第82話 散歩
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ワクチン接種しましたが、幸い熱が出ることもなく、無事に過ごせています。3週間後に2回目を控えていますので、その時はまた前書きにて報告いたします。
家に戻って、仔ドラゴン達を私達の家の敷布団に寝かせた後、干していた洗濯物を取り込んだ。外にあるテーブルを拭いて、そこで畳む。充分にお昼寝した芒月が足元で林檎を転がして遊んでる。
夕方にはみんな帰ってくるだろうから、それまでには晩ご飯を作っておきたい。畑から収穫した野菜を見て、献立は肉じゃがと味噌汁に決めた。
米を炊く準備をして、前に美影さんが獲ってきてくれた牛に似た魔物の肉をシシュティさんと一緒に切っていく。名前なんだっけ……。まあいいか。
野菜も一口大に切る。じゃがいもは多めに。散歩に行っていた香梅さんが帰ってきた。芒月がすぐさま駆け寄っておっぱいをねだれば、香梅さんは飲みやすいように体を横たえた。
作り慣れたレシピだからすぐに終わってしまった。あとは蒸らすだけ。味噌汁もできたし、食べる前に温め直せばいい。
肉じゃがの匂いをくんくん嗅いでいたシシュティさんがじぃっと私を見た。しょうがないから味見してもらう。パクッと食べたシシュティさんは目を輝かせた。もう駄目よ?
そろそろかなって頃合いに、水に浸していた米を炊き始める。見張りをシシュティさんに任せて、さっき畑を見た時に気になった生えかけの雑草を抜きに行く。こっちも10分で終わった。
拾った枝に落ち葉を結びつけて、即席の猫じゃらしを作った。気づいた芒月が飛びついてくる。しばらく遊んでいたら、シシュティさんがうずうずしているのが見えて、見張り番を交代した。
「ニャオ~、戻ったぞ~」
「ただいま、ニャオさん。姉さん、迷惑かけなかった?」
『✕✕△!?』
「前科があり過ぎるんだよ」
アースレイさん、犯罪歴にもう一件加えてくれます?
▷▷▷▷▷▷
「ニャオさん、斧のギルマスからこれを預かってきました」
食後、片づけを終えてのんびりしてた時、ニャルクさんがマジックリュックから何かを取り出した。縦長の木箱で、ポストみたいな取り出し口がついている。でも投函口が見当たらない。
「なんですそれ?」
「“伝書小箱”というマジックアイテムです。ギルドに設置されている“伝書箱”の小型版ですよ」
「ロスネル帝国の一件で、お前さんが毎週町に出らんことを伝えたら渡してきたんじゃよ。これがあれば簡単にゃ文章のやり取りができるからの」
「でも、こういうのって貴重なんじゃないですか? 私達が持ってていいんでしょうか……?」
「そりゃあそうじゃが、むしろ〈水神の掌紋〉保有者と連絡が取れんくにゃる方が向こうにとっては不安にゃんじゃよ」
「ニャオさんはこの世界の文字はわからにゃいけど、僕達が読んだり書いたりすればいいですからね」
そうか、心配してくれてるんだね。じゃあありがたくいただこう。いや、お借りしよう。
どこに設置するか相談した結果、物置木の幹に決まった。仔どもらには触らないよう言っとかないと。
お風呂に入って寝る準備をしていたら漣華さんが近づいてきた。
「ニャオよ、ちと散歩せぬか?」
「散歩ですか?」
こんなこと言われるのは初めてだな。
「そう時間は取らぬ。ちと空を飛ぶだけよ。行くか?」
「はい、行きたいです」
アースレイさん達はとっくに家に戻ってたから、ニャルクさん達に声をかけて漣華さんに跨がる。ふわりと舞い上がると、家は一気に小さくなった。
「前に言っていた宝石がある渓谷に行ってみるか。そう遠くないぞ?」
「あ、行ってみたいです。原石好きなんですよね」
あれは見るだけで癒されるよねぇ。前の世界でもアメジストドームとかほしかったけど、高いから買えなかったんだなぁ。
「うむ。では行こう」
漣華さんはユニークスキルを使わずに、ゆったりと空を飛んだ。月夜の散歩なんてお洒落だね。
「見よ、光虫じゃ」
漣華さんが首を振った先を見れば、ふわふわと光る虫が何匹も舞っていた。それなりの高度があるのに、こんなところで群れるのか。
「蛍みたいですねぇ」
「ホタル? それも光るのか?」
「ええ、故郷の川にたくさん出るんですよ。時期になったら蛍を見る為の祭も開催されるんです」
「ほう。虫を見る祭か。面白いな」
そう言って、漣華さんは正面を向いた。
「あれは川で育つ虫でな。水草を頼って蛹になり、羽化した直後に舞い上がって、空中で交尾をして川に卵を産みに戻るんじゃ。日が高い内は葉の裏などで休んで、3日ほど繰り返してから死に至る。儚い命よな」
「羽化した後も水に潜るんですか? 濡れたら飛べなくなりそうですけど……」
「虫とは言うたが、正確には魔虫じゃからの。多少の魔力は持っておる故、濡れんように翅を守れるんじゃ」
へえ、そうなんだ。蛍に似てるけど、蛍よりも寿命が短いなんて、ほんとに儚いな。
「光虫が出る場所は毎年変わる。今夜この空に舞っておるのなら、明日の晩にはそなたらの家の近くに降りるやもしれんな」
「あ、いいですね。じゃあみんなで何か食べながら眺めましょうよ。花見ならぬ虫見しましょう」
「何が楽しいのかよくわからんが……、まあよかろう。桃で何か作っておくれ」
「もちろんです」
よし、そうと決まれば今から何にするか考えないとね。他にもいろいろ作ってみよう。




