第77話 新しい家
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翌朝、日が昇る前に私の毛布に潜り込んできた兎人姉弟に悲鳴を上げてニャルクさん達を起こしてしまった後、みんなでガジューの苗の様子を見に行った。
根元から二股に別れて成長した苗は、向かって左側が私達の家と同じぐらいの高さで止まっていて、右側はもっと高く伸びていた。
「これなら2部屋造れそうですね。部屋同士を繋げば行き来もしやすいでしょうし」
「うむ。では早速取りかかろうかの。ちゃっちゃと造って収穫の方もせねばにゃらん」
次の納品の分が全然できてないからね。私のせいで。2回目だから手早く済ませましょう。だからって手は抜かないけど。
顔を洗って朝食を食べた後、仔ドラゴン達と仔ライオンを美影さんと香梅さんに預けて作業を始めた。丸太を整えて2つに切って床にして、壁を造って屋根部分に竹を格子状に組んで、を2部屋分。使う材料も労力も2倍だけど、前回と違ってアースレイさん達と漣華さんもいるからかなりスムーズに進んだ。
日が変わるまでに終わるかな? って思ってたけど、いつも夕食を作るぐらいの時間には建て終えてしまった。早い。
家の広さは大体同じ。高い方がシシュティさんの部屋で、低い方がアースレイさんの部屋になった。
出入り口はそれぞれあるけど、部屋同士は丸太の階段で繋がってる。もちろん屋根つき。ネムネの樹液を塗ってあるから、ここで寝られるのは明日からだね。
「早めに終わってよかった。漣華さん、福丸さん、手伝ってくれてありがとうございます」
「なんの。この程度容易いわ」
「いつかもっと大きな家を建ててみるのもいいですね。町にあるような立派な家を」
「んにゃんにゃ、あんまり大きいとかえってもて余すからの。これくらいが丁度いいわい」
ふぬぅ、とイニャトさんが伸びをしたら、一足先に夕飯作りを始めてくれていたニャルクさんが呼びに来た。
「もう完成したんですね」
「はい、みんな手伝ってくれたんで」
仔ドラゴン達もわらわらついてきた。仔ライオンがいないから香梅さんのとこかも。おっぱいでも飲んでるのかね?
「夕ご飯できましたよ。材料があんまりにゃいんで代わり映えしにゃいですけど……」
「あ、ちょっとついてきてくれるかい?」
思い出したみたいにアースレイさんが言った。
案内されたのはお風呂に続く川で、川岸の木に紐が数本結んであった。アースレイさんとシシュティさんが1本ずつほどいて川から引き上げると、なんともんどりがついていた。
「もんどりですか。魚捕まえてくれたんですね?」
「モンドリ? って君の世界ではいうのかい? 父さんから習った罠なんだ」
そこそこ大きいもんどりの中にはいいサイズの魚が10匹ずつぐらい入ってる。よくこんなに入ったな。
「よし、これにゃら下処理すればすぐ食べられるのう。ほれ行こう」
「はいはい、アースレイさんにシシュティさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
『◎○◎○~』
もんどりから魚籠に移して家に持って帰る。途中シシュティさんにお尻を触られたから叩いてやった。お触り禁止です。
食事を終えたらお風呂の時間。兎人姉弟にはまた先に入ってもらった。違うのは私が緑織をお風呂に誘ったこと。ドラゴンとはいえ赤ん坊と一緒にいれば襲われまい。
「ニャオよ、ちとよいか?」
素直にお風呂の準備を始めた姉弟に聞こえないように、イニャトさんが小声で話しかけてきた。
「お前さん、昨日あやつらと何かあったのか?」
「あった、というかされたというか……」
正直に話すべきか悩んだけど、あんなにオープンにセクハラ働いてくるなら言ってもいいよね。てかもう知らね。
2人が仔ドラゴン達を引き連れてお風呂に向かったのを確認してからイニャトさんに向き直って、雇用契約のことと昨日あったことを全部話した。
「ふむぅ。にゃるほどのう。話を聞く限り、あやつらはお前さんを番にしようとしとるんじゃろうにゃあ」
「番って……。片方は同性ですけど?」
「うーむ。まあこの国は様々な種族が暮らす故、同性婚や異種婚、多重婚は認められておるからのう。それに、多重婚の場合は身内で番った方がうまくいくんじゃよ」
はあ、そうなのか。確かに私がいた世界にも一夫多妻とか一妻多夫はあったけど、あれは外国の話だしなぁ。同性愛も好きになったらいいんじゃない? って感じだけども、いざ自分が対象になったら考えるよね。
「で、お前さんはどうするんじゃ?」
「どうって?」
「あやつらが番いたいと言ってきたら受け入れるのか? 儂から見てもあやつらはよい伴侶ににゃると思うが」
伴侶て……。
「正直、わからないですね。出会ったばかりっていうのもあるけど、異種婚とか多重婚とか同性婚とか、私には未知過ぎて……」
「深く考えることはにゃいと思うぞ? 好きじゃと思える相手にゃら番えばいい。無理じゃと思うにゃら断ればいいし、迫られて困るようにゃらレンゲ殿にでも相談せい。一喝されれば諦めるじゃろうて」
そこまで話すと、仔ライオンがぽてぽて近づいてきた。イニャトさんが優しい手つきで頭を撫でる。
「どうした? 眠いんか?」
「みゃうぅ……」
あらら、目が半分も開いてない。
「そういえば、こやつの名前は決めたのか?」
「ああ、芒月にしようかなって思ってます」
指で地面に書きながら言った。
「ノヅキとにゃ? 意味があるのかの?」
「はい。これはススキって植物を表す文字なんですけど、ノギとも読むんです。で、こっちは空に浮かぶお月様って意味。おチビの色合いが月に似てるし、ススキっておチビみたいにふわふわしてるんですよ。だから、月とススキを合わせて芒月」
どう? と聞いてみれば、仔ライオンは真ん丸の目で見上げてきて、みゃう、と鳴いた。
「気に入ったようじゃぞ。よろしくのノヅキ」
「みゃうう」
返事をした芒月は、くわぁ、とあくびをした。もう限界かねぇ。抱っこして家に連れて入って、敷布団に置いてやると、そのままくうくう寝始めた。
「お風呂に入ったら寝るんで、よかったら先に寝てください」
「うむ、そうさせてもらおうかの」
芒月の隣に寝転んだイニャトさんもあくびをする。あれ、ニャルクさんどこ行った?
「あの、ニャルクさんは?」
「食事の後にフクマル殿についていったぞ。夜の見回りにつき合うと言っておった」
「何かあったんですか?」
「んにゃあ、ただの気まぐれよ。ニャルクはそういうところがあるからのう」
イニャトさんの口調がむにゃむにゃし始めた。お腹に毛布をかけて、ぽんぽんと軽く叩いてみれば、すぐに寝息が聞こえてきた。
家を出て、簾を下げてから地面に降りる。アースレイさん達はまだ帰ってこない。ちゃんとお風呂に浸かってるみたいだね。よしよし。
「ニャオ~、おふろまだー?」
木の根元でいびきを掻いてるバウジオの尻尾を噛んでいた緑織が近づいてきた。抱き上げて目線を合わせる。
「もうちょっとでみんな帰ってくるけえ、それまで待ってな?」
「いーよー」
緑織を抱っこしたまま夜空を見上げる。星座には詳しくないけど、輝き方は故郷と一緒だな。
まさか元の世界でも考えなかった結婚について悩む日が来るとは思わなかった。あの2人は好きな方だけど、夫婦になるとか、番になるとかは今は考えられない。というか、あの2人にとって今の私は刷り込みみたいになってるんじゃなかろうか。
今まで出会ったことのないタイプの人間だから気が向いてるだけで、運命として結ばれる相手が他にいる可能性だって充分あるんだし、すぐに答えを出すわけにはいかないな。そもそもほんとに番にしようとしてるかもわからないんだから。イニャトさんの勘違いかもしれないし。
まあ、まずは目先のことから片づけよう。明日から急いで収穫しないと。




