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第81話 水遊び

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

本日一回目のコロナワクチンを打ちに行きます。

体調次第では明日の更新は難しいかと思われますので、ご了承ください。

 次回の納品は私はお留守番になった。というのも、イニャトさんが商人ギルドに呼ばれた時に、杖のギルマスからロスネル帝国の話を聞かされたからだ。

 アシュラン王国とロスネル帝国は最小限の関わりしか持たないそうなんだけど、最近になって商人達が頻繁に商談を持ちかけてくるようになったらしい。

 ロスネル帝国は独自の文化を持つ国だから、アシュラン王国としても自国にはない様々な品を取引ができるのはありがたいみたいだけど、いかんせん相手が悪過ぎる。

 今は王都の方に数組の商団が行ってるらしく、問題なく商談が進めばいずれは町まで来るかもしれないんだとか。

 王都のギルドも警戒を強めてはいるものの、属する国を理由に犯罪歴のない商人の入国を拒むことはできないらしい。

 で、その話を聞いたイニャトさんが危惧したのが私のことだ。

 私は前にロスネル帝国の男に拐われかけたことがあるし、帝国に本山を置くドレイファガス教会とは因縁がある。商人達が私を知ってる可能性が、ちょっかいをかけようとしてくる可能性が充分にあるわけだ。

 杖のギルマスは、なるべくロスネル帝国の商人を町に入れないように頑張る、とイニャトさんに約束してくれたそうだけど、以前騒動を起こした帝国人との関連もわからない内は、私1人の為に頭ごなしに拒絶はできない、とも言ってたんだと。そりゃそうだ。

 それに、身分を偽って町に潜入してこないとも限らない。王都に行ってる商団が実は目眩ましかもしれない、とアースレイさんは言った。

 そこでイニャトさんが考えたのが、私が町に行く日を決めない、というものだった。

 収穫は全員でやって、納品はイニャトさん達が担当して、その間私は森に残って家の掃除とか畑の整備。で、必要な時にだけハノア農園に行ったり買い物したりって感じで、しばらくやっていこうってことになった。

 ハノア農園とレストラン・ロナンデラへの納品を全て任せてしまうのは気が引けるけど、安全にはかえられないって言われてしまったら頷くしかなかった。

 というわけで、ニャルクさん達と護衛のアースレイさん、送迎の漣華さんと美影さんを見送った私は現在水の中。珍しく納品についていかなかった仔ドラゴン達と水遊びの真っ最中。家のことも済ませたし、畑はつい最近みんなで整えたから、今日はやることがなかった。

 お昼ご飯を食べてから芒月の爪磨ぎをしていたら、緑織が水遊びしたいって言い出したから、福丸さんに川までついてきてもらってみんなでドボン。それなりに深いところだけど、水神さんの加護のおかげで呼吸には困らない。

 緑織が泳げていたからもしかしてと思ったけど、赤嶺達も普通に泳げてた。むしろ私より早い。浮き輪いらないじゃん。私は川底に仰向けに沈んで、腰に下げた竹筒を覗き込んだ。


(きよ)ちゃーん、元気?」


 声をかければ、清と名づけた神の繭がぬるりと出てきて引っ込んだ。ちょっとだけ口が出る。指でつつけば、くすぐったそうにもぞもぞ動いた。

 木桶の中ばっかりじゃあ景色も変わらないからつまらないもんね。お散歩大事。のびのび育てよ。

 竹筒を腹の上に置いて、水神さんにお願いして濡れないように保護したカメラを手に取る。太陽を覗かないように気をつけながら、仔ドラゴン達の写真を撮った。

 じゃれ合う緑織と黄菜、追いかけっこする赤嶺、青蕾、紫輝、綺麗な石を探す蘭里。橙地は自分と同じサイズの魚を追いかけてる。

 私から離れたら駄目って言ってあるから、みんな近くで遊んでる。いい仔だ。芒月は川岸で福丸さんとお昼寝中。水は苦手なんかね。

 仔ドラゴン達を撮り続けている内に、黄菜の姿がないことに気づいた。周りに目をやれば、遠ーーーくの方に黄色い点が見えた。

 黄色の点はやっぱり黄菜で、どこから千切ってきたのか植物の蔓を咥えてる。で、蔓を掴んでるのはシシュティさん。悲鳴を上げながら水の中を物凄いスピードで引っ張られてる。

 シシュティさんもみんなと町に行けばよかったのに、雇用主を1人にはできないって残ってしまった。その結果がこれか。あ、蔓千切れた。置き去りだ。

 シシュティさんが大笑いしながらこっちに泳いできた。いつもの防具じゃなくて、買い足したラフな服を着てる。私達と同じように呼吸ができてるのは水神さんのおかげだ。でも離れ過ぎたら効果が切れるかもしれないから注意しないと。

 シシュティさんは私の手を引っ張って起こすと、後ろに回り込んで抱き抱えてきた。されるがままに、背中を預ける。清ちゃんが竹筒から体を半分出した。

 水中を虹みたいに並んで泳ぐ仔ドラゴン達を、3人でしばらく眺め続けた。




 ▷▷▷▷▷▷




「おや、お帰りなさい」


 遊び尽くして電池が切れた仔ドラゴン達を抱えて、やっとの思いで川岸に浮かび上がったら、福丸さんは林檎を食べていた。投げ出された左脚には芒月が腹這いになって寝息を立てている。


「すみません、芒月をお任せしちゃって」

「いえいえ、いい仔で寝てましたよ」


 ついでとばかりに芒月の寝顔を写真に収めた。少し離れて、福丸さんの全体が写るようにする。下がり過ぎて川に落ちた。這い上がったら芒月が起きてた。ちくしょう。

 清ちゃんが竹筒にいるのを確認してから、うとうとしてる仔ドラゴン達を福丸さんの背中に乗せていく。虹色に並べることを忘れない。ここでもパシャリ。

 じゃれつく芒月を踏まないように歩き始めた福丸さんについていこうとして、シシュティさんに手を掴まれた。振り返ると、真正面に顔があった。

 スリ。

 鼻と鼻が擦れ合う。目がぱちっと合った。

 悪戯が成功した悪ガキみたいな顔で、シシュティさんは見下ろしてきた。こういう時ってどんな反応すべき? わかんねえよ未経験だわ。

 逃げられないでいたら調子に乗られた。抱き締められて、お尻を揉まれる。パンッと手を叩き落としてデコピンしてやれば、あう、みたいな声を出された。

 福丸さんの後を追いかける。ついてくるシシュティさんの足音が聞こえた。

 絶っ対に振り向かないからね。

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