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第78話 念願の……!

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

「ではニャオさん。ここに名前を書いてください。僕が書いた見本の通りにお願いしますね」

「……なんか短いですけど、これニャオって書いてます?」

「ええ、そうですけど」

「ニャルクさん、お2人がつけたニャオはあだ名みたいなもんですよ。正式な名前は星峰直央です」

「ああ、そうでしたね。……はい、こっちでお願いします」

「はいはい」


 斧のギルマスの部屋のいつもの長椅子に座って、用意された書類をニャルクさんに読み上げてもらってから、見本をしっかり見ながら名前を書いていく。両隣にはアースレイさんとシシュティさんがいて、羽根ペンを滑らせるのを凝視し続けてくる。書きづら。


「これでいいですか?」


 正面に座る斧のギルマスに手渡す。受け取った斧のギルマスは私の名前に目を這わせてから、シシュティさんに渡した。

 シシュティさんは私の名前の横の欄に名前を書いて、アースレイさんに手渡した。アースレイさんもその下の欄に名前を書き込んでから、斧のギルマスに返す。斧のギルマスは全員分の名前を確認すると、右下にすらすらとサインを入れた。


『◎◎○、△◎』

「はい、これで終了です。雇用契約を交わしたことを斧のギルマスが認めてくれましたよ」

「ありがとうございます」


 お礼を言えば、斧のギルマスはなんともいえない笑みを返してきた。アースレイさんが私と雇用契約を結ぶって説明した時驚いてたもんな。この反応もしょうがないか。


『○、□△▽』

「ニャオさん、この間の依頼の報酬が用意できたみたいですよ」

「え、カメラですか?」


 身を乗り出して斧のギルマスに聞けば、アースレイさんに引っ張り戻された。のけ反っていた斧のギルマスが立ち上がると、近くのテーブルに置いてあった箱を持って戻ってきた。

 蓋を開けてみると、なんとも古風なデザインのカメラが入っていた。


「凄い! かっこいい!」


 手に持ってみれば、本体部分は革でできていた。普通の革じゃないだろうから、たぶん魔物だろうな。


「フィルムカメラだね。異世界人が開発したって本で読んだことがあるよ」


 横から覗き込んだアースレイさんが教えてくれた。


「フィルムカメラってことは、現像するお店があるんですよね?」

「ええ、もちろんありますよ。えっと、フィルム1本で56枚撮影できるみたいです。本体に1本、予備を3本入れてくれていますよ」

「そんなに? いいんですか?」

「いいんじゃないかい? くれるものはもらっておけばいいよ」


 一緒に入っていたカバーにカメラを入れて、予備のフィルムと一緒にマジックバッグにしまうと、斧のギルマスがアースレイさん達に声をかけた。


『△▽□、○△?』

「いえ、まだ考えてないです」

『◎○□?』

『✕、□▽△✕』


 うん? 何事?


「ニャオさん、雇用契約を交わしたらシンボルを決めにゃいといけにゃいんですよ。目印にするんです」

「そうなんですね。どんなのにするんです?」

「君が決めるんだよ」


 ……なんて?


「初耳ですが?」

「言うのを忘れてたよ。ごめんね」

「いやいいですけどね。でもどうしましょう?」


 いきなり言われても決められないな。……いや、あれがあるな。


「シンボルってもう決めるんですか?」

「雇用契約する前にあらかじめ決めておくのが普通なんだ。すっかり忘れてたけど」

「1個案があるんですけど、描いてみていいですか?」

「どんにゃのです?」


 アースレイさんが斧のギルマスから紙と羽根ペンを借りてくれて、そこに簡単に描いていく。交差した2枚の羽根を、円で囲えば完成だ。


「違い鷹羽です。私の家の家紋なんですよ」

「チガイタカバネ?」

「カモン?」

「私の故郷では、それぞれの家が目印になるシンボルを持ってるんです。最近の家にはないところもあるけど、これは私の家族のシンボルなんですよ」


 家族、とニャルクさんが繰り返す。アースレイさんがシシュティさんと斧のギルマスに説明してくれた。


『◎! ◎○◎!』


 シシュティさんが満面の笑みで私が描いた家紋を指差した。斧のギルマスがうんうんと頷く。うん、決まりだね。


『○△△□、◎□』

「ニャオさん、受付に行きましょう」


 部屋を出るニャルクさんについていく。カウンターの近くまで行くと、イニャトさんとバウジオが一息ついていた。


「ばっふばっふ」

「お、終わったかの?」

「もうちょっとです。ほら、シンボル決めにゃいと」

「おお、そうじゃったの」


 イニャトさんは商人ギルドに用があったから別行動を取っていた。今回はやることが多かったから、仔ドラゴン達と仔ライオンはお留守番。香梅さんが仔守りしてくれてる。助かるわぁ。


「して、どんにゃシンボルにするんじゃ?」

「チガイタカバネっていうそうで、ニャオさんの生まれた家のシンボルだそうです」

「ほう、生家のシンボルか」


 斧のギルマスが受付嬢に声をかけると、受付嬢は凹みがある木の板を取り出した。光沢のあるそれを斧のギルマスが指差す。この凹みに指を置けってか?

 試しに人差し指を置いてみるとチクッとした。指の腹を見れば小さな赤い点がある。刺された。

 木の板を手に取った斧のギルマスが兎人姉弟を呼ぶ。近づいた姉弟が背中を向けると、斧のギルマスは防具に木の板を押しつけた。

 シュウ、と音がして、木の板が外された場所には、違い鷹羽が判子みたいに押されていた。私の左肩にも同じように押された。


「これってこの場所でする意味あるんですか? みんな見てるんですけど」


 ギルドは午前中でも大勢の冒険者や商人がいるのが当たり前だから、いろんな人が珍しいものを見る目でこっちを見てた。ちょっと落ち着かない。見せておるんじゃよ、とイニャトさんが言った。


「雇用契約した者は、シンボルをつける様をわざと大勢に見せることで知らせておるのじゃよ。儂らはこやつのものじゃぞって」

「今シンボルをつけたマジックアイテムは“印つけ”といって、ギルマスしか使用権がにゃいんですよ」

「誰でも使えたら悪用されかねんからのう」


 ニャルクさんがイニャトさんの肩を叩いた。


「イニャト。あのシンボルはニャオさんの家族の証らしいですよ」

「にゃんと。では斧のギルマスよ、それを儂の小銭入れにつけてくれんかのう?」

「僕はマジックリュックにお願いします。ここ、蓋のところに」


 え? つけていいの?


「あれっていいんですか? 私、ニャルクさん達と雇用契約なんかしてないですけど」

「冒険者が防具につけると契約中を示す目印になるけど、所持品につけたらただのマークだよ。いいじゃないか、みんなお揃いで」


 アースレイさんがにっこり笑った。後ろにいたシシュティさんに抱き込まれる。見えないけど、たぶん笑顔だ。

 ギルドを出て早めのお昼を食べた後はハノア農園に行く予定だったけど、シシュティさんが買い物がしたいって言い出した。私と2人で。

 言葉が通じないからってアースレイさんは反対したけど、シシュティさんは譲らなかった。姉弟喧嘩になる前に止めに入った結果、シシュティさんと買い物に行くことになった。


「ニャオさん。いらない物を買いそうになったら止めてくれないか? 特に姉さんはクッションを欲しがるから、買うなら2つまでだからね」

「はいはい、わかりました」

「あと、お金は自分で出させること。今朝今月の分の賃金をくれただろう? ちゃんとあれから出させておくれよ。ニャオさんは払わなくていいからね」

「はいはい」


 アースレイさん達にはそれぞれ50万エルずつ渡してある。兄弟猫と話し合って、収穫作業の手伝い以外にも命を守ってもらうんだから、これぐらいはいるだろうってことになった。もし途中で何かしらの被害から守ってもらった時は追加を出すかってなったんだけど、姉弟から断られた。もらっときゃいいのに。

 そんなこんなで、ニャルクさん達とは別行動を取ることになった。バウジオも向こう側だ。集合時間は2時間後で、場所はレストラン・ロナンデラだ。


「行ってきまーす」

「気をつけえよー」


 手を振ると、ニャルクさん達は人混みの向こうに消えていった。私もシシュティさんに手を握られて歩き出す。事前に調べていたのか、シシュティさんは迷う素振りを見せなかった。






 途中何度も裏路地に連れ込まれてはマーキングされた。腕力じゃ敵わないんだよ私は。

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