第83話 宝石の渓谷
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明日は閑話を挟む予定です。
辿り着いた渓谷は、漣華さんに乗っていても視界に収め切れないぐらい長かった。地平線の向こうまでうねりながら続いていて、本当に大地を裂いてるみたいだ。
「降りるぞ。掴まれ」
「え? 見るだけじゃなかったんですか?」
「長居はせんよ」
そう言って、漣華さんは大地の裂け目に飛び込んだ。あっという間に渓谷の底まで舞い降りたけど、激流と言っていいレベルの川が流れていて、立つことができない。
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ない。妾に加護を授けた神を忘れたか?」
ビビる私を無視して、漣華さんは川面に降り立った。激流に光る紋様が浮かんで、そこだけ凪ぐ。漣華さんが踏み出せば紋様もついてきた。凄いな。
「ほれ、岩壁を見よ」
言われて目をやれば、赤とか青とか、鮮やかな色がわずかな月明かりにキラキラ照らされていた。
「すっごい! 綺麗ですね!」
まるで天の川に入ったみたいだ。ビビってたとはいえ、気づかなかったのが不思議なくらいだ。
「ニャオよ。1つ持って帰れ」
突然何を言い出すのあなた?
「いやいやいや、いいですよ。持って帰れないですよこんなの。こういう場所って国の管轄だったり、持ち主がいたりしますよね? 泥棒になっちゃうじゃないですか」
首をぶんぶん横に振れば、くはは、と漣華さんは笑った。
「案ずるな。ここはクラオカミ様が体を横たえてできた神域。前の持ち主はシヅで、今は妾に任されておる」
「……そうですか」
「ここにある宝石も、クラオカミ様が飛び立つ際に鱗と擦れた石が転じた物。わかりやすく宝石と言うたが、人間達は神宝石と呼んでおる」
漣華さん、お金持ちだったんだねぇ。普通の宝石より価値あるでしょこれ。
「ほれ、早う選べ。日が変わってしまうぞ」
「あ、はい」
漣華さんから降りて、紋様に足をつければしっかり立てた。ありがとうございます、クラオカミ様。
岩壁に近づいて見渡してみる。宝石には詳しくないけど、サファイアとかエメラルドとかルビーっぽい原石がたくさんある。
どれか1つって言われても、どう選べばいいのかわからない。色としては寒色が好きだけど、だとしたらエメラルド……。
「あ……」
ちらっと見上げた先に、深みのある蒼が光った。背伸びをして、落とさないようしっかり掴む。
簡単に取れた原石をよく見れば、蒼の中に波みたいな模様があった。まるで透明なラリマーだ。
「ほう、それがいいか」
漣華さんが首を伸ばして覗き込んできた。
「これ、なんて名前ですか?」
「アクアリファス。水面に落ちた雫が結晶化したと伝えられている神宝石じゃ。よい石を選んだな。失くしてはいかん。ここに入れよ」
そう言って、漣華さんは私の手の近くに小さな魔法陣を描いた。そっと入れたら、魔法陣がしゅるりと消える。
「原石がいいと言うておったが、あれは腕利きに加工してもらう。そなたが身につけやすいようにな」
「いいんですか?」
「構わん。首にはお守りがある故、腕輪にでもするか」
その後、漣華さんはいくつかの神宝石の原石を魔法陣にしまった。かなり雑に。欠けてないかな?
「そろそろ帰るか。乗るがいい」
「はい、お願いします」
漣華さんに跨がると、ふわり、と舞い上がって空に戻った。渓谷が細くなっていく。
来た時と同じように、ユニークスキルは使わずにゆっくり飛んだ。光虫はもういなかった。
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家に帰りつくと、先に寝たはずのアースレイさんが立っていた。何かあったのかと駆け寄ると、瞼が半分しか開いていなかった。寝ぼけてる?
「あーさん、どうしました?」
声をかけても、あーとか、うーしか返ってこない。
「漣華さん、アースレイさんを家まで連れていってきます。先に休んでてください」
「ついていこうか?」
「いえ、すぐそこなんで大丈夫ですよ」
おやすみなさい、と言ってから、アースレイさんの手を握って歩き出す。漣華さんも福丸さんも、結構過保護だよなぁ。
家を造った時に道もそれなりに整えたから、夜でも歩くのには問題ない。月が明るいからはっきり見えるしね。
「アースレイさん、家に着きましたよ」
低い方の家の下で、小声でアースレイさんを呼んだ。高い方の部屋ではシシュティさんが寝てるから、起こさないようにしないと。
『✕✕▽□……』
ありゃ、〈万能言語〉が解けてらっしゃる。解いてたのかな?
なんとか家に入ってもらおうと肩を揺すったら、その肩に担ぎ上げられてしまった。抵抗する暇もなく跳ばれて、家に連れ込まれる。
「ちょ、アースレイさん? ほんとに寝てます?」
実はお目目ぱっちり起きてました、なんて言うんじゃないでしょうね? 場合によってはデコピンよ?
そんなことを思っていたけど、アースレイさんは私を敷布団に下ろすとそのまま横に寝そべってきた。逃げようとしたけど、腹に回された手にがっつり抱え込まれて逃げられない。寝息が聞こえてきた。
駄目だこれ。
しょうがないから私もここで寝ることにする。靴だけは頑張って脱いだ。それなりに動いたけど、アースレイさんは起きなかった。
背中側にいるアースレイさんの寝息が頭にかかってむずむずする。垂れ耳が首筋に擦れてくすぐったい。ぽかぽかする。
眠い。
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翌朝、私がいないことにパニックになったニャルクさんとイニャトさんが駆け込んできて、朝から騒動になった。騒ぎに飛び起きたシシュティさんも参戦して、一緒に寝たことに対してずるいずるいと半泣きになっていた。あんたの弟のせいだっての。
結局シシュティさんとは今度一緒に寝る約束をする羽目になって、ニャルクさん達からは無断外泊は絶対駄目、と怒られた。アースレイさんはあくびをしてた。解せぬ。




