、といった感じですね」


 ほうほう。


「ねーねー、それなーにー?」


 紫輝の声がした方を見れば、仔ドラゴン達がイヴァさんの足元にいた。見上げてるのは持ってる杖だ。お前達、噛まないでよね?


『◎◎~、□△○□~』


 間延びした喋り方でイヴァさんが杖を振ると、紫輝と青蕾がふわりと浮いて、ジアーナちゃんの周りをくるくる回り始めた。最初こそ驚いてたけど、すぐにみんなキャッキャと笑い始めた。


「遊んでもらってらっしゃる……」

「さすがはエルドレッド隊員、ドラゴンには臆しませんね」


 感心したようにニャルクさんが言った。


「で、エルゲ隊長殿。これからお前さんらはどうする予定じゃ?」


 そう訪ねるイニャトさんに、エルゲさんは片膝をついて答えた。優しい。


「……そうか。ニャオよ、エルドレッド隊は事態が終息するまで手分けして牧場を警護するそうじゃ。で、お前さんにも手伝ってほしいらしい」

「え? 私も?」

「うむ。〈水神の掌紋〉を持つお前さんの力を借りたいと言っておるよ」

「確かに、掌紋の力は有益ですからね。この際、どれぐらい使えるのか確認する為にも、彼らに加勢したらどうですか?」


 どれぐらい使えるか、か。確かに気になる。

 今までは難なく使えてたから気にしてなかったけど、限界とか制限があるなら事前に知っておきたいな。“バンパイアシーフの短剣”に魔力を込めたら一発で鼻血が出て気絶したし。何かの時に掌紋の力を使ってて、同じことになったら下手したら死にかねない。


「わかりました、お手伝いしますって伝えてください」

「任せよ」


 イニャトさんが訳してくれたら、アーガスさん達は喜んでくれた。お世話になります。

 タロゴさん一家に別れを告げてヴァラカン牧場を出た後、エルドレッド隊が集まってるところに連れていかれた。ざっと30人はいる。これでもほんの一部らしい。残りの隊員達は町と町の外を見回ってるってイニャトさんが教えてくれた。こんな人数のトップだなんて、エルゲさん凄いんだね。

 全員の視線が集まって心底居心地が悪い。注目されるのは苦手なんだよ。ニャルクさん達も緊張しちゃってるし。楽しそうなのはバウジオと仔ドラゴン達だけだ。

 エルゲさんに私達のことを紹介してもらって、今後の話し合いに加わった。ニャルクさんに翻訳してもらったら、まずは魔虫の死骸を確認しに行くことになった。

 死骸は隣の牧場の石造りの倉庫に置いてあるらしく、全員でそこに向かう。倉庫は新しく建て直す予定で、中に何も置いていないから使ってくださいって牧場主の方から言われたらしい。ありがたいこっちゃ。

 閂を開けて中に入ると、見張りの隊員が2人立っていた。イニャトさん経由で、アーガスさんからライドさんとオードさんって紹介される。犬獣人だ。

 ライドさんが満面の笑みで駆け寄ってきたと思ったら、脇に手を差し込まれて持ち上げられてしまった。何これ? 初対面よねあんた? こんな初めまして初めてなんだけど?

 下ろしてもらえなくてどうしようかと思ってたら、オードさんがライドさんの後頭部をパシンと叩いた。ぐらついて落ちそうになったところをアーガスさんが支えてくれた。お礼を言って、背中に隠れさせてもらう。初対面で0距離はちょっと……。逆に紫輝と青蕾は自分も抱っこしてってせがみに行ってた。爪立てちゃ駄目よ?

 こんもり盛り上がった布を隊員の1人が剥ぎ取れば、腹に穴が開いた魔虫の死骸があった。切り落とされた首も置いてある。虫は嫌いじゃないけど、こいつは気持ち悪い。

 特にこれといった情報はなかった。それ以前に、魔虫の種類すらわからなかった。

 エルゲさん達は魔物の正体について、あいつでもないそいつでもないと話してるっぽい。


「ニャルクさん達は知ってますか?」

「いえ、初めて見ますね」

「儂もじゃ」


 そっか。水神さんわかるかな。


「ちょっと聞いてみますね」

「うん? 聞くとにゃ?」

「ニャオさん、一体何を?」


 声をかけられたけど、とりあえず待ってもらって。マジックバッグから出した“乾き知らず”で掌を濡らして、バスケットボールぐらいのサイズがある魔虫の頭を持ち上げて、目を閉じた。

 水神さん水神さん。この虫がどこから来たか教えてください。

 薄暗くなった視界の中に、ぼんやりと景色が浮かんできた。

 コポコポと音がして、木の葉の影が見える。魚が泳ぐ。流れはない。

 映像はすぐに切れてしまった。


「水ですね」

「水?」

「はい。今水神さんに、魔虫がどこから来たのか聞いてみたんですけど、水中の景色を見せてくれました」

「では、川を上ってきたか、下ってきたかして町に入り込んだってことですか?」

「いえ、流れがなかったんです。だからたぶん、溜め池みたいなのがあればそこかと」


 イニャトさんがアーガスさん達に伝えてくれると、早速地図で確認し始めた。東西南北にそれぞれあるみたいで、一番近い南の溜め池に行ってみることになった。

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